ビ　ロ　ウ

第二次大戦中の大西洋。米国の潜水艦タイガー・シャークは英国の救命ボートから３人を救助するが、１人は女性だった。彼女らの乗っていた病院船はドイツのＵボートに撃沈されたという。だが潜水艦に女を乗せることは不吉と言われていて、乗員たちは彼女を歓迎しなかった。それを裏付けるように、ドイツの駆逐艦を潜航してやり過ごそうと全員が息を潜めている中で、突然ベニー・グッドマンのレコードが艦内に鳴り響く。敵がそれを聞き逃すはずは無かった…。

ミステリー、それも潜水艦が舞台で、しかも時代設定を第２次大戦中にした着想には面白さを感じます。男ばかりの乗員である潜水艦に女性がいる、という設定もこれまでの潜水艦映画の中では珍しいケースで、彼女に疑念を抱かせる筋立ては上手いところです。
とはいえこの映画、殺人ミステリーと、心霊ホラーの両方の話が入って、結局どちらの話かはっきりしないままで終わってしまったのは不満でした。両方の要素を入れていいとこ取りを狙ったのかもしれませんが、かえって中途半端になっています。

また、この映画で起こる種々のエピソードには過去のある「事件」が原因になっていて、後半でその真相が語られますが、日ごろニュースを見てる人なら、その真相に容易に想像がついてしまうと思います。もしこの映画が２０年位前に作られたなら、多少センセーショナルだったかもしれないけど。

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カ　ル　マ

あるアパートにヤン（カリーナ・ラム）という１人暮らしの若い女性が越してくるが、彼女はそこで不気味な人影を見るようになる。精神科医ジム（レスリー・チャン）は、同僚の従兄弟であるヤンのカウンセリングを頼まれ、ヤンはジムに「幽霊が見える」と訴えるが、心霊現象は脳が作り出すイメージだと信じるジムは、何とかヤンを快方に向かわせる。だがジムもまた奇怪な影を見るようになる…。

「リング」等日本ホラーは「ザ・リング」や「フィアー・ドット・コム」などで見られるようにハリウッドに影響を与えているようですが、アジアも例外ではありません。この「カルマ」も、「リング」や「呪怨」といった日本ホラーの影響が見て取れる映画です。
香港映画では前にビデオリリースのみで公開された「」という、モロに「リング」のパクりのような映画がありました。しかし「カルマ」は幽霊の見せ方や動きには似た箇所はあるものの、話の部分では日本映画も思いついていないオリジナリティがあります。

この映画で面白い点は、「幽霊を見た」と言っている患者と、それを直そうとする医者という関係が中盤になって劇的に変わってくる点です。そしてこれが心霊ホラーであれば、その関係の変化の理由に推測がつくのですが、この映画はそういう話にはなりません。
この映画は見てくれは心霊ホラーですが、実は心霊よりも人間心理が引き起こす怪奇といった話で、サイコホラーと言った方がいい映画で、心霊現象の解釈には興味深いものがあります。宣伝文句の「呼び覚ましてはいけない心の闇」というコピーも道理の内容です。

幽霊の出方は「リング」や「呪怨」と似た日本的なパターンでありますが、結構不気味で、特にパソコン画面を使った見せ方には感心しました。クライマックスはモロに「呪怨」のパターンで進行しますが、最後の方は見せすぎという感じもして、モロ特殊メイクが目立って興ざめになる箇所もあります。でもラストはそれなりに感動的なシーンになっています。

ジムを演じるレスリー・チャンは「男たちの挽歌」から２０年くらい経ってるというのに、年をとった感じが全然しません。これもある意味怖いかも…。

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アレックス

カンヌ映画祭で、レイプシーンがリアルすぎて客から総スカンをくらったという作品です。
映画はエンドクレジットから始まり、シーンごとに時間が過去に戻っていくという、「メメント」と同じパターンで進みます。しかし「メメント」は、初めの方で過去に何が起きたか分かりますが、この「アレックス」ではある程度時間が経たないと話が見えないので、初めは何がなんだか分かりません。さらに、カメラがぶれた映像にパトカーのサイレンの音がかぶる、というような退屈な映像が初めの方では長々と続くので、眠くなりました。

映画の一番の見所はやはり問題の、中盤でのレイプシーンでしょう。その行為は、お尻の大きいモニカ・ベルッチを意識したような変態的な形で、さらに男がイった後のシーンがもっと凄絶になり、見ていて気持ちのいいものではありません。
一般の映画でレイプをこう長い時間をかけて描写した映画はあまりないと思いますが、執拗と思えるほど全てを見せる必要があるのか疑問です。カンヌで議論が起こったのも当然だと思います。
またこのレイプシーンの前にももう１箇所、バイオレンスなシーンがあり、ここは「プライーベート・ライアン」に匹敵するグロさで描写されます。

レイプシーンの後から、その前の時間の話としてようやく、モニカ・ベルッチ演じるアレックスと、ヴァンサン・カッセル演じる恋人マルキュスとの関係が語られます。ここにはもう１人、アレックスのかつての恋人も登場し、マルキュスは彼からアレックを奪ったような関係なのですが、そういった人間関係のドラマにはそう面白いところもなく、他愛ないカップルの話にしか思えませんでした。
なので結局、この映画はバイオレンスだけが見ものの作品です。映画は暴力の理不尽さを描きたいようですが、そういうことは伝わってこないし、ラストもよく分からない穏やかな終わり方で、全体的に退屈な映画です。
ヴァンサン・カッセルとモニカ・ベルッチは「ドーベルマン」「ジェボーダンの獣」に続く夫婦共演だと思いますが、なんでこんな映画に出たのか理解に苦しみます。

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レッド・ドラゴン

ＦＢＩ捜査官のウィル・グレアム（エドワード・ノートン）は、ひらめきと偶然から、これまでの捜査の協力者であるレクター博士（アンソニー・ホプキンス）を失踪事件の犯人として捕えるが、事件の衝撃で精神的に傷つき、フロリダで妻子と引退生活を送る。しかしその才能を惜しむ元上司ジャック（ハーベイ・カイテル）からの依頼で猟奇殺人事件の捜査に協力することになり、ウィルは再び獄中にいるレクターに助言を求める。だが彼の言葉は謎めいていて、ウィルを混乱させる。さらにレクターは暗号を使って、事件の犯人にある命令を出していた…。

アンソニー・ホプキンスはレクター博士役がよっぽど気に入っているのか、「羊たちの沈黙」「ハンニバル」に続いて３度目のレクター役です。ただ今回の作品は、時代が前２作をさかのぼり、「羊たちの沈黙」より以前に設定されています。

今回は猟奇殺人事件の捜査の話ですが、犯人は映画の半ばで観客にバラされ、ウィルたちがいかに犯人に近づいていくかが話のポイントになります。このパターンは実質的な第１作である「羊たちの沈黙」に似ています。なので、レクター博士の悪趣味が目立った｢ハンニバル｣に比べると、今回はよりエンターテイメント寄りな形で、従来からある捜査モノに近い展開ではありますが、｢ハンニバル｣が好きになれなかった人には楽しめると思います（逆に｢ハンニバル｣が好きな人には不満でしょう）。
ただし、「羊たちの沈黙」は猟奇殺人事件の犯人とレクター博士の２つの話はほぼ同程度の比重が置かれていましたが、今回はレクター博士はほとんど獄中にいるせいか、ワキ役に回ってしまっており、彼目当てで見ると不満が残るかもしれません。
しかし、「ハンニバル」で散々グロいシーンを見せた反動か、今回のレクター博士に関するグロ描写は、想像させる程度に抑えられており、この方が節度があって、好感が持てました。
また、レクターのお目付け役であるチルトン博士を演じる役者は「羊たちの沈黙」と同じ人で、３部作を意識したと思われるキャスティングはうれしいところでした。ラストもニヤリとしてしまいます。

今回の面白い点は、「羊たちの沈黙」よりも猟奇殺人犯人に肩入れ気味なところでした。「羊たちの沈黙」が作られた頃は、サイコな人はただの異常者のように描かれていましたが、今回の犯人は怪物化しても、人間に戻ろうとします。また、主人公ウィルが想像力があり過ぎるゆえに犯人の心理が分かってしまい苦しむ様子は、「沙粧妙子最後の事件」ほどではありませんが、狂気と現実の境のあやふやさを感じさせます。
こういった展開は、「羊たちの沈黙」が作り出したサイコサスペンスのジャンルが時代と共に理解され、また現実におかしな人たちが増えてきて、そういったことの情報が広く行き渡ってきたことで、それらを単に異常と片付けるのではなく、理解しようとする現われゆえの変化なのだと思います。

