「歴史はドラマだ」という言葉は、司馬遼太郎の小説や「三国志」が好きな人なら分かると思いますが、「エリザベス」はまさにその言葉を体現しています。
イギリス王室を舞台に、処刑寸前だった少女エリザベスが一人前の女王になるまでを、彼女を陥れようとする数々の陰謀策術を織り交ぜながら、退屈させないで見せてくれます。
普通の少女が、誰にも頼らずに重大な決断を下す女王になっていくという、いわば女性の自立の話ともとれる構成で、この点が現代的な感じで、海外で支持された理由かもしれません。スピーチを練習する王女なんて、今まで無かったでしょう。
話の内容は全て事実というわけではなく、時代設定や事件の内容とかに変更を加えてありますが、歴史的事実を描くのが目的の話ではないので、ドラマとして面白くするためにはそれでもいいと思います。
ただし、歴史ものに常に付きまとう、人物や他国との関係が分かりにくい、という問題がありますが、「エリザベス」もその問題の例外にはならなかったようです。8月に放映された「世界ふしぎ発見!」で、このエリザベス1世を取り上げていて、僕はそれを見ていたので人間関係とか理解できましたが、何も予備知識無しで見ていたら話の把握がつらかったかもしれません。
主役のエリザベスを演じるケイト・ブランシェットは堂々たる熱演を見せてくれます。また、ウォルシンガムを演じるジェフリー・ラッシュは「シャイン」で主役を演じていましたが、それとは全然違う、非常な面を持つキャラを上手く演じています。
上の2人はオーストラリア出身ですが、他にもイギリスから「ジュラシック・パーク」のリチャード・アッテンボローや、名優「サー」ジョン・ギルグット、フランスから「ドーベルマン」のヴァンサン・カッセルなど、出演者は国際的で豪華です。
出演者だけでなく、監督のシェカール・カプールはインド出身と、これまた国際的です。ハリウッドの映画人ではなく、インドの監督という選択は意外で、議論もあったでしょうが、手堅い演出で成功だと思います(踊りはしないけど)。
火あぶりのシーン(人間が火に包まれるところをモロに写せたのはデジタル合成の恩恵でしょう)や、首をさらすシーンなど、残酷なシーンが出てきますが、そういったシーンが、今とは倫理観が違うであろう、この時代の空気を感じさせます。
エリザベスは後半の方では、決断を下す時は一人で決めるようになりますが、必ず腹心のウォルシンガムの意見を求めているので、ウォルシンガムに操られているようにも見えました。
アカデミー賞を取った「恋に落ちたシェイクスピア」と同じ、時代ネタということで比較されますが、僕としては「恋に落ちたシェイクスピア」より「エリザベス」の方がよくできていると思います。ただ、「恋に落ちたシェイクスピア」の方が軽めで万人受けなのかもしれません。
平日に横浜に見に行ってみると、歴史もののせいかやはり観客は年配の人が目立ちました。日本でも結構ヒットしているようで嬉しいです。