天　使　と　悪　魔

「ダ・ヴィンチ・コード」で活躍したラングドン教授が、ヴァチカンで暗躍しだした秘密組織「イルミナティ」にまつわる事件に巻き込まれる物語です。
お話には時間制限があるせいか、「ダ・ヴィンチ・コード」よりストレートな展開で分かりやすく、退屈しません。ただ始めのうちは壮大な歴史ミステリーと思いきや、最後にネタが分かると、なーんだぁ、と言いたくなりました。
前作は最後、ルーブル美術館の地下にまつわるくだりが感動的でしたが、今回はラストの、ストラウス枢機卿役のアーミン・ミューラー・スタールの表情にウルッ！ときました。

お話には「ダ・ヴィンチ・コード」は関係しないし、続投のキャラはラングドン一人だけなので、前作を見ていなくても話についていけるはずです。
でも前作を見た人ならたぶん、ラングドンにまた会えたことは嬉しくなるかもしれません。トム・ハンクスはラングドン教授役が完全に板についた感じで、昔はコメディをやっていたのが信じられないイメージです。本人もライフワークにしたがっているようで、この先も続けてもらいましょう。

反物質（「スター・トレック」だ！）を作り出し、映画のように小さな容器に閉じ込めることは現代の技術ではまだ不可能で、この点に関してはヨタ話ではあるでしょう。ただ映画では反物質の光を「創造の光」としていることで、科学と宗教をテーマとして浮かび上がらせる道具になっているので、設定としてはアリでしょう。ただこの面白いテーマが、結局尻すぼみになってしまうのは残念でした。

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ルーヴル美術館内で館長の死体が発見され、周りには不可解な図像が残されていた。ファーシュ警部（ジャン・レノ）はパリに滞在していたラングドン教授（トム・ハンクス）を現場に呼び出す。そこに来た館長の孫で、暗号解読官のソフィー（オドレイ・トトゥ）から犯人の疑いを掛けられていると知ったラングトンは、館長の暗号の意味に気づき、２人はファーシュから逃げつつ、その暗号の指し示す謎の解明を始める…。

世界的にベストセラーになった小説「ダ・ヴィンチ・コード」の映画化です。
内容が、これまで一般的に信じられてきたキリスト教と違う面を描いたことで賛否両論出たせいか、映画化は世界的に話題になり、公開のニュースは多くの新聞やTVに取り上げられました。「スター･ウォーズ」のようなシリーズものを除いて、近年こうも話題にされた映画は珍しい例でしょう。
しかし映画の出来は、その話題性の大きさに相応しいとは言えません。
初公開となったカンヌ映画祭でのプレミア上映では不評だったそうですが、その通り、映画は謎解きだけでせいいっぱいのお話になってしまいました。主人公ラングドン教授の歴史に対する想いというような、キャラクターのドラマが何も無く、彼らはただの狂言回しです。その謎もただ呈示されるものを追いかけるだけで、謎解きのワクワク感なんかは、「レイダース／失われたアーク」ほどはありません。

まあそれでも、あの長い原作をテンポ良くまとめているとは言えます。歴史を再現したシーンは金のかかった「その時歴史が動いた」みたいで豪華さがあったし、ラストシーンだけはちょっとロマンが感じられて、感動的ではありました。
ただシオン修道会とかオプス・デイとかの関係なんかは分かりにくいところがあったりして、キリスト教の歴史に興味が無い人には、見ていて辛いでしょう。
１本ではなく、「ロード・オブザ・リング」のように何部作に分けるか、TVシリーズで作った方がもっといい出来になったように思います。

カンヌ映画祭でのプレミア上映では「失笑が漏れた」という箇所があったそうです。でもそこに関しては、話の流れの上では妥当に思えて、別に笑う気にはなりませんでした。
しかし、犯人と疑われて逃げてるのになんで聖杯を探すことに変わるのか？殺された館長が撃たれてるのにわざわざ暗号を書きまわっていたとか、突っ込みたくなる箇所はいくつかあります。
この物語で語られる歴史のネタはこういう風に、殺人とかを絡めたドラマにしたのが無理やりな感じがしてしまいました。僕がこの「ダ・ヴィンチ－」のネタを知ったのは、映画公開の１年くらい前に放送されたフジテレビでのドキュメンタリー番組で、これには興奮しました。同じフジで映画公開の１週間前にやったドキュメンタリーもそこそこ面白かったし、このネタはドキュメンタリーの形でやった方が納得のいく構成になったかもしれません。ただ売り方としては小説の方が読みやすいだろうから、話題を呼んだのかもしれませんが。

オドレイ・トトゥの英語はそれなりに上手く聞こえました。でも映画の大方の舞台がヨーロッパなのに、英語をしゃべるキャラが多すぎじゃないかなあ…。

ロン・ハワード監督の作品としてはやはり、これの前の「シンデレラマン」の方が遥かにいい出来です。シナリオライターも同じアキヴァ・ゴールズマンですが、あっちの方が彼らの情熱が感じられました。「ダ・ヴィンチ・コード」はシナリオ通り、無難に「仕事」をこなした感じです。
話題になったおかげでこの映画はヒットはしているから、今年の興行成績は１位になるかもしれません。でもそんなに早く見る価値は無いし、DVDで十分でしょう。

ポスターにはモナリザが出ていますが、話にはほとんど関係ありません。人寄せパンダか…。

すでに見た人

「レイダース／失われたアーク」の３作目「インディ･ジョーンズ／最後の聖戦」もこの「ダ・ヴィンチ・コード」と同じく、「聖杯」を探す話でした。でもこの「最後の聖戦」が「レイダース」と違い、ワクワク感が無かったのは「ダ・ヴィンチ・コード」と同じです。

ディスカバリーチャンネルで放送した「もう一つのダ・ヴィンチ・コード」によれば、映画でダヴィンチ、でなくてレオナルド（「ダヴィンチ」というのは「ヴィンチ村の」という意味だそうで、レオナルドというのが正しいそうな）が発明したと語られている暗号装置クリプテックスは、ダヴィンチの書き残したノートには実際は無いそうです。またこの暗号の解読に失敗したら、中に入ってるパピルスの文書が酢に溶けてしまうことになっていますが、実験してみるとパピルスの文書は酢になんぞ溶けない結果になっていました。シオン修道会も公式に登録されたのは1950年代だそうで、この物語は以外にヨタ話なのかもしれません。
真実はどうなのか？「マグダラのマリアはイエスの妻だったと思うか」との記者の質問にトム・ハンクスは「僕は直接見てないから分からない」と答えたそうですがその通り、正確なことは誰にも分からないことです。
小説にしろ映画にしろ、この「ダ・ヴィンチ・コード」が作られた意義は、マグダラのマリアやイエスの子孫がどうだということよりも、従来のキリスト教や権威が教えてきた通史に、「歴史を疑え！」と異議を唱えたことかもしれません。

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