「羊たちの沈黙」に比べると今回はサスペンス度はやや落ちますが、クライマックスでの犯人との対峙はキャラの特性を上手く生かした描写になっています。
今回の監督は｢ラッシュアワー｣シリーズのブレット・ラトナーですが、手堅く作っていて、これで彼はコメディでない話もちゃんとできることを証明したといえるでしょう。

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トランスポーター

犯罪者を逃がすといった、ヤバい仕事に手を染めるドライバーの話といえば、かなり前にライアン・オニール（まだ生きてるのか？）主演で「ザ・ドライバー」という映画がありました。この映画の主人公は寡黙なキャラだったように記憶していますが、今回の「トランスポーター」での主人公フランクも、寡黙で渋く、さらに「格闘に強い」、が加わります。
フランクを演じるジェイソン・ステイサムはこの役にぴったりで、ネクタイ＆スーツからＴシャツまで、どんな服を着てもサマになっています。
彼の格闘シーンもなかなか決まっていて迫力があります。アクションシーンでは状況や小道具の使い方が上手く、香港映画を見てるように思いましたが、クレジットに出ていたアクション監督の名前が香港の人みたいで、自然とそうなったのかもしれません。またフランクが銃を撃つシーンもありますが、なるべく殺さないように扱っているのには好感が持てました。

フランクをトラブルに巻き込むヒロイン、そして相棒というべき存在になる女性を演じているのは、「ゴージャス」など数々の香港映画に出ている人気女優スー・チーです。中国語のシーンもありますが、フランクと話すときはちゃんと英語を使っています。彼女もこれで、西欧ムービーに進出ということなのでしょう。

この作品はリュック・ベッソンの製作です。「WASABI」や「ヤマカシ」など、このところ彼の製作する映画はアクションはいいけど話が今ひとつ、という作品ばかりですが、「トランスポーター」もその例に漏れず、深みのない話です。ま、主人公が悪い奴らをバッタバッタとなぎ倒すのを単純に楽しむべき映画でしょう
とはいえ、「TAXi」同様、キャラはいいのでシリーズ化できそうです。「TAXi VS トランスポーター」なんてやらないかな。

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ストーカー

サイ・パリッシュ（ロビン・ウィリアムス）は大型スーパー・サムマートにあるスピード現像カウンターで働いている。彼にとってとりわけ特別な顧客は常連のニーナ・ヨーキンの一家。独身で身寄りのない彼はヨーキン家の一員「サイおじさん」になる空想にふけり、アパートの壁一面にヨーキン家の写真を飾りつけていた。だが本来客に渡っていないそれらの写真のために現像枚数をごまかしていたことがバレて、彼は職場をクビになってしまう。さらにサイはある偶然から、ヨーキン家の夫ウィルの秘密を知り、狂気に拍車がかかっていく…。

ストーカーネタの映画ではたいがい、ストーカーはただの異常者と描かれがちでしたが、この作品ではサイの孤独感がちゃんと出ています。好奇の目で見るのではなく、内面を描こうとしているところが従来の映画と違う、面白い点です。
これには、サイを演じたロビン・ウィリアムスの演技によるものが大きいでしょう。今回彼が演じるキャラは感情をあまり見せませんが、その抑えた感じがかえって不気味です。今回も悪役という位置でしょうが、｢インソムニア｣よりは分かりやすいキャラでした。
ただ残念な点はところどころ、特にクライマックスで、サイの行動の目的が分からなくなるところでした。ストーリーの意外性を狙っただけしか思えない展開は、それなりにサイの内面に踏み込もうとしている内容に水を差しています。
また、サイがヨーキン家の夫の秘密に気づくきっかけも強引に思えました。もっと自然に見せられるはずです。

原題は「１時間写真」。日本でもよくある、少し待てばその場で写真を現像して渡してくれるＤＰＥのことですが、こういった誰でも利用する場所にこういうヘンな人がいるという意味では、不気味でいいタイトルだと思います。でもパッと聞いただけでは映画の内容が想像つかないだろうから、｢ストーカー｣とありきたりな邦題が付けられてしまうのも、致し方ないでしょう。

映画で使われている写真のフィルムはコダックではなくフジで、現像する機械はアグファの製品です。またヨーキン家の子供が欲しがるおもちゃで、「エヴァンゲリオン」でのエヴァ量産型のフィギュアが出てきたのには驚きました（日本アニメの浸透度は深いらしい）。でもアメリカ映画なのに、アメリカ製品使わんでいいのか…？。

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猟奇的な彼女

大学生のキョヌ（チャ・テヒョン）は叔母の家に行く途中、夜の地下鉄ホームで、タイプの美女（チョン・ジヒョン）を見かける。だが彼女はものすごく酔っていて、キョヌは関わらないように離れて眺めていると案の定、乗客の頭に吐いてしまう。だが彼女が倒れる間になぜかキョヌに呼びかけたことから、他の乗客たちから恋人と間違われて介抱する羽目になる。キョヌは意識不明の彼女をなんとか開いているホテルに連れ込み、ゲロまみれの体を洗うためにシャワーを浴びるが、そこに警察が踏み込んでくる。眠っている彼女の傍らに立っていた全裸のキョヌは、問答無用でブタ箱にぶち込まれる…。

インターネットで発表された、実話というエピソードをまとめた小説が評判になり、映画になった作品です。
「彼女」（役名あったか？）の破天荒な行動と、彼氏になってしまうキョヌの振り回されぶりが笑えて楽しめます。しかし｢彼女｣が単に粗暴なのではなく、その行動にちゃんと理由があること分かってくる部分は感動的です。
その「彼女」を演じるチョン・ジヒョンは、彼女以外にこの役が考えられないくらいハマっていて、「ぶっ殺す」のセリフさえも魅力的です（韓国語でのニュアンスはどうなんだろう？）。宣伝ではハリウッドのドリームワークスがリメイク権を獲得したと言っていますが、この作品の「彼女」に匹敵するヒロインが見れるか不安になります

また話の中での、観客の解釈を逆手に取ったような演出には感心しました。現実と映画のラストは違うそうですが、映画は上手くまとめていて、冒頭でのさりげない会話がラストで鮮やかに生きてきます。
「彼女」がシナリオライター志望ということで、映画にはシナリオを読まされたキョムの空想という形で「マトリックス」ばりの銃撃アクションや剣戟シーンが出てきます。あまり内容には関係ないシーンですが、これも観客サービスの１つとして楽しめます。

「彼女」が、電車の中で老人（中年といった方がいいけど）に席を譲らない若者をどついたり、居酒屋で女子高生を援交に誘う中年オヤジに怒鳴るといったシーンは、現実にこういうシチュエーションを見ても、普通なら怖くて注意できないことを堂々とやってくれるので爽快です。これって勇気を持ちたい僕らや製作者の願望かもしれません。
しかしゲロのシーンはヒロインに本当に吐かせて、リアル過ぎです。ちょっとえげつないのが韓国映画の特徴なのかなあ？

日本のオフィシャルサイトの中にある「エピソード」のページは、静止画アニメながら映画のエピソードをよく再現していて、映画を見た人は必見です。

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フィアー・ドット・コム

地下鉄構内で男がおびえたように歩いている。男はレールの上で遊ぶ少女を発見し、助けようとホームから降りる…。目と鼻から出血して死んでいたその男を調べていた刑事マイク（スティーヴン・ドーフ）は、その直後警察署に運び込まれたパンク男が同じ様に目と鼻から出血しているのを見て疑問に思う。男の住居に踏み込んだマイクは、バスダブの中でやはり目と鼻から出血して死んでいる女を発見する。マイクは保健省の女性調査官テリー（ナターシャ・マイケルホーン）と遺体やその周辺を調べるが、怪しいものは見つからなかった。だが彼らは、このカップルが死の少し前、あるウェブサイトにアクセスしていたことを突き止める…。

