ジョイ 星組
My dear New Orleans
ア ビヤント


2009年3月28日
於・東京宝塚劇場
ルル


 「My dear New Orleans」
 ニューオーリンズの貧民街に生まれ育った混血児のジョイは、黒人の血が混じっているということで受ける不当な差別に苦しみながらも、歌うことに生きる希望を見つけ出す。ただ1人愛した女性と結ばれることはなかったが、彼女への想いを歌にこめて、前向きに生きていくことを選ぶ。

 ストーリーそのものは何てことないのだけれど、「ここが自分の故郷。苦労もあったけれど、多くの愛に包まれていた。新しい道に進む自分の後は、次の世代に託す。」と、とにかくさよなら公演ぽくて、心に残るラストでした。
 「電車に乗り間違えてしまった」という言い回しが、「欲望という名の電車」の冒頭のフレーズを思い出させて、結局は「墓場」で降りるしかないのか、「極楽」に行けるのか、象徴的です。ブランチは不幸に終わってしまったけれど、ルルは案外幸せだったのでしょうか。

 ジョイ、安蘭けい。貴族や爽やかな白い役よりも、ダークな野心家や、かげのある役が似合いのとうこちゃん。今回のジョイは、野心家ではないけれど、厳しい現実から逃避することなく、自分の道を切り開いていく青年で、ジャズシンガーという設定も、とうこちゃんに合っていました。歌声に説得力があるので、それだけでも充分。本当に心にしみます。

 ルル、遠野あすか。ジャパネスク調のドレスがエキゾチックな印象をかもし出していて、単に美人というのではない色気とか存在感を感じます。あすかちゃんは独特のオーラがあるので、こういう役はぴったり。
 子供の頃の貧しい暮らし、みじめな思いは2度としたくないので、愛人という立場は失いたくない。でも、ジョイに対する恋心も捨てがたい。自分ひとりだったらジョイのもとに行ったかもしれないけれど、家族を見捨てることができなくて、結局はジョイのもとを去ってしまうのが哀しい。

 ルルの弟レニー、柚希礼音。ちんぴらだし、シスコンだし、いけてない男。お姉ちゃんが悲しむと分かっていても悪事を行ったり、ジョイに対して「お姉ちゃんはお前の事は遊びだった」と言ってみたり。そういう言動をとった後で心が痛むなら、最初からやめればいいのに。
 トップになると汚れ役が回ってくることは少なくなるだろうけれど、礼音くんの悪役や敵役はもっと見たいです。

 ムッシュウ・アンダーソン、立樹遥。ギャングのボスというようなキナ臭さは感じないので、青年実業家?愛人を連れて、街でも顔をきかせているようだから、堅気とは思えないけれど。ちょっと微妙です。ルルに対しては、結構本気で惚れているようだけれど、金の力でつなぎとめておくしかない悲しさがもっとあってもよかったかも。

 ゲイブ、夢乃聖夏。身重の奥さんと堅実に生きていたのに、一転して恐喝容疑で射殺されてしまって、気の毒な人。あまりにやるせなくて、思わずオバマさんに「change」と叫んでもらいたくなりました。
 景子先生は、赤ん坊に未来を託す設定がお好き?銀橋のシーンは、ちょっと長く感じてしまいました。

 ショー、「ア ビアント」
 取り壊されたレビュー小屋に、ひと夜限りの夢の舞台が繰り広げられる。これもさよなら公演らしいショーで、平常心では見られません。

 劇場にすむ妖精が礼音くん。流れるようなダンスは妖精らしいけれど、フェアリータイプではないので、ビジュアルは微妙。
 礼音くんの姿に魅せられて、鏡の中から現れたのは、礼音くん自身の影?それとも劇場にすむあやかし?ここの礼音くんとあかしくんのデュエットが妖しくて素敵で、食い入るように見てました。
 とうこちゃんと礼音くんのデュエットは、トップさんを見送る次期トップという、まさにさよならなダンスなのだけれど、これがぐっとくるのです。礼音くんも辛そうで、そこまで辛そうな顔をしてこらえるなら、いっそ泣いてくれた方が見ていて楽なくらい。
 カンカンは楽しくて、盛り上がります。あっという間に終わってしまったように感じました。