まだ見ていない人

CG映画の大傑作、「トイ・ストーリー」を作ったPIXER社の最新作です。この会社は「トイ・ストーリー」以外でも、短編のCGアニメを何本か作っていますが、アカデミー賞を受賞した「Tin Toy」や「Geri's Game」など、どれもいいクオリティで外しません。
今回の「バグズ ライフ」も、ストーリー展開のスムーズさ(ノリ)といい、伏線の生かし方といい、キャラの性格の描き分けといい、これらの作品と遜色の無い、高いレベルを保っています。
どの虫のキャラにしろ、表情の出し方が抜群にうまく、PIXERのスタッフにはアニメーターが多いという話は納得が行きます。昨年、アカデミー最優秀短編アニメ賞を受賞した「Geri's Game」(老人が公園で一人チェスを、二役のように対称的なキャラクターで演じる話)はキャラの表情に重きを置いた作りだと感じましたが、これで得られたノウハウが「バグズ ライフ」に生かされたのだと思います。
悪役バッタ軍団(ヤクザ集団と言うべきか)のリーダー、ホッパーがただのバカではなく、ちゃんと彼なりの考えを持って行動している描写は、このキャラに知性を感じさせる上手い演出です。ケビン・スペイシーによる、控えと爆発のポイントを押さえた演技もその性格付けに大いに貢献しています。
またバッタ達に関しては、その質感と動きがとてもリアルに感じました。バッタの体の硬さや、後ろ足に重きを置かせた歩きなど、バッタが立ったら本当にこんな動きをするのではないかと思わされました。
質感といえば、主役であるアリ達の質感はバッタ達ほどリアルには感じませんでした。しかしそれが悪いというわけではなく、アリ達の質感もリアルにしてしまうと、本物の虫に近すぎて虫嫌いの人たちなどにはかえって気持ち悪さを与えてしまうかもしれません。だからこそ悪役であるバッタ軍団の方はリアルな質感を求めた、というキャラクターデザイン面での作戦も考えられます。
同じコンセプトは、虫達の足の数にもいえるかもしれません。主役のアリ達の足は人間を思わせる、両腕と両足の4本ですが、バッタ軍団の方は本物の虫と同じ6本です。観客が主役に親しみを持ってもらうためにこのデザインを採用したと考えられます。
この「バグズ ライフ」は、アリが主人公のフルCG作品ということで「アンツ」と比較されると思いますが、2作の共通点はアリが主人公のフルCG映像という点だけで、話の内容も絵の描写の方向性も別物で、どちらが優れている、という比較はナンセンスでしょう。むしろこれらの違いから、どちらが好きかと、人によって好みが分かれると思います。
顔の造形や表情を人間に近づけ、声をあてている出演者に似せてリアルさを出した「アンツ」と、顔の造形や表情をアニメタッチにして、デフォルメの面白さを求めた「バグズ ライフ」ではCGの使い方がまるで異なります。
ただ私見からいうと「アンツ」は、キャラがリアルなゆえに、見た目は人間がアリの皮をかぶったような気持ち悪さを感じ、とっつきにくいイメージがするので、話を見てみると面白いものの、そこに行くまでに引いてしまう感じがします。それに対し「バグズ ライフ」はキャラをアニメタッチにしたことで見た目がかわいい、優しいイメージになり、とっつきやすい(特に日本人はそうかも)感じがします。その証拠に「バグズ ライフ」の客層は女性やカップルが目立ちました。グッズやフィギュアの売り場に女性が多かったのも、かわいい系のキャラであるからこそだと思います。
映画ファンにとってのこの作品の一番のお楽しみは、エンドクレジットが流れてからの映像です。本編が終わっているのにわざわざこういうシーンを作ってしまうなんて、このスタッフは映画が大好きなんだろう、ということが伝わってくる嬉しいシーンです。

 

 

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アリが虫の用心棒を集めに行く、という話の展開がすでに「七人の侍」を思わせますが、クライマックスで雨が降るところ(ただしアリの世界なので、細かい水がザーザー降るのではなく、大きな水玉がドボッドボッと落ちてくる)もそれを意識したのではないかと思わせます。用心棒が実はサーカス団だった、というところは「サボテン・ブラザース」(お勧め!)を思わせます。そういえば、音楽担当のランディ・ニューマンは「サボテン・ブラザース」でも音楽をやっていました。
「バグズ ライフ」で起用された有名なキャストはせいぜいケビン・スペイシーくらいで、後はあまり名が知られてない人が多いです。そのケビン・スペイシーだって、超有名とは言えないし、マデリン・カーンなんて知ってる人がどのくらいいることやら。キャラの声に有名人を多数起用した「アンツ」に比べ、「バグズ ライフ」ではキャストよりもキャラそのものに重点を置いたことがうかがえます。

 

 


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