映像を見ることで呪われる「リング」や、サイトにアクセスすると呪われる「回路」といった日本ホラーに、モロ影響を受けたような作品という意味で、ハリウッドへの日本ホラーの浸透度の強さが伺えて興味深い映画です。
映画ではこういう心霊ホラーの設定に、サイコ殺人モノの要素が加わりますが、２つのネタの結びつきが上手くなくて、話がどっちつかずになり空中分解してしまったのは残念です。
またホラーシーンにしても、瞬間的に驚かせるシーンはありますが、全体的に怖くはありません。監督のウィリアム・マローンは、今ひとつだったホラー「TATARI」を手がけた人だそうで、この程度の出来も納得です。

「呪怨」の清水監督がこの映画のチラシに、誉めてるのかそうでないのか分からない宣伝文を書いていますが、「呪怨」の方が１００倍は良い出来です（義理で書いたのかなあ）。

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ネイムレス
無名恐怖

工場から少女の腐乱死体が発見される。遺体は傍にあったブレスレットから、行方不明になっていた６歳の少女アンヘラと特定されるが、それには拷問の跡があった。それから５年後、雑誌編集者となっていた母親クラウディアに、「ママ、あたし生きているの！」と電話がかかる。彼女は半信半疑ながらも、娘？が指定した場所に行き、そこで発見したものをかつて事件の担当をしていた刑事マセラに見せ、捜査を依頼する…。

少女の変死体、そして死んだと思われていた少女からの電話など、導入部は今までにないパターンで興味を引かれました。画面は灰色ぽい色調で不気味だし、時折入るフラッシュバックらしいカットがおどろおどろしくて、ホラー的な雰囲気は上手く出ています。
そして話の中では、廃屋のホテル、カルト教団、ナチスの拷問など、面白そうなネタがいろいろと散りばめられます。しかし、これらのネタはちゃんと結びつくことはなく小出しで終わり、広がることはありません。フラッシュバックらしいカットも何の意味があるのか説明されず、雰囲気のためだけに挿入されたように見えます。ラストはショッキングではありますが、意味がよく分かりませんでした。
先の展開がどうなるかと期待させといて、結局広がらないで小粒に終わってしまう、残念な出来の作品です。

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裸足の1500マイル

先住民アボリジニの児童を家族から隔離し、白人社会に適応させようとする隔離同化政策がとられていたオーストラリア。1931年、西オーストラリアのジガロングというアボリジニの居留地でモリーと、妹のデイジー、そして従姉妹のグレイシーたち３人の少女が母親たちから強制的に引き離される。３人は1900キロ離れたムーアリバーの施設に送られるが、監視の目を盗んで脱走し、故郷を目指す。彼女らの背後からは、隔離同化政策を善と信じる長官ネビル（ケネス・ブラナー）の命を受けた追っ手が迫り、その前には荒地と砂漠が広がっていた…。

オーストラリアで実際にあった話を映画にしたものですが、こんな政策があったとはこの作品で初めて知りました。
実話の映画化なので結末はある程度分かっているし、劇的な盛り上がりは少ないのですが、題材の特異さと快調なテンポで一気に最後まで見れる作品です。
映画の原題は「ウサギよけフェンス」。この広大なフェンスが、離れ離れの母子を繋げるシーンは感動的です。また主人公たちが、もうだめかと思われた中盤でもジーンと来る箇所がありました。

話の悪役は白人たち、特にこの政策を推し進めている長官ネビルになります。しかし映画は彼らを悪とは描かず、彼ら自身も自分たちの信念に基づいて行動している公平な描き方で、この政策が間違っている、とは映画は語りません。しかしその分、彼らが自分の信念に忠実に行動すればするほど、この政策のおかしさがあぶり出されます。あえて悪く描かないことで、かえって思い込みによる善意の怖さが際立つ、上手い描写です。
ネビルを演じるのはイギリスの演技派ケネス・ブラナーで、この映画の中では唯一の有名俳優でしょう。出番はそう多くはありませんが、「ハリー・ポッター」でのキャラよりはよっぽど存在感があります。

どこかのテレビの番組でこの作品のモデルとなった本人が出ていて、北朝鮮に拉致された人々の気持ちが分かると言っていました。確かに、彼女らが受けた仕打ちは拉致としかいいようがありません。今では考えられない、白人優位の考え方が顕著に現れた政策ですが、これが７０年代まで実際に続いていたとは呆れます。

映画で１つだけ気になった点は、話の中では９週間の時間経過があるのに、女の子たちの髪の毛が伸びていないことでした。特に妹の方はショートなので、余計に変に見えました。

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ボーンアイデンティティー

地中海で１人の男（マット・デイモン）が漁船に拾われる。彼は背中に銃弾を受け、皮膚の下にはカプセルが埋められていたが、記憶をすっかり失っていた。カプセルにあった口座番号からスイスの銀行にあるボックスを開けた彼は、自分がジェイソン・ボーンという名前らしいことを知るが、そこには彼の写真が貼られた何枚ものパスポートと大量の現金、そして銃があった。アメリカの大使館に向かった彼は追っ手の影を感じ取り、居合わせたドイツ人女性マリーの車に強引に乗り込み、パスポートにあったパリの住まいに向かわせる…。

マット・デイモンは「グッドウィル・ハンティング」などの作品で繊細なイメージが強いので、こういうアクション映画に出るのは意外でした。しかしそういうイメージを持った彼が主人公を演じることで、アイデンティティーを失い苦しむ若者というキャラクターが上手く作り出され、デイモン君の魅力を広げています。また彼の格闘アクションも速くて迫力があり、違和感のないキャラになっています。
そして彼を狙う脇役の殺し屋たちの中でも、数人の重要なキャラが渋くてかっこよく、特に中盤、デイモン君と１対１で対峙するシーンは緊迫感があります。
ただし映画の大部分を占める、集団で戦うアクションの見せ方は迫力あるのですが、同じようなシーンが続くので眠気を感じました。

また、主人公の身分が初めの方であらかた分かってしまうし、その段階で敵も分かってしまうので、話の興味がかなり削がれました。彼たちの正体がありがちなのにもがっかりです。
主人公の記憶が無いという話は、同じ頃に公開された「カンパニー・マン」がそういう映画でしたが、謎に関してはこの映画くらいひねりがあった方が面白くなったと思います。
また敵が、主人公をわざわざ殺そうとする理由もよく分かりません。放っといてもいいと思うんだけど…。

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オールド・ルーキー

ジム・モリスは野球が大好きな少年。だが彼の父親は軍人で転籍が多く、野球に無理解だった。モリス一家がテキサスのビッグ・レイクにようやく腰を落ち着けてから数十年後、モリス（デニス・クエイド）は地元の高校の化学教師になり、そこの野球チーム「アウルズ」でコーチをしていた。ある日、モリスはトレーニングでピッチャーの代わりに投げるが、その剛速球に生徒たちは驚く。その後アウルズは他校との試合で散々な負けを喫し、モリスは生徒たちのふがいなさに怒り、夢の大切さを語るが、生徒たちに「自分はどうなんだ」と逆襲され、一勝しかしたことが無い彼らがもし地区優勝したら、モリスがプロ球団の入団テストを受けることを約束させられる。そこからアウルズの快進撃が始まった…。

実在の大リーガー、ジム・モリスが３０過ぎにして夢をかなえようと挑戦する話です。
夢を実現する話の場合、子供がその障害となるのがありがちのパターンですが、この作品は子供が夢の後押しになる形で、上手く家族の絆を描いています。こういう家族のつながりネタや、主人公を応援している人たちがいる話には僕は弱く、何箇所か涙腺が緩むシーンがありました。
全体的に、笑わせて泣かせてといったシーンが適度に上手く散りばめられており、冒頭で語られるビッグ・レイクの伝説のような、一見本筋に関係ないようなエピソードもちゃんと伏線になっていて、ウェルメイドな話作りになっています。
また悪役がいないので安心して見れて、好感が持てる映画です。いかにもディズニーブランドの映画らしい、小さい子供から年配層まで楽しめる、ファミリー向けのアメリカ風サクセスストーリーです。

主人公の奥さんを演じている女優はレイチェル・グリフィスですが、僕はずっと「背信の時」や「ブラック・ウィドー」に出ていたデボラ・ウィンガーだと思っていました。似ている…。

