青 い 青 い 空

 

書道ガールズ!! :わたしたちの甲子園

 

「ストロベリーフィールズ」で感動の嵐を巻き起こした太田隆文監督が、またしてもやってくれました。しかし「ストロベリー‐」とは違い、今回は誰も亡くなることはありません。悲しみとは違う、爽やかな涙が全編を覆う感動作です。

内容は書道を通して友情、そして親子や師弟の絆を育んでいく女子高生たちの物語というところです。「書道」といえばこの「青い青い空」の公開の数ヶ月前に、「書道ガールズ:わたしたちの甲子園」なる映画が公開されました。同じ書道を題材にした作品ではありますが「青い‐」が企画から何年も経ってようやく完成にこぎつけたのに対して、「書道ガールズ」は企画から数ヶ月というハイペースで製作され、「青い青い空」よりも先に劇場公開されてしまいました。しかもこの映画、某テレビ局が製作に関わったおかげで、製作費も「青い‐」よりかかっています。
しかし「書道ガールズ」はまったくヒットしない、散々な結果に終わりました。何故この映画がダメだったのか?「青い青い空」と比べてみると分かります。
「書道ガールズ」の主役メンバーとなるのは5人の女子高生たち。その役を成海璃子や桜庭ななみや山下リオといった、テレビやグラビアで人気のある若手女優が演じています。
それに対して同じ女子高生という役柄、しかも同じ5人である「青い青い空」の主役メンバーは、それほどメジャーな作品に出ていません。せいぜいみさと役の草刈麻有がCMやBSのドラマで顔を見せているくらいです。映画が始まった当初はこの草刈が結構目立っているのですが、話が進むにつれて相葉香凛(かりん)演じる真子が主人公らしく、だんだんキラキラしてきます。内向的な少女が自己を主張し始め、輝きを増して成長していくさまを、相葉は驚くほど魅力的に演じています。映画の始めとラストの彼女を比べると、別人に見えるかもしれません。
相葉と草刈以外の3人・橋本わかな、田辺愛美、平沢いずみは脇役的なポジションではありますが、橋本わかな演じる三美子は中盤であっと驚かされ、大いに泣かせてくれる名シーンがあり、その前の「コロッケ」のシーンでもいい味を出しています。田辺愛美演じるトン子はコメディリリーフとしてホッとさせてくれるし、平沢いずみ演じるミチルは真子たちに反発しながらも気にしてしまうライバル的な立場で、みんないるのが当然と見える輝きを見せています。
しかし「書道ガールズ」の少女たちには、このキラキラも成長もあまり感じられません。成海も桜庭も他のドラマやCMで見るキャラクターとあまり変わらない感じで、いかにもただの「お仕事」といったように演じていました。ライバル的な立場の山下リオも、かなり強引な設定でした。こんなキャラクターたちでは、観客にはあまり印象に残らないことでしょう。

「青い青い空」で少女たちを導いていく教師・八代を演じるのは、波岡一喜氏です。この人は「HERO」や「ギルティ」といったTVの連ドラや、「十三人の刺客」や「YAMATO」といった映画など、数多くの作品に顔を見せています。ただ顔がいかつい感じのせいか、大方は悪役のようなクセのある役が多いようですが、この「青い青い空」では生徒たちを見守り引っ張っていく熱血教師として、笑い怒り叫び泣きといった、ちょっとしか出ない連ドラや映画では見られない多彩な表情を見せています。この人は太田監督の前作「ストロベリーフィールズ」でも主人公たちを思いやるキャラクターを好演していましたが、今回はその時以上に、他では見られない魅力と実力を爆発させています。
さて「書道ガールズ」にも八代のポジションに当たる教師がいました。やたらとゲームばかりやっているキャラクターでしたが、奇をてらいすぎて何を考えているのかよく分からないキャラクターでした。演じていたのがミュージシャンの金子ノブアキというよく知らない人だったのが、キャラクター像の不明瞭さに拍車をかけていました。

