春の日は過ぎゆく

 

 

まだ見ていない人

サンウ(ユ・ジテ)は、ボケ気味の祖母とおじ夫婦と暮らしながら、録音技師の仕事をしている。彼はラジオ局でDJをしているウンス(イ・ヨンエ)の仕事で地方に行き、風や川など自然の音を録り、番組を作っていくうちに親しくなる。ウンスは年上で離婚歴があるが、サンウに対しては子供のように素直な表情を見せる。おじ夫婦からもせかされて、サンウはウンスに結婚をほのめかすが…。

「八月のクリスマス」を手がけたホ・ジノ監督の作品です。「八月−」は公開時はラブストーリーというウリ方でしたが、実際は死を前にした男の話と言った方がいい物語でした。今回の「春の日は過ぎゆく」は、確かにウリの通りラブストーリーですが、一筋縄では行かない映画です。
ビデオで見たのですが、見終わって直後の感想はあまりいいものではなく、特に女性のウンスに反発を感じました。
しかしこの映画にはどこか、そんな単純に切り捨てられない雰囲気があります。それが何かと思ってもう1回見てみると、感想が変わってきました。
映画のメインの話はサンウとウンスの恋愛ですが、サイドストーリーとして、サンウと祖母の触れ合いのエピソードも進行します。映画ははっきりとは語りませんが、他愛なくもサンウの優しさが感じられて心温まるこの話が、彼の感情に重大な影響を及ぼしていると解釈したくなりました。
映画の終わりは爽やかではありません…と僕は受け取りましたが、この解釈も人によって違うでしょう。
このように映画は多くを語らず、観客の解釈に任せているところが多分にあるので、白黒をつけたがるハリウッド映画に慣れている人には辛い映画かもしれません。しかしだからこそ、ハリウッドの作為的なハッピーエンドなラブストーリーなんぞよりも、この「春の日は過ぎゆく」にはリアリティーが感じられます。

映画のほとんどのカットはカメラを固定した長回しです。しかもその大部分が引きで、キャラの顔がアップになるカットはあまりありません。この写し方が観客に容易な描写を許さず、解釈を難しくしてるように思います。
また映画の中でBGMはあまり使われず、大方はSEのみのシーンです。サンウが音を職業にしている設定のせいかもしれませんが、これも音楽でキャラの感情を説明しがちなハリウッド映画などとは違い、解釈を難しくしている要素でしょう。

この映画は見た人の性別、そして恋愛経験によって感想が違ってくると思います。恋愛感のリトマス試験紙になるかもしれません。
「チョコレート」のように、見てしばらく経っても尾を引く作品です。

 

 

すでに見た人

見終わって直後は、ウンスが気まぐれに年下のサンウを翻弄していたように見えて、嫌な女に思いました。
しかしもう1回見てみると、主人公たちへの解釈が変わってきました。
この映画、そして主人公であるサンウに厚みを与えている描写はおばあさんの存在でしょう。このおばあさんはボケ気味で、既に亡くなったおじいさんの死を受け入れず、今だに駅に迎えに行ってしまいます。つまりこの人はずっとおじいさんのことを愛しているわけで、主人公の恋愛感はその影響を受けているかもしれません。サンウは「愛は永遠」と思っていると解釈できます。
それに対して、ウンスは離婚を経験しています。永遠を誓った愛に破られているのだから、彼女は「愛は永遠」とは思っていないでしょう。サンウが結婚をほのめかす発言をした時、愛がまた壊れるのではないかと、引いてしまったと想像できます。
以後、結局2人は分かれることになります。別れを切り出すのがウンスなので、彼女が別れがたがってるように見えますが、彼女も自分の携帯を見たりしているから、サンウへの気持ちが揺れていると思えます。
もしかしたらウンスは、彼女が別れを切り出してから、サンウがどういう行動を取るのか見たかったのかもしれません。彼女が冷たい態度を取っても、愛が変わらないのか見たかったのかもしれません。でもサンウは彼女が引いてしまったことを気にしてか、彼女に対して遠慮した感じで接するようになります。
だからひょっとしたら、サンウがもっとウンスに強引に接して(引っ張って)いれば、ウンスは彼のことを信じる気になって、また結婚しようという気になったかもしれません。

サンウは、おばあさんが死んだことでウンスのことが吹っ切れたのかもしれません。
映画ははっきり描きませんが、おばあさんは自殺のように思えます。おじいさんを思い続けて生きていたおばあさんが、おじいさんをあきらめた、と解釈できないでしょうか。おばあさんが永遠の愛を捨てたことで、サンウがウンスのことをあきらめられたのではないかと思います。
またひょっとすると、孫の失恋を知り、ウンスの思いに苦しむサンウを開放してあげようと思っておばあさんは自ら死を選んだ、という解釈も可能なように思います。

サンウとウンスの出会いのシーンでは、ウンスの格好は面白いけど、どこかがさつな感じがしました。彼女は料理もあまりできないようだし、そういうところが前の亭主の気に障って離婚になったのかもしれません。でもサンウだったらそんなことを気にはしない抱擁力がありそうです。そのサンウを信じ切れなかったウンスは、幸福になるチャンスを逃してしまったように思います。そう考えるとこの映画、けっこう残酷な話です。

 

 


外国映画

日本映画

オリジナルビデオ

スペシャルページ

表紙

作者プロフィール

映画について思うこと

リンク