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アウトライブ

両親を亡くして伯父グァクジョンに剣技を仕込まれ育てられたジナは、近くに住む美しい少女ソルリが野犬に襲われていたところを助けたことをきっかけに、いつしか相思相愛の仲になっていった。だがソルリの母が亡くなり、彼女は父であるタルガ将軍に引き取られ、２人は離れ離れになってしまう。その後、謎の刺客にグァクジョンが襲われ息も絶え絶えの中で、ジナは高麗の血を引く名家の息子であり、両親は「飛天神記」を狙う何者かに襲撃され、家来であったグァクジョンがジナ１人を救い出したと語り、絶命する。ジナはソルリと再会すべくタルガ将軍の屋敷がある都に来るが、彼の両親を殺した仇こそタルガであると知る…。

香港映画のお家芸である武侠ものを、韓国が作った映画です。半年前ほどに公開された韓国映画「燃ゆる月」も剣劇物で「斬る」アクションが迫力ありましたが、この「アウトライブ」はそれに「飛ぶ」が加わり、気持ちのいいスピード感がアクションの迫力を増しています。
また目まぐるしく動くアクションシーンの中で、一瞬静止するカットでのキャラの目線が決まっていて、かっこよさにしびれました！香港の武狭モノの見せ方をよく研究した姿勢がうかがえます。もしこれが広東語吹き替えなんかであれば、香港映画だと思ったでしょう。
人間関係がちょっと複雑ですが、実はわりと単純な話で、話に「愛」が絡んでいるので誰にでも見れる話になっています。アクションに次ぐアクションの連続で一気に話が展開して退屈しません。ただ話の作りは、このテのジャンルの傑作「グリーン・デスティニー」の方が上手でしょう。

撮影は中国のスタジオを使ったことで雰囲気がよく出てるし、ワイヤーアクションも香港のスタッフを使っただけあって文句の無いクオリティですが、もしこれらの作業を韓国人だけでやっていてこの水準であれば、韓国は本当に香港を抜いたと言えたところです。

映画には、剣を振ると気が人間を真っ二つにしてしまうような特撮シーンがありますが多くはなく、「風雲」からＳＦＸを少なめにしたような感じの作品とも言えます。
パンフによれば、この作品の特撮を担当したのは世界最高峰特撮スタジオ・ＩＬＭだそうです（クレジットをよく見ませんでした）。確か８０年代に「蜀山奇伝：天空の剣」という、同じく剣劇であった香港映画で特撮にＩＬＭを使っていましたが、キャラが異次元を飛んでるようなシーンに違和感を覚えました。「アウトライブ」ではそういうモロ特撮といったシーンは無く、なじんだ使い方をされています。
「天空の剣」はユン・ピョウが主役でしたが、ソルリの亭主ジョングァン役のチョン・ジニョンがユン・ピョウに似てる顔立ちなので、彼が出演しているように見えてちょっと不思議な感じがしました。

中盤、湖に落ちたジナが誰かに助けられますが、それがどういう人物か触れなかったり、いつの間にかジナに仲間ができているなど、話には説明不足のところが見られました。見ているうちに彼らがどういうキャラか分かってくるのですが、説明もなくいきなり出てこられると戸惑います。後半で登場する女性ジンも、ちゃんとキャラの説明をしていれば、彼女の話がもっと感動的になったと思います。

この映画はコミックが原作だそうで、そのコミックを読んでいる人なら映画で説明していない部分も分かっているのでしょう。しかし海外公開をするのであれば、話を知らない人もいるはずだから、もっと分かりやすく作るべきでした。たぶんスタッフは話を分かったつもりで作ってしまい、説明まで思い至らなかったかもしれません。
主人公ジナやソルリはもちろん、説明不足の脇役のキャラに至るまでみんなかっこよく、個性的で存在感があるので、こういう欠点は残念に思います。
また映画では「飛天神記」の効用をちゃんと説明していないため、なぜ誰もがこれを欲しがるのか疑問でした。これを持ってることで凄い技が出せるということなのでしょうが、それなら一言でもいいからそういうセリフを出すべきでした。

キャラの情念は、同じ剣劇ものの「燃ゆる月」の方が感じられましたが、完全なファンタジーである「燃ゆる月」よりは、史実を背景にした「アウトライブ」の方が一般には受け入れられやすいでしょう。

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カンパニー・マン

会社員モーガンは勤めていた会社を辞め、ハイテク企業デジコープの産業スパイになる。ジャック・サースビーと名乗ることになった彼の初の任務は、他企業のコンベンションでのプレゼンの音声を送信機で送るという単純なものだった。とはいえ仕事を無事やり遂げて、気が大きくなっているモーガンの前に、謎の美女リタ（ルーシー・リュー）が現れる…。

「CUBE」で大いにその名を高めた、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の５年ぶりの新作です。
今回は「CUBE」と違い、よりストーリー重視の内容になってはいますが、大枠の話は結局２重（３重？）スパイの話です。そういった新味が感じられないストーリーを、「CUBE」を思わせるSF的なガジェットや設定を使うことで今ぽく見せている映画です。絵づらは面白いし、サスペンス的な展開もありますが、どこか眠くなりました。

主人公にはある謎がありますが、その謎解きは某ＳＦコミックを連想してしまいました。クライマックスは彼がかっこよく見えますが、それまでは情けないキャラのせいか印象が薄く、ルーシー・リューの方が存在感があります。

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ピーター・パン２
ネバーランドの秘密

第二次世界大戦時代のロンドン。ピーター・パンと共にネバーランドで冒険を繰り広げたウェンディは優しい母親に成長し、毎夜幼い息子ダニーにネバーランドでの冒険を語り聞かせる。だがダニーの姉ジェーンは現実を見るべきだと、それらの話を信じようとしない。そんな時、突如として彼らの家にフック船長ら一団が現れ、ジェーンはウェンディと間違われてネバーランドに連れ去られる。例によって危機に陥ったジェーンはピーター・パンとロスト・ボーイズに救われるが、ジェーンは彼らと打ち解けようとはしなかった…。

ディズニー映画の名作「ピーター・パン」の、約５０年ぶりとなる続編アニメです。
このところディズニーでは「アラジン」や「ノートルダムの鐘」などの続編をビデオで出しています。この「ピーター・パン２」も元はビデオかＴＶスペシャルといった企画だったかもしれませんが、「ピーター・パン」がディズニー映画史上最も有名であろう映画なので、劇場公開にしたのかもしれません。
しかしその内容は、予告で言っていた「ネバーランド最大の危機」というほど大げさでもなく、特に続編を作る意味が感じられない、軽めの話です。これもビデオで十分でしょう。

とはいえ中盤、フック船長がジェーンの孤独さにつけこみ、彼女の意図しなかったところでピーター・パンたちが危機に陥る展開は上手いし、クライマックスのジェーンの活躍は爽快です。
またなんといっても、半世紀ぶりに大活躍？するフック船長のお間抜けぶりは大いに笑えて、子供にも楽しめる映画です。

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Ｋ－１９

長らくソ連で封印されていた、１９６０年代に実際にあったという原子力潜水艦の事故の物語です。予告編ではお話が世界の危機に広がっていく印象がありますが、映画はあくまで、潜水艦Ｋ－１９オンリーの話です。
誰が言ったのか、「潜水艦映画に外れなし」という言葉がありますが、この映画もその例に漏れず、退屈せずに見れました。
原潜の事故ということで、もしかしたら乗組員全員死亡という暗い話ではないかと思っていましたが、そうではなかったのは救われた感じです。感動的なシーンもいくつかあって、劇場ではすすり泣きの声が聞こえましたが、僕は泣くまでは行きませんでした。
乗組員全員が一致団結して事故に対処するわけではなく、命を惜しんで臆病になってしまうキャラもいるのがリアルです。

映画の原題は「K-19:The Widowmaker（未亡人作り）」。この潜水艦Ｋ－１９は事故死者が続発したことで、出航前からそうあだ名されていました。でもそもそもの原因は、ソ連がアメリカに対抗して、原潜を持っていることをアピールするために、危険に目をつぶって無理なスケジュールをＫ－１９の関係者に押し付けたゆえでしょう。
「タイタニック」でも、沈没の原因の一つに無理なスケジュール運行があって、似たものを感じました。できそうもない事業計画をぶち上げた見栄張りな会社社長のおかげで、悲劇に見まわれる社員の物語、とも取れる話です。

