星組
マノン


2021年7月23日 / 7月25日
於・KAAT



セビリアの名門貴族の子息ロドリゴは、街で出会った娘マノンにひとめ惚れし、周囲の反対にもかかわらず彼女に入れ込み、道を踏み外していく。

20年ぶりの再演。瀬奈じゅん主演の初演も好きだったけど、今回のマノンも良かったです。 怖いもの知らずで突っ走ってしまう瀬奈ロドリゴとはまた違う、愛月ロドリゴが見られました。

ロドリゴ、愛月ひかる。 ロマノフ王朝を破滅に導いたり、皇后を暗殺したり、自分自身が死の化身だったりした人が、破滅に向かって一直線に突き進んでいく。 色濃い役も似合うけど、こういう白い役も実は似合うと思ってます。 抜群のプロポーションに豪華な衣装、格好良かったです。
本人がスカステで語ってた10代の青年って言うよりは、大学を卒業した20代に見えました。 何不自由ない生活が保証されてて、両親に愛されて真っ直ぐに育ってきた青年。 親や友人が言うことは分かるし、本来はもっと分別もあったはずなのに「出会って」しまった。 マノンに出会った瞬間に恋に落ちたのが分かりました。
考えなしに突っ走る若者じゃない感じが、ますます切ない。 もっといくらでもマシな選択肢はあるのに一番アウトな道を選んでしまうのが、本当にもどかしい。 1度マノンに裏切られて、2度目ももしかしたらマノンは公爵の元にいるんじゃないかと疑う気持ちを抱いてしまう。 それでもマノンを求め続けて、ロドリゴは本当に幸せだったのかなって思います。

マノン、有沙瞳。 悪女ってほど酷い女じゃないのだけど、ちょっとした態度や視線で男をその気にさせるのがうまい。 絶妙なファム・ファタールぶりで、さすがの演技力でした 彩乃マノンはどこまでも清純なお嬢さんぽかったけど、有沙マノンはちゃんと計算してる。 マドリードに行こうって誘うセリフ、初演にはなかった気がする。 あんな純真な愛月ロドリゴなんて、一瞬で落ちるってもんです。
ロドリゴのことを本気で愛してるみたいだけど、天性の浮気性と言うか、贅沢させてくれる男には簡単になびいてしまう。 自分でもそれを分かってて、最初ロドリゴと引き離されたときも、愛だけに生きるのは無理かもっていう揺らぎが見える。 すべて失って初めて愛が一番尊いって思ったみたいだけど、どうなんだか。

天飛華音のレスコーが、また上手い。 キャプテン・ブラックに続いて愛ちゃんを転がす役で、華もあるし、とても新公年次とは思えない安定ぷり。 お金と愛情はきっぱり分けて考えられるところとか、マノンと感覚がそっくりでさすが兄妹。 それでもロドリゴがどん底まで堕ちたのを自分の責任と考えたらしくて、最後ものすごく申し訳なく思ってるのが見て取れて、切なかった。 最期のセリフが「ロドリゴ」なのが納得できた。
実質2番手なのにプロローグの群舞では後列に入ってて、そこだけは年功序列がはっきりしてました。

そのほかの面々。

オリベイラ伯爵、大輝真琴。 厳しい中に息子への愛情が感じられて良かった。 2回目の観劇でのどを痛めてたらしいのが残念。

フェルナンド、輝咲玲央。 初演の矢吹翔がどこから見ても悪人風だったのに対して、優しい口調で話すのが意外だった。 マノンに指輪をたたき返されたときも、プライドを傷つけられたとかじゃなくて、ふられて傷心してた。

アルフォンゾ公爵、朝水りょう。 こちらも初演の夏美ようがどこから見ても悪人風だったのに、ちゃんと貴族らしかった。 庶民にコケにされてプライドを傷つけられた感じがよく分かりました。

ミゲル、綺城ひか理。 一応顔を立てて持ち歌が1曲プレゼントされたり、ショーでセンター踊ったりしてたけど、どうしても華音くんよりは目立たない。 壮ミゲルが淡白だったのに比べるとロドリゴに対する思いはしっかり伝わったけど、個人的にあかさんの芝居はいまいち響かない。

フィナーレのデュエットの真っ白な衣装の2人が幸せそうで、良かったねって思いました。 初演のマノンが若さゆえの盲目って感じで、あれはあれで幸せだったかもしれないって思えたけど、今回はもっと深い。 年次を重ねたからこそのマノンでした。