「青い青い空」で八代先生と対立する「敵」として映画を盛り上げるのが、教頭先生を演じる塩見三省氏です。この人は「GO」なんかでも教師役で出ていたりして、コワモテの役が多いイメージがあるせいか、他のキャストに比べるといつもと同じ感じがして目立たない印象がしてしまいました。しかし実は、そのコワモテな存在感が映画を引き締めているように見えました。この教頭先生が単なる分からず屋ではなく、この人にはこの人なりの、子供たちへの思いが出ているのも映画のいいところです。ラストにもホッとさせられました。
「書道ガールズ」にも、この教頭先生のような「敵」にあたるキャラクターがいないことはないのですが、すぐ消えてしまいます。だから今一つ、盛り上がりに欠けるのでしょう。

塩見氏以外にも、「青い青い空」の脇役では鈴木砂羽や袴田吉彦といった、テレビでよく顔を見る俳優や、松坂慶子や長門広之といった重鎮が顔を見せています。松坂慶子のシーンなんてそんなに長くありませんが、しっかり泣かせてくれる演技を見せてくれています。
「書道ガールズ」は主役こそ成海や桜庭などそこそこ名の知られた女優を起用していますが、脇の方で名の知れた人といえば宮崎美子くらいで、松坂クラスの有名俳優も出ていません。これで「青い‐」よりお金がかかっていた、というのが信じられません。

「書道ガールズ」でお金がかかっているように見えないのは、役者だけではありません。
「書道ガールズ」も「青い青い空」も、クライマックスは書道パフォーマンスの大会です。そして「書道ガールズ」のこのシーンでは、あるアクシデントが発生することで盛り上がることになります。しかし「青い‐」ではそんなアクシデントなど一切ありません。
ここでは主題歌を一切カットすることのないフルコーラスの長さを、書道パフォーマンス一本で見せています。「書道ガールズ」のような、奇をてらう演出なんぞ一切しない「真っ向勝負」という感じですが、それで十分に見れるだけでなく、涙まで誘われてしまうのには驚嘆でした。演出と編集の上手さと歌の良さももちろんあるのですが、主演の少女たちの書道への真摯な思いが現れたことが、感動を呼んだのではないかと思います。会場での彼女達の筆使いには凄い力強さを感じたのですが、「書道ガールズ」にはそんな印象は受けませんでした。
「書道ガールズ」のクライマックスは、僕が大泣きした某ディズニー製作のスポーツネタの映画と同じパターンであったせいか、泣いてしまいました。しかしここで起こる「アクシデント」は、書道をやっている人たちから見ればあり得ないそうで、いかにも作りましたという匂いがプンプンしています。こんなもので泣いてしまったのが恥ずかしくなりました。
しかもこのクライマックスの舞台、「青い青い空」は市のホールなのに対して、「書道ガールズ」は学校の体育館です。「書道‐」の方がお金があるはずなのに。サブタイトルの「甲子園」にふさわしいのは、どっちの会場でしょうか?

「青い青い空」の中では書道ネタの作品らしく書道の身近さ、そして筆や紙に関してのうんちくが語られます。一方「書道ガールズ」も同じ書道ネタの作品なのに、そういったことには触れもしません。「書道」のタイトルをつけながら、その魅力に触れないのはヘンでしょう。おそらく「書道ガールズ」は製作を急いだために、リサーチの時間が無かったのではないかと想像します。こういう部分でも、「青い青い空」がいかにちゃんと調べられて作られているかが分かります。

「書道ガールズ」は四国中央市が舞台ですが、千葉でも撮っていて、東京に近い場所で撮って安く上げようという魂胆が見え見えです。しかし「青い青い空」は、舞台となっているオール浜松ロケです。そのせいか映画には役者たちが実際の舞台に立っている、空気感のようなものが出ているように見えました。もちろん「ストロベリーフィールズ」の時のように、何気ない風景を絵にしてしまう太田監督の力量も凄いのですけど。

「青い青い空」のタイトルは、「書道ガールズ」に比べると内容の想像がつかなくて、ピンと来にくい印象を受けましたが、クライマックスでその意味が分かります。
「青い青い空」の企画当初は、こちらの方が「書道ガールズ」というタイトルをつけていましたが、後発の某テレビ局に申し訳程度のようなサブタイトル「わたしたちの甲子園」をつけただけで、強引に使われてしまいました。しかし結果的に、そこが作った「書道ガールズ」はヒットしなかったので、同じタイトルをつけてしまったとしたらかえってこの、ヒットしなかった映画と混同されるかもしれないのも困りものでしょう。これまで書いてきたように、「青い青い空」は「書道ガールズ」なんぞより「格が違」いますから。

 

 


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