オスカル 星組
ベルサイユのばら


2001年8月28日
於・宝塚大劇場
マリー・アントワネット




 東京公演のチケットをとれなかったので、今回でノルさんは退団だし、後悔したくないので、またも日帰り宝塚観劇ツアーをしてしまいました。 前回より少し時間に余裕があったので、劇場に併設されているミュージアムで過去のお衣装やビデオを見て、開演まですごしました。 ベルばらのお稽古シーンのビデオも流されていましたが、さすがお稽古着でもさまになっていて、つい見入ってしまった。 今回のベルサイユのばらはオスカルとアンドレ編。私はこのバージョンはビデオでしか見たことがないので(正しくは雪組のアンドレ編)、実際に見るのは初めて。

 幼少期のオスカルとアンドレの出会いから、剣の稽古をつけているうちに成長した2人に入れ違うシーンは上手くできていると思ったけれど、お父さんとお姉さんたちの台詞があまりにも説明台詞すぎて、聞いていてちょっとつらかった。 毎回思うけれど、説明台詞は原作を知っている人にとっては退屈だし、知らない人にとっては説明を詰め込みすぎて何を言っているのか分からなくなるし、なんとかならないものだろうか。

 宙組同様、ジャンヌはいなくなっていた。同時にポリニャック伯夫人もいなくなっていた。 モンゼットやらシッシーナやらというご婦人たちを出すくらいなら、ポリニャック夫人を出してもいいと思うのだけれど。 このご婦人たちがキャーキャー言うのは、そろそろ食傷気味。せめてもう少し時間を削ってもいい気がする。

 全体に原作のエピソードがずいぶん追加されていた。ベルナールに連れられてオスカルたちがパリの街を見に行くシーンは、民衆たちが迫力あってよかった。 最近の宝塚は、こういう群衆シーンが上手いと思う。ベルナール役の久城彬も、ハートフルな感じでよかった。これで退団かと思うと残念。

 フランス衛兵隊の兵士たちがだらけて歌っているシーンも、結構面白かった。 格好いい兵士というのは定番だけれど、オスカルにセクハラしてしまう兵士というのは貴重かも。 衛兵隊の中でも、アラン役の真飛聖が存在感あってよかった。ただ、みんなで子守唄を歌うって言うのはどうだろう。 オスカルは母性を売りにしている人ではないのだから、もう少し違う方法で荒くれ野郎どもを手なずけてもいいのでは・・・

 原作通りに話が組み立てられていくのは、原作のファンとしてはうれしいけれど、エピソードが多すぎて舞台がとぎれとぎれになっている気がした。 台詞もコミックスのまま引用しているのだけれど、特にオスカルが早口で台詞が聞き取りにくかった。 原作からあまりにはずれるのは嫌だけれど、舞台には舞台のアレンジがあっていいのだと感じた。 今回、原作に忠実な部分と、昔ながらのオリジナルの部分がうまくなじんでいなかったように思う。

 ジェローデルが市民に味方したオスカルを責めて叩くシーンが、あいかわらず残っていた。 せっかく原作のエピソードに忠実に話を進めているのだから、それはやめて欲しかった。 ジェローデルは、絶対に貴族を裏切って民衆の側につくことはできない人だけれど、オスカルを責めるくらいなら、自分が他の貴族たちから総バッシングを受けてもオスカルのしたいようにさせるはず。 それなのに、オスカルを叩くなんて!(実は私は、密かにジェローデルのファン。超お貴族様で、きっと一生幸せにしてくれそう。) 夢輝のあのジェローデルは、オスカルに告白するシーンも身を引くシーンも、なんだか本当にオスカルのことを愛してる?と聞きたくなる。 一瞬オスカルが心揺れるような、包容力ある大人の魅力がほしいと思うのだけれど。

 安蘭けいのフェルゼンは、星奈優里のアントワネットの相手には少し物足りなかった。 アントワネットの恋人で、オスカルの憧れの人というには、普通過ぎるというか。 私がこれまで見てきたフェルゼンが(日向薫、和央ようか)、みんな特別細身の長身で、立っているだけで思わず見とれてしまうようなタイプだったので。 フェルゼンは2人の女性が一目惚れするわけだし、そこにいるだけで見る人の目を奪わずにはいられない、貴公子でいてほしい。 トウコちゃんに貴公子ということが、無理があると思う。

 オスカル編なので、アントワネットとフェルゼンのシーンは少なかった。 シーンが少ないからというわけではないだろうけれど、アントワネットとフェルゼンの愛が浅い気がした。 いつかは2人は別れる運命なのだからと、2人とも距離をおいているように感じた。 2人が「愛あればこそ」を歌うかわりに「愛のおびえ」をデュエットしたのも、さらにそう感じさせたのかも。 特にアントワネットは、フェルゼンが別れの挨拶をしにきたときにも涙ひとつこぼさない気丈さで、すがったり取り乱したりするのは王妃らしくないにしても、もうちょっと感情を出してもいいのに。

 それから、アントワネットの台詞で非常に気になったところ。 貴婦人たちに、フランス国民の96%は平民なのだと語った台詞。 オスカルが、ベルナールの影響でそう話したとしても、アントワネットは絶対にそういう考えはないはず。 たとえ4%しかいなくても貴族と僧侶がフランスの全てで、その貴族たちを守ればフランスは栄えると信じて疑わないのが、アントワネットが女王たる所以でしょう。 王太子が国王の子でないという噂にプライドを傷つけられ、オスカルとの約束を違えてでも、民衆に攻撃を仕掛けさせたアントワネットのほうが、よほどアントワネットらしくて毅然としていてよかった。

 主役のオスカルとアンドレも少しドライな感じがした。 オスカルが、アントワネットとフェルゼンの逢瀬を見てやけ酒を飲むシーン。 アンドレにひざを貸せと言うのが、つっけんどんな命令口調に感じた。 この頃のオスカルにとってアンドレは恋愛対象ではないけれど、自分のそばにいて安心できる男という意識はあるのだから、もう少しやさしい口調でもいいのに。

 オスカルとジェローデルの結婚話が持ち上がり、オスカルと心中しようとするアンドレ。 毒杯を飲もうとするオスカルをとめるのに、その場で飲むなと叫ぶだけと言うのも、どうだろう。オスカルを突き飛ばしてでも、グラスを手放させないかな。 ノルもタータンも、甘い色気を持つタイプではないので、どうしてもクールに見えてしまう。 いつも存在感たっぷりのタータンだけれど、アンドレの存在感はあまり感じなかった。

 戦闘前夜、私室でアンドレと過ごすオスカルは、急にたおやかになっていた。 昔のベルばらのように女言葉を使うわけではないけれど、それまでのクールなオスカルに比べるとかなり女女していて、私の思っているオスカルとはちょっと違った。 最後までクールなのも寂しいけれど、もう少し一貫性があってもいいのに。

 戦場で息を引き取ったオスカルを、アンドレが白いペガサスの引く馬車に乗って迎えに来る。 白いペガサスというのがノルちゃんのシンボルそのままで、最後にふさわしかった。 できれば、一度はけてせりで上がってくるのではなく、昔のように息絶えたその場所に、アンドレに迎えにきてもらいたかった。

 残念ながら、今回のオスカルとアンドレ編は、宙組のフェルゼンとアントワネット編ほどの完成度を感じなかった。 それから、ノルちゃんのさよならなのにぶんちゃんがいない。これは星組をずっと見てきた私には、とても寂しかった。