モスクワから派遣され、Ｋ－１９の艦長となる厳格で理想主義者のアレクセイ・ボストリコフと、彼が来たことでそれまで艦長だったのに副長に降格させられた、部下に親身で現実派のミハイル・ポレーニンの対立が、この作品の最大の見所でしょう。二人の考えてることをはっきり出さないことで先が読めず、サスペンスになっています。
ボストリコフを演じるのはハリソン・フォード、そしてポレーニンを演じるのはリアム・ニーソンという組み合わせは、直接共演はしなかったものの、ハン・ソロとクワイ・ガン・ジンの共演という、「スター・ウォーズ」つながりに思えて興味深いものでした。

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ゴーストシップ

1962年春、大西洋を航行していた豪華客船アントニア・グラーザ号の甲板は突如血の海と化した。それから40年後、小さなサルベージ会社「アークティック・ウォリアー」のメンバーは、ジャックという男から、ベーリング海に漂う謎めいた船の発見を依頼される。現場海域に到着した彼らはそこで待っていたように、行方不明だったアントニア・グラーザ号と遭遇する。中は無線が通じず、何者かが船内をうろついていた…。

「ＴＡＴＡＲＩ」「１３ゴースト」を作ったホラー映画専門スタジオ、ダーク・キャッスルの作品です。前２作ともそういい出来ではなかったので、この作品も期待していませんでしたが、それは正解でした。
前２作同様、映画にはところどころぎょっとさせるシーンはあるものの、全体的にあまり怖くありません。ただし、舞台となるゴーストストシップ：アントニア・グラーザの内部や外からの船影などには、不気味な雰囲気がよく出ています。

冒頭でいきなり大虐殺シーンが展開しますが、これがなかなかグロくて、インパクトがあります。これの理由が最後にならないと明らかにならないので、その興味で話に引っ張られました。
しかしその種明かしはありがちだし、結局船である必要もない話で、がっかりです。

話は今一つだけど、特撮やイメージが結構いいのも「ＴＡＴＡＲＩ」「１３ゴースト」と同じパターンです。廃墟の部屋が元のきれいな姿に戻っていく特撮は上手いし、「シャイニング」を思い出させるシーンでした。クライマックスのＳＦＸも感動的にきれいな描写で、なんだか「タイタニック」の犠牲者の昇天を見ているようでした。

出演者で有名な役者は船長役のガブリエル・バーンのみで、渋くハマっていますが、途中で消えるのは情けない感じです。

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スパイダーパニック

巨大化したクモが人間を襲う、往年のＢ級映画を思わせる、単純明快なお話です。
事件のきっかけはオイオイ、と言いたくなる設定ですが、他にも事件を初めに知るのが子供だとか、セクシーな衣装の女性が怪物に襲われるといった、Ｂ級作品のセオリーともいえる設定をなぞったシーンがいくつかあり、この映画の場合はむしろこういった、あえてＢ級に徹した開き直り具合を楽しむべきでしょう。イージーな設定に突っ込みを入れるのが正しい見方かもしれません。
こういうＢ級映画では「トレマーズ」という名作がありましたが、この「スパイダー　パニック」では住民が一致団結してクモ軍団と戦おうとするなど、「トレマーズ」を思わせる描写があります。エピソードだけでなくテンポもこの映画は「トレマーズ」と同様に良く、最後まで退屈しないで見れます。
製作にはなぜか「インデペンデンス・デイ」のコンビ、ローランド・エメリッヒとディーン・デブリンが関わっていて、やはり彼らが製作に関わった良作「１３Ｆ」と同様、大作ではないものの肩の力を抜いてエキサイトできる作品です。

クモが人間を襲う映画というのは、これまでにも「巨大グモの襲撃」や「ジャイアント・スパイダー大襲来」などがありましたが、たいがいは１匹の大グモが人間に襲いかかる話でした。しかし、この「スパイダー　パニック」でのクモは集団です。敵の数が多いし速いしのおかげで、サスペンスが倍増しています。
こういうふうにたくさんのクモを描写する場合、ＣＧが一番適している方法でしょう。話はＢ級ですが特撮はＡ級で、アラはほとんど分かりません。特に、クモが街中で次々と人々に襲い掛かるシーンは素晴らしい合成で、ＣＧが人間の動きと完全にマッチしていて見ごたえがあります。またシリアスなだけでなく、おちゃらけた動きを見せるクモといった、Ｂ級にふさわしいシーンが見られるのも面白いところです。

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火　山　高

１７年に渡って生徒達の覇権争いが続いている高校・火山高。この学校には究極の武術奥義書・師備忘録を手にすれば学園を支配できるという伝説があった。そこに過去８回の退学処分を受けた転校生キム・ギョンスがやって来る。彼は長い髪が美しい女生徒ユ・チェイに一目惚れをし、この学校に来れたことを感謝したのもつかの間、学園ナンバー２のチャン・リャンに目を付けられる。彼は教頭と手を組み、校長を亡き者にして師備忘録を奪おうと計画していた。その企みは成功し、校長は確かに毒で動かなくなったが、教頭は師備忘録を発見することができなかった。手を組んだことで態度が大きくなったチャン・リャンたちに対し、教頭は学園鎮圧教師５人衆を呼び寄せ、彼らや生徒たちを力で押さえつけようとする…。

だいぶ前に「男組」というコミックがありました。話はよく覚えていませんが、主人公たちが在籍する学園の支配を巡る話だったように記憶しています（記憶に自信はありませんが…）。
この「火山高」は、そういったコミックに影響を受けていることがありありと分かります。話の展開やアクション描写はまるでマンガです。
登場するキャラもこのテの話にふさわしく、思い込みの激しい奴らばかりで、「こんな奴ぁいねえ！」と思えるほど個性的です。主人公が強いくせにおちゃらけなところも「コータローまかりとおる」みたいにマンガを思わせます。
といった感じに、この作品はまさにマンガなのですが、製作者たちは意識的に、マンガとして軽く楽しもうと映画を作っているのでしょう。話に重さはありませんが、かつての香港映画並みの、なんでもあり的なサービス精神で楽しませてくれる映画です。
またこの作品の最大の見ものは、華麗なワイヤーワークとＶＦＸでしょう。この技術により、キャラたちのアクションがさらに大げさに表現され、映画のマンガ度を高めています。
キャラが初登場のシーンではそのキャラの説明が入るし、必殺技の紹介があるのもマンガぽいところです。これらのシーンはなぜか日本語の字幕に韓国語のナレーションという見せ方をしているので、もしかしたら日本語吹き替え版で見た方が、雰囲気が合っているかもしれません。

映画の冒頭は、授業をしている教師が「居眠り…」と、生徒を狙ってチョークを投げるも、その生徒がチョークと教師を跳ね返してしまって「退学」という字幕が出ます。このシーンは予告編と全く同じシーンで（「退学」のテロップまで同じ）、このシーンが出てきた時は本編ではなく、予告が始まったのかと思ってしまいました。
結局この作品の予告編は、冒頭のシーンをそっくりそのまま使ったことになりますが、見せ場があまり盛り込まれなくて淋しい感じがします。しかし僕は「マトリックス」の時に、オフィシャルサイトに何種類かあった予告編を全てダウンロードしてしまったおかげで、大方のシーンを知ってしまい、見ていて驚きがあまり無かったということがあったので、そういうことを思うとこの予告編は、本編を見るとより驚ける、という意味では正解でしょう。

韓国映画でこれほどワイヤーワークを本格的に使った映画は初めて見ましたが、技術的には本場の香港に匹敵するレベルでしょう。しかも「アウトライブ」のようなシリアス？な話ならともかく、こうもおバカな話でこんな大掛かりな技術を使うとは、日本映画でもやんないと思います。技術だけでなく、センスもいいぞ韓国。

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フレイルティー
妄　執

テキサスで起こっている「神の手」を名乗る連続殺人事件を担当しているＦＢＩ担当捜査官ドイルの元に、フェントン（マシュー・マコノヒー）と名乗る男が事件の真相を知っている、と訪ねてくる。彼は、１９７９年に父（ビル・パクストン）に起こった異変から語り始める…。

神の使いを名乗って殺人を繰り返す親子の物語で、かなりダークな雰囲気の話です。「ツイスター」や「タイタニック」など、特撮モノでよく顔を出している、あのビル・パクストンが初めて監督した作品ですが、さわやかなキャラを演じることが多い彼が、こういう暗めの話を初監督作品で手がけるというのは、意外に思いました。

