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「ファンタジア」はクラシック音楽に合わせてアニメを作るという、いわば今のミュージックビデオの原形のような作品です。これの製作は1940年ですが、その中で描かれたイメージは今だに古びることはなく、ディズニーアニメの中でも最高傑作といえる作品です。
そして今回、「ファンタジア2000」というタイトルで続き?というか、リメイク?の形で新作が、半世紀以上経った2000年に公開されました。
映画の冒頭にスティーブ・マーチンが登場し、今回の映画が作られた経緯を説明しますが、それによると、もともと「ファンタジア」は何度かリバイバル公開され、そのたびごとに新作パートが加えられる計画だったのが、今回やっと実現したそうです。
今回の「ファンタジア2000」はアイマックスという、劇場映画でいちばん大きい(今はほとんど無いかもしれないけど)70ミリよりも更に大きいフィルムの規格で作られる作品です。アイマックスは10年くらい前までは博覧会などのイベントの時くらいしか上映されませんでしたが、ここ10年くらいの間に新宿などに上映館が出来るなど、鑑賞のインフラは整いつつあります。
今回の「ファンタジア2000」は、さすがにアイマックス用に作っただけあって、大画面を意識した迫力ある作画が結構出てきます。いずれ35ミリ版が公開されたりとか、ビデオ化ということもあるかもしれませんが、なるべくアイマックスで見ることをおすすめします。
絵の雰囲気はセル画ぽいパートや、3DCGぽいパート、ペンイラストタッチのものやディズニーキャラを主人公にしたものなど、曲ごとに違うタッチにしていて面白いです。
曲ごとに絵の感じが違うのは、旧作に比べると統一感が無いようにも思いますが、旧作が作られた時代は今と違い、セル画の技術くらいしかなかったと思うので、結果的に絵が統一された感じになったと思います。しかし今はセル画(これもコンピューターだろうけど)だけでなくCGもあるし、いろんな事が出来ます。「ファンタジア2000」の各エピソードの絵にばらつきがあるのは、技術的に多様な手法が使えるようになった現代であるからそうなった、いわば今っぽい感じがします。
キャラクターデザインも、いいものか?悪役か?どういうキャラなのか?一目で大体の判別がつくデザインはさすがですし、ストーリーもテンポもよく、良くできた8つの短編映画を見せられた感じです。
曲を紹介するホストは、スティーブ・マーティンやクインシー・ジョーンズ、アンジェラ・ランズベリーなど、曲ごとに違っています。豪華な顔ぶれですが、こちらの方は統一が無い感じを強く持ちました。ホストは一人か2人に絞った方がよかったと思います。
2曲目の「ローマの松」はクジラを主人公にしたのは面白いし、今っぽい感じがします。 CGぽい質感が見えるのが少し気になりましたけど。曲の後半でたくさんのクジラが出てくるところは鳥肌が立つ迫力でした。でもこれ、人間に殺された鯨たちが昇天していくイメージ、というのはうがちすぎな見方でしょうか?
使う曲はクラシックという枠内だけではなく、今回はガーシュインの曲も入っています。「ラプソディ・イン・ブルー」の作画は手書きイラストのタッチが独特な感じだし、話もほのぼのとしたいい作品です。
今回の作品で旧作から残されたパートは、ミッキー・マウス主演の名エピソード(数10年前の日本でのリバイバル公開時のポスターは、これの中のシーンの写真が使われました)「魔法使いの弟子」1本だけです。画面は修正されているようなものの、年代のせいか画質は荒れた感じがします。それでも、よく出来ている話だと改めて思いました。
ミッキーに続いてはドナルド・ダックが登場します。彼も新作で、ついに主人公の座を射止めました。曲は「威風堂々」。「ブラス」のエンディングでも流された有名な曲です。ノアの方舟をモチーフにしたスケール感のある話で、曲が盛り上がるシーンでは作画も大いに迫力を出してます。知ってる曲をああいう風にうまく盛り上げて見せてくれる点こそ「ファンタジア」の見どころでしょう。ラストもホロリとさせて、このパートが一番気に入りました。
ただこの曲は、実はシーンに合わせて編曲されているそうです。それならば絵と合ってるのも道理ですが、もともとの映画のコンセプトは「クラシックの曲に合わせて作画」だったはずなので、絵の方を音楽に合わせてほしかったと思います。まさか、オリジナル版も実は絵に合わせて編曲していたのでしょうか?
最後の曲は「火の鳥」ですが、これに出てくる、女性の形をした自然の精の動きは、流れるような華麗さを感じました。この動きは「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」で、女幽霊が飛ぶ時に流れる布の動きを連想したし、顔は天野キャラぽい、日本のアニメのような感じがします。彼女に襲いかかる、ワシの形になる火山の精も「幻魔大戦」での火の竜のイメージを感じました。自然の精というのが「もののけ姫」のシシ神を思わせるし、木の生えていくシーンは「となりのトトロ」みたいだし、日本のアニメの影響がかなりうかがえるパートです。自然の破滅と再生を描いているところは、スタッフたちの祈りみたいなものを感じましたが、「ローマの松」でのクジラといい、ディズニーてエコ志向なんでしょうか?
旧作のメイキングの裏話として、あのダリが「ファンタジア」のために絵を描いていたものの、結局使用しなかった話が紹介されますが、なんとももったいない!これこそCG使えば作れるだろうに。
冒頭に書いた通り、「ファンタジア」は公開のたびごとに新作が付け加えられる予定だったそうですが、このクオリティを保ってくれるなら、今後も続けて欲しいです。今度はCGを全く使わない、完全手書きセルのパートを見たいです。もちろんダリのパートも。
この映画のパンフは2000円ですが、中身はほとんど大判の写真のみで、内容に関してのデータはほとんどなく、チラシの方が詳しいくらいです。これで2000円はサギでしょう。
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