龍星 星組
龍星

2005年10月18日
於・日本青年館
霧影


 宋の皇帝の側室の子として生まれた龍星は、生まれてすぐ正妻に命を狙われる。皇子の身を案じた宰相は、自分の子、霧影(むえい)と龍星を密かに取替えて育てることにする。だが、皇后の陰謀により、龍星(実は霧影)は敵国、金に人質として送られてしまう。
 金の将軍は、送られてきた龍星を監禁し、無名の戦争孤児を龍星として扱い、将来宋に戻ったときに密偵となるべく教育する。皇帝が崩御し、流星(実は戦争孤児)は宋の新皇帝に即位する。新皇帝の即位に伴い、宰相の子、霧影(実は龍星)は宋の密偵として、金に送り込まれる。
 登場人物がこんがらがっていて、最初は誰が誰だか?が飛びかってしまったけれど、段々ストーリーに引き込まれていった。

 安蘭けい。龍星、実は金の密偵として育てられた戦争孤児。五右衛門や小五郎もそうだったけれど、こういう影のある役は本当にはまり役。目力、存在感、引き込まれるようなすごいオーラを放っていました。他人を信じない暗い眼をして、心の中は寂しさでいっぱい。
 「闇を裂き、天翔けよ。朕は皇帝なり。」この決め台詞が、1幕と2幕の終わりでそれぞれ使われるのですが、心理状態の違いの演じわけがとても上手い。宰相を手にかけ、一族すべてを皆殺しにしても、もう後戻りはできない。自分に与えられた皇帝という地位を貫こうとする、強い意志の1幕。反対に、全てを失って希望もない虚無の極みで、それでも皇帝として生きるしか道はない、哀しい叫びの2幕。同じ台詞がリフレインされるだけに、余計に見ていてつらくなります。
 最初は悪役キャラなのかと思っていたら、「自分の名前が欲しかっただけ」。運命に翻弄されて、本当に可哀想な人でした。ラスト号泣してました。
 流星をイメージしたようなプロローグ&フィナーレは好きでした。ただ龍星としての存在感が圧倒的だった分、ショーで笑っているとうこちゃんに違和感を感じてしまった。

 流星の妻、砂浬(さり)の南海まり。ヒロインのはずが、個人的には印象が薄い。可愛く演じすぎるというか、孤独な龍星の支えだったはずなのに、とてもじゃないけれど支えになってない。敵国に人質としてとられ、祖国を滅ぼされ、見も知らない皇太子の妻とされ、それでも弱音をはかない女性。憎い仇と思っていた龍星を、実は愛していたと気づき、最後は龍星の腕の中で息を引き取る。いい役なのに、ヒロインとしての力不足が気になって、ラストシーン少ししらけてしまった。
 龍星と砂浬のラブシーン。キスも噛みついているように見えたし、ベッドを共にしていると思われる間が間延びして見えて、ちょっと変だった。とうこちゃん、色っぽいシーンは苦手かな。

 霧影(実は本当の龍星)の柚希礼音。主役かと思うくらいいい役でした。相思相愛の恋人もいるし、派手な立ち回りもあるし、2幕ではちえちゃん中心に話が進んでいた。堂々とした存在感と、のびやかな演技が好感持てます。アラン・ダランのお笑い2人組との掛け合いも憎めない。立ち回りも格好よかった。
 難をつけるとしたら、金の李将軍に正体がばれたかと焦るとき、そんなに顔に出るのはどんなものかと。仮にも密偵として完璧に任務を遂行してきたのなら、そういうときにも飄々としているのでは。人のよさそうなお坊ちゃんという雰囲気が憎めなくて、まあいいかと思えるのですが。影のあるとうこちゃんの龍星と、好対照をなしていました。

 霧影の恋人、花蓮(かれん)の陽月華。霧影の恋人というか、戦友にしか見えない気の強い女性。もうちょっと女性らしくてもとは思うのですが、霧影くん、やることはやってたんですね。子供できてました。ストーリーの中で、子供が必要かどうかはちょっと疑問ですが。
 うめちゃんも殺陣が多かった。ちえちゃんとの手合わせは、迫力あってスムーズで、練習したんでしょうね。身のこなしがきれい。

 殺陣シーンは、どこもとても迫力ありました。特に1幕、太鼓にあわせての戦闘シーンが格好よかった。

 李宰相の磯野千尋、黙って立っているだけで存在感が格好いい。烏延(うえん)将軍の星原美紗緒も、さすがです。専科さんが重要な役を固めていると、話が薄っぺらく見えなくていい。
 皇帝の高央りおは、高貴さも存在感も感じられなくて、この役も専科さんだったらよかったのに。諸悪の根源と言える皇后の朝峰ひかりは、憎々しげでよかった。
 実は密かに一押しだったのが、飛雪(ひせつ)の彩海早矢。龍星に忠誠を誓って、常にそば近く控える、腕の立つ側近。目つき悪くて、こういうキャラは大好きです。ちょっと音子ちゃんを思い出しました。

 ストーリーのラストは、霧影には生きていてもらいたかった。花蓮のもとに戻って皇帝として即位しなくてもいいし、戦勝者として宋を支配してもいいけれど、あんなにあっけなく死ぬのは残念。せめて、龍星になにか思いを託して死んでいくとか・・・。2幕はかなり礼音ビジョンで見ていたので、肩透かしな最期でした。とうこちゃんのあの迫力のラストは、それはそれでとても良かったのですが。

  これだけはやめて!と思ったのが、ちえちゃんの最初の山吹色の衣装。あの色は、中国では皇帝のみに許された色。ちえちゃんが龍星であることは絶対の秘密なら、間違えてもあの色だけは着せないで!
 ちょっとした疑問。龍星も霧影も、自国への報告はどうやっていたのか?李宰相が亡くなったことを、宋の密偵である霧影が知らないのは変では?腕を切られた赤ん坊が、全然泣かないのっておかしくない?いろいろあるけれど、ストーリー展開ととうこ&ちえちゃんの魅力のほうが勝った感じ。