映画の前半は親子ドラマ、後半はサイコサスペンスといった構成です。特に前半で描かれる、殺人を強要しながらも子供のことを思う親と子の触れ合いは奇妙な親子話といった感じで、彼らの関係がどう変わるのか興味を引かれました。しかし後半の展開は予想がついたし、あまり怖くも無く、こういう盛り上げの不足はビル君初監督の限界かもしれません。
全体的にダークなヒーローモノといった感じで、「アンブレイカブル」を暗くしたらこんな話になるかもしれません。

この作品は映倫でＰＧ－１２の指定をされましたが、その理由が血みどろといった残酷なシ－ン（描写）ではなく、子供が人を殺すという「行為」が問題にされたことで、スポーツ紙にも記事として取り上げられました。しかし実際見てみると、そういうシーンはさらりと描かれて、あまり不快には思えませんでした。この作品の公開２年前くらいに規制の議論になった、「バトル・ロワイアル」なんかに比べると全然おとなしく、規制するほどのものか疑問です。

この作品はパンフレットが無く、劇場にはチラシが置いてあるだけでした。銀座シネパトスのみで公開する映画て、こういうのが多いような。こういうＢ級作品には配給会社は金をかけたくないのでしょうか。

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ショウタイム

ロス市警一の堅物刑事ミッチ（ロバート・デニーロ）と、スターに憧れつづけてきたパトロール警官トレイ（エディ・マーフィー）がコンビを組まされ、ＴＶの捜査中継番組「ショウタイム」に出演するハメになる、アクションドラマです。
真面目一辺倒のデニーロと、軽いノリのマーフィーという役柄は２人のキャラをよく生かしていて、凸凹コンビが反目しながらも互いに相手を認め合い、やがて息の合ったコンビになっていくという筋立ての形式をちゃんと押さえて楽しませてくれます。ただ、全体的に人間ドラマの描写が薄く、クライマックスが今ひとつ盛り上がらない、軽い話ではあります。

デニーロは、ちょっと前に出演したコメディ「ミート・ザ・ペアレンツ」でセルフパロディぽい役を演じてましたが、この「ショウタイム」もそれに近いノリでしょう（彼が刑事として活躍した映画はそんなに多くなかったように思いますが）。
セルフパロディといえばもう一人、番組「ショウタイム」の監督（スーパーバイザー）という役で、ウィリアム・シャトナーが出演して、それも昔「T.J.フッカー」の主役をやっていた、モロな役柄です。彼を最後に見た作品は「ジェネレーションズ」だったと思いますが、また一段と太ってしまって、カーク船長の面影が消えているのが悲しい…。
デニーロ君とシャトナー君の絡みでは、受けを狙ってドラマをやらせようとするシャトナーと、「それじゃ殺されるだろ！」と突っ込むデニーロとの、刑事ドラマと現実のギャップが笑わせてくれるし、デニーロの言い分には納得してしまいます。ま、「現実」といったってこれもドラマではあるけど。

エンドクレジット前にＮＧ集が出てきます。香港映画の影響なのか、今やハリウッド映画でもこれは珍しくなくなりました。

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ロード・トゥ・パーディション

まだ見ていない人

１９３１年、１２歳のマイケルの父マイク・サリヴァン（トム・ハンクス）は、町の実力者ルーニー（ポール・ニューマン）の片腕として働いていた。だがマイケルは父の仕事に血の匂いを感じたのか、父の車に密かに乗り込み、彼とルーニーの息子コナーの殺しの現場を目撃してしまう。秘密の暴露を恐れたコナーはマイケルの妻と次男を殺害するが、マイケルは辛くも逃れ、父と息子はシカゴに旅立つ…。

監督は「アメリカン・ビューティー」を手がけたサム・メンデスです。この「ロード・トゥ・パーディション」は「アメリカン・ビューティー」に比べると、とっぴな面白さが影を潜めたスタンダードな話になっています。とはいえ「アメリカン・ビューティー」にあった「家族」というテーマは、「ロード・トゥ・パーディション」でも重要な要素になっています。
特にこの映画では、父子の関係に話の重点が置いていて、父を恐れながらも愛してもらえる息子、そして父を愛しながらも受け入れてもらえなくて暴走する息子　といったニューマンとハンクスの息子の対比は見事です。息子を肉体的だけではなく、精神的にも守ろうとするマイケルと、それに応えようとする　の姿は、泣くまでは行きませんでしたが感動的です。ラストも爽やかで後味のいい映画になっています。

ギャングの内部抗争の話はよくありますが、それを子供の目から見た形は独特のものでしょう。銃撃シーンなどはそれを意識したのか、ジョン・ウーみたいな派手なアクションを避けた、抑制された描写になっていますが、それがかえってスタイリッシュで、最近ありふれているガンアクションシーンの中では独特なセンスの良さを感じます。

主人公を演じるトム・ハンクスは今回も、「プライベート・ライアン」などのような重厚な、安定した演技を見せてくれます。彼を追う役のジュード・ロウは映画のたびに性格が違うキャラを見せてくれますが、今回は変態的な写真趣味を持つ殺し屋という役柄で、「Ａ．Ｉ．」でのジゴロロボットがちょっと入った感じです。

すでに見た人

最後にマイクが息子に銃を撃たせなかったのは、都合いいように思いましたが、こうならないと息子の救いにならないから、これが理想の展開でしょう。
その後に息子が、途中立ち寄った家に行くことも予想がつきますが、ああなってほしいと思っていたのでヨシです。

「トラフィック」のように、自分の家族の幸福のためには犯罪に手を染めることも厭わない、というキャラクターが最近見られるようになりましたが、この作品の主人公マイケルもその類でしょう。ただ、彼の方は妻子が殺されるという報いをちゃんと受けてしまいますが。

マイクがルーニーを殺すシーンで銃の音を消したやり方には、最近大掛かりになってきたアクションシーンと対極の、センスの良さを感じました。

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ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ

アメリカにある場末のレストランで歌うバンドがいた。歌手の名はヘドウィグ。「彼女」は自分の曲を盗んで歌っているという、ロックスター・トミーの全米ツアーを追いかけてライブ活動をしており、ヘドウィグの歌と共に、その生い立ちが語られていく。彼女は旧東ドイツに生まれた「男の子」だったが、米兵と愛し合うようになり、性転換手術を受けるが完全にはならず、男の部分が「１インチ」残ってしまう。やがてヘドウィグは夫とアメリカに渡るが捨てられてしまい、家庭教師に入った家の息子、トミーに思われるようになる…。

渋谷のシネマライズで公開され、浜崎あゆみが誉めたということで大ヒットした映画です。
中味はライブの歌で物語が進行していく、ミュージカルのような作品です。曲のノリは良く、特に中盤に出てくる、タイトルのアングリーインチの由来が語られる歌はＣＤが欲しくなりました。

この映画で面白いところは、歌のシーンでライブだけでなく、アニメが出てくるところです。このアニメがセルアニメではない、個人が書いたような単純な線画というのが独特な雰囲気を出していて、この描写のおかげで歌のシーンが続いても退屈しません。
また撮影や編集でも変わった手法が見られて、一種アヴァンギャルドな感じが、ヘドウィグの奇抜な衣装と合っています。

人間は元々２つ顔を持っていたのが、神によって１つ１つに裂かれて、以来人間は失った片割れを求めつづける、という考え方は奇妙な線画アニメと相まって面白いシーンです。ヘドウィグが、愛する男トミーを執拗に追っていくことで、それが映画のテーマのように見えます。
しかしヘドウィグとトミーの関係がラストであやふやになってしまい、かつ結末を語ることを避けたような不可解なエンディングのおかげで、この映画は何を言いたいのか分からない作品になりました。

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イルマーレ

２０００年の正月が間近な日、声優の仕事をしているキム・ウンジュは「イルマーレ」と名づけられている海辺の家から、ソウル市内のマンションに引っ越していく。彼女は自分の後に引っ越して来るであろう住人に、「転送してください」と、自分宛の手紙を郵便受けに残した。数日後、この家に引っ越してきた青年ハン・ソンヒョンは、ポストの中に手紙を見つけるが、彼の引っ越してくる前にはこの家には誰も住んでいなかったはずだった。彼は「自分が始めての住人」とキム宛に手紙を出す。手紙を受け取ったキムは、その日付が１９９７年と書いてあるのを見る…。

時空を超えた、ラブファンタジーといった雰囲気の作品です。
この映画を一番特徴付けているのは、舞台となるイルマーレでしょう。海の中に立つ一軒家で、満潮になると海岸への道が海中に没してしまうこの家の、異世界を思わせるイメージが独特で、ここなら時空を超えて手紙が行き来するのも、あり得ないこともないように思えてしまいます。
キムとハンの手紙のやり取りも、初めはお互いにいたずらと思っていたのが、徐々に真剣になっていく感じを丁寧に描いていて、ほほえましいものがあります。
過去と未来が交流することで、未来が単純に変わってしまう描写には疑問を持ちましたが、映画全体の雰囲気の良さで許せました。

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マイノリティ・リポート

２０５４年、ワシントンでは３人のプリコグ（予知能力者）を使って未来に起きる殺人事件を予知することで、殺人事件の件数が劇的に減少し、このシステムはまもなく全米を対象に実施されることになっていた。そんな時、プリコグが犯罪予防局の主任刑事ジョン・アンダートン（トム・クルーズ）による殺人を予知する。自分が殺す相手に全く見覚えのないジョンは、真相を究明しようとするが、逃亡犯として指名手配されてしまい、網膜スキャンで個人を特定できるシステムの中を逃げなければならなくなる…。

映画の中で、ジョンがこの犯罪予防システムを「パーフェクト」と言うセリフがあります。しかし本当に、完璧なシステムなどというのはありえるのでしょうか？
この作品が公開された半年前、２００２年の夏に住民基本台帳が施行されましたが、個人情報保護の完璧性が問題にされ、これを施行しない自治体が出てくるなど大きな話題になりました。それに限らず、コンピューターウィルスやハッキングなど、近年いろいろなシステムの不完全さがよく話題にされます。その意味ではなかなかにタイムリーな映画です。
でもその結果は…やっぱりそういう結論になるのか、と言う感じです。大筋の話もパターンで、悪役もすぐに想像がついてしまいます。細かい部分で突っ込みを入れたくなるシーンもあるし、かつて「ジョーズ」で精彩を放ったスピルバーグとは思えない、アクションがあまり盛り上がらないシーンもあります。

しかしこの映画で一番の見ものは、リアリティーを感じさせる未来社会の描写でしょう。エアカーは「ブレードランナー」以降ありふれた感じですが、「マイノリティ・リポート」に登場する車はエアカーではない、壁をも垂直に走れる車というのは面白い発想です。これによってトム・クルーズが壁を走る車に乗り移らなければならなくなる設定は上手く作ったと思いますが、ここのアクション描写は今一つでした。
犯罪予防局が使う探査ロボットは小さいながらも人間の動きにちゃんと反応しますが、今のロボットを考えると、いずれこういう高度な自律ロボットが出来そうに思えて、これもリアルでした。

前を通ると自分の名前を呼ぶ看板？広告が出てきますが、これはいずれ本当に出てきそうです。現在でもすでにインターネットでは、１度登録、あるいはアクセスして、２度目にアクセスすると「こんにちは～さん」と自分の名前を表示するサイトがあります。それを思うと、この映画のように、一瞬で個人を判別するテクノロジーが完成すれば、それを使う会社か政府が出てくることでしょう。
この技術を使って主人公は居場所をことごとく暴かれることになりますが、この設定は人権やプライバシーといった問題が汲み取れて興味を惹かれました。しかしこの広告、うるさそうだ。
コンピューター関連のリアル描写では、トム君が殺人の予知の「捜査」に３Ｄの、ホログラフィックディスプレイぽいデータスクリーンを使っていますが、これもバーチャルリアリティの技術が発達すれば実現できそうです。読んでいる新聞の情報がリアルタイムで更新されていく描写もいずれ本当になりそうで、こうなってしまうと新聞やテレビやパソコンの違いは意味を成さなくなりそうです。

スピルバーグ監督の前作「Ａ．Ｉ．」でも未来社会の描写はいろいろ出てきましたが、この「マイノリティ・リポート」にあるようなリアリティーがあまり感じられず、別世界の話に思えたのが物足りない点でした。また「Ａ．Ｉ．」は情緒に流れすぎてしまったように思えるので、比べるならば、話は今一つなものの、リアルな未来描写のおかげで「マイノリティ・リポート」の方が好みではあります。

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ハリー・ポッター
と秘密の部屋

１年に１作公開する予定という「ハリー・ポッター」シリーズの２作目です。
キャラ紹介が必要なくなったせいか、今回は前作「賢者の石」よりハイペースな展開で、ローラーコースターアクションといった言葉がふさわしい映画になっています。前作には無かった（と思う）唐突な設定もあるけど、それなりの伏線シーンもあって、誰にでも退屈しないで楽しめるであろう出来になっています。
しかしその分？キャラ描写には前回ほどの深みはありません。ロンやハーマイオニーは当然活躍しますが、クライマックスはハリーの土壇場になってしまって、２人の影は薄くなります。ケネス・ブラナー演じる新キャラのロックハートも、ナルシストぶりはそれなりに笑えますが、これといった活躍もしないので何のために出てきたキャラか不明です。新キャラとなる新入生も出てきますが、印象に残りません。
キャラの造形もパターンで、いい奴は良く、イヤな奴は悪く、と分かりやすいといえば分かりやすいのですが、主人公３人以外は前作からの進歩が感じられなくて物足りません。ドラコやその親などはあくまでイヤな奴に徹していますが、なぜそうなのかをそろそろ描くべきでしょう。
進歩がないといえば、ハリーは現実世界では相変わらずおじ夫婦の世話になっていますが、彼らのハリーへの態度は彼がホグワーツに行く前と全然変わりません。前回ハグリットに懲らしめられたりしたのだから、多少は変わってもいいと思うんですけど…。これがイギリス流？の頑固さなのかなあ。

キャラクターよりも力を入れたのか、今回はＳＦＸが前作以上にレベルアップしていて、特に生物の描写の自然さには驚かされました。今回重要なキャラとなる、屋敷しもべのドビーはＣＧのはずですが、本当に生きてるように見えます。「スター・ウォーズ：エピソード２」でヨーダがフルＣＧで描かれたように、レイテックスを使う特殊造形はもはや時代遅れなのかもしれません。
このように特撮技術に自信を深めたのか、今回はクリーチャーが前作より多く登場して、ぬめぬめ、毛だらけ、うろこなど、質感にバラエティがありますがどれもリアルな出来です（しかし「ハリー･ポッター」て女性層に人気がある割にはクモやナメクジなど、気持ち悪いクリーチャーが目立つぞ）。クリーチャー以外でも飛ぶ車やしゃべる手紙、動く彫刻など、多彩な魔法アイテムが見どころで、これも観客を飽きさせないポイントです。
クリーチャーでは特に、予告などでは秘密にされている（レゴのブロックを見れば想像付くけど）、クライマックスに出てくる怪物は見ものでしょう。まるでア○○○ダ。
魔法界のバスケットボール・クディッチのシーンも再び出てきますが、これも特撮技術がグレードアップしたのか、合成が前作よりも自然ぽく見えるし、カメラアングルが多彩で、スピード感も前作以上の迫力がありました。またこのシーンは前作でルールの説明を終えているせいか、あまり長くないのも適切です。

先生たちが読んでいる新聞や本の写真が動いている描写は、クイックタイムのようなパソコンでの動画を連想しました。同時期に公開の、近未来を舞台にした映画「マイノリティ・リポート」でも新聞の写真が動いていましたが、高度な技術は魔法と変わらないのかもしれません。

この映画のパンフは７００円というちょっとした値段ですが、内容は写真ばかりで、「ハリー･ポッター写真集」と言っていいような出来になっています。記事はメインキャストのプロフィールとインタビューくらいしかなく、読み物を期待すると裏切られます。ただドラコに至るまで、各キャラのポスターイラストをちゃんと収録してあるのはうれしいところです。

この作品の公開直前に新宿の伊勢丹で「ハリー･ポッターの世界展」という、グッズの販促イベントが開かれましたが、圧倒的に女性客が目立ちました。映画がヒットするワケだ。

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ジ　ョ　ン　Ｑ
最後の決断

まだ見ていない人

製鉄所で働くジョン・Ｑ・アーチボルト（デンゼル・ワシントン）は、不況による労働時間＆賃金カットに悩まされながらも、妻と息子マイクの３人で暮らしている。ある日マイクが野球の試合中に突然倒れ、病院での検査の結果、一刻も早い心臓移植が必要と言われるが、ジョンの加入している健康保険ではその費用がカバーできないと判明する。会社の都合で彼の保険は勝手に安いものに変えられていた。ジョンは家財を売り、寄付金を募るなどあらゆる努力をするが、病院長（アン・ヘッシュ）は何としても入院費を払うというジョンの懇願を聞き入れず、マイクを病院から追い出そうとする。「何とかして！」という妻の叫びに、ジョンはある決意を胸に病院の救急医療室に向かう…。

この映画で一番良く出来ている点は、主人公ジョンに観客が共感できるように作られていることでしょう。彼の息子を思う気持ちと家族のつながりがきちんと描かれているし、妻のいらだちや病院の対応もちゃんと描くことで、ジョンの追い詰められぶりも同情できるようになり、人質を取る行為が良くないと分かっていても、彼の行動は仕方がないと思えてしまいます。ジョンを演じるデンゼル・ワシントンの熱演ぶりが、映画に一層のリアリティーを高めています。
この作品はそのジョンの行動で、こんないい奴を追い詰める保険制度とは何なのか？ということを考えさせられます。こういう、社会問題とエンターテイメントがうまくリンクした作品は、面白ければいいだけの作品が目立つハリウッドメジャー映画の中では近年珍しいのではないでしょうか。
映画はジョンの家族や友人たち、病院、そして人質事件を巡る警察とマスコミに視点を絞っています。おかげでコンパクトにまとまって見やすいのですが、実は一番の悪役ともいえる、ジョンが働いている工場を持つ会社や保険会社の反応も見てみたくなりました。もっと時間をかけたミニシリーズとしても出来る題材でしょう。

残念な点は、クライマックスの展開に唐突に思える箇所があることです。意外性を狙ったのかもしれませんが、まるではしょったように見えました。

最近の新聞記事で、詳しい数字は覚えていませんが、アメリカは少数の人々が大多数の富を占めていて、富裕層はごく一部であるということが載っていました。その記事が実感できる映画です。
しかしこの不況の時代では、この映画の出来事は日本人も人事とは言えないかも…。

すでに見た人

いいひとキャラが多いこの映画の中では、冷徹にビジネスにこだわるアン・ヘッシュ演じる女病院長の悪役ぶりがけっこう際立ちました。しかし途中で、彼女が自分からいい人になってしまうのはリアリティーに欠けてひっかかります。彼女の子供など、親しい人に懇願されるとか、マスコミに圧力をかけられるなどで仕方なくジョンに協力する、といった方が自然に見えたと思います。

冒頭の交通事故のシーンは、クラッシュの瞬間をＴＶ中継みたいにモロに写して、リアルに見えました。特にその時の音がそれらしくて、イヤーな響きです。この事故シーンで早くも、クライマックスがどうなるか予想ついちゃいますけど。

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ダ　ゴ　ン

ITビジネスでリッチになった若きエリート、ポールはスキューバをしている時、海底で巨大な遺跡のような建造物を見つける。中に入って探るポールの前にいきなり美女が現れ、彼にキスしようとするが…ポールは毎日のように奇妙な夢を見て、恋人のバーバラと一緒にビジネスパートナーのハワードのヨットでスペインの田舎に来ているのに、楽しめないでいた。だが突然の嵐に船は座礁し、ハワードの妻が岩に足を挟まれたため、ポールとバーバラは助けを求めに沿岸の漁村へ向かうが、村のどこにも人影が見当たらない。２人は教会らしい建物を見つけて入るが、そこにはキリストの像らしいものの変わりに、形容できない彫刻が置かれていた。ポールはそこにあった紋章らしいものが、夢で見た建造物と全く同じ形であることに気づく…。

H.Pラヴクラフト原作の「インスマスの影」の映画化です。
ラヴクラフトはクトゥルー神話の創造？でホラー小説や映画に大きな影響を与えていますが、その割には彼の著作はスティーブン・キングほどに映像化はされていません。
そんな中で、これまで製作ブライアン・ユズナと監督スチュワート・ゴードンのコンビは、H.Pラヴクラフト原作の映画として「死霊のしたたり」と「フロム・ビヨンド」の２本を作っています。そしてこの「ダゴン」も、製作会社は違い（倒産か解散を繰り返してるようだ…）ながらも、同じコンビが手がけた作品です。

人里離れた村が人類と別種の世界だったという怪異譚は珍しくありませんが、そういう話は「案山子」などのように、農村が舞台であることが多く、漁村というのはあまり聞いたことがありません。この「タゴン」ではさらに四六時中雨が降っているという設定にして、水ばかりのジメーっとした雰囲気で話が展開します。
この作品はハードバージョンとソフトバージョンの２つがあるそうで、日本版のビデオはハードバージョンだそうです。２つのバージョンに具体的にどういう違いがあるのかは知りませんが、ビデオの方では人の顔の皮をはぐシーンがあったりして、グロさはかなり出ています。
しかし、映画全体は９５分と長くはないものの、そんなに怖くもなく、肝心の怪物の親玉は一瞬しか姿を見せません。主人公が追われるシチュエーションにバリエーションが無いおかげか、サスペンスもあまり盛り上がらず、もたついた感じがしました。アメリカでの評判はあまり良くなかったそうですが、当然でしょう。

主人公は仲間たちを助けようと奮闘しますが、その努力はことごとく報われません。ま、映画は彼の活躍を描きたいのではなく、インボッカ村と支配者ダゴンのおぞましい実態を見せることを目的としているのだからそれでいいのでしょう。主人公のキャラクターも突っ込んで描かれていないし、まさに狂言回し的な役割です。
出ずっぱりのワリには影が薄い主人公（こういうキャラを演じることになった役者も可哀想だ）よりもこの作品では、後半で重要なキャラクターになる女性？ウシアの方が目立っているように思います。人間離れしたその容姿と美貌のせいもあるでしょうが、主人公の恋人バーバラを嬉々として傷つけるシーンは、女の嫉妬の怖さを見るようでゾッとします。

ウシアと主人公の関係は兄妹相姦を匂わせるものがありますが、深くは触れていません。他にもこの映画には、邪神ダゴンがさらった女性に子供を産ませようとするなど、性的なグロさを感じさせる設定があるのですが、スプラッタ的なグロさの描写に比べるとあっけないくらいサラリとしか出てきません。
この作品の製作＆監督コンビの傑作「死霊のしたたり」にあった、首を切断された男が自分の横恋慕している女性を全裸にして縛り上げ、自分の体に首を持たせて女を舐める、といったエログロが見事に同居したようなシーンが、この「タゴン」には無かったのも物足りない点でした。

主人公のＴシャツに「ミスカトニック大学」のロゴ。クトルゥーネタではお約束ですね。

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死　神　博　士

死神を捕獲し、強力な放射線で閉じ込めたものの、手違いで逃げられてしまい、その追跡に怪奇現象を扱う部局BRzVの会計主任タラハと、フリーターのトーマスのコンビが奔走する話です。

ド真面目な公務員タラハと破天荒なフリーター・トーマスというコンビは、異質なキャラが絡むバディムービー的なセンを狙ったのだと思いますが、ギャグ的描写が上滑りで笑えず、コンビの面白さが全然出ていません。
霊を捕まえる話は珍しくありませんが、死神を捕まえるという発想は初耳でインパクトがあります。とはいえここに出てくる死神は、人々に憑依して移動するという描写で、霊と変わらない感じです。それに登場する死神が１体のみでない割には、捕獲対象の死神以外は別に何か活躍するというわけでもなく、意味がありません。死神自体あまり怖くないし、全体的に話がやたらともたついて、クライマックスも盛り上がらない、中途半端な作品です。劇場公開ではない、ビデオリリースのみというのも当然でしょう。

タイトルは「死神博士」ではありますが、このタイトルと同名の、あの悪役キャラクターが出てくることはもちろんなく、別に死神のエキスパート（博士）が活躍する話でもありません。このタイトルはモロにマニア狙いで、内容と違う感じはしますが、僕のようにこれで見てしまう人間もいるので、上手くつけたとは思います。

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