いざわひさよさんの事

 

 

伊澤尚世(いざわひさよ)さん。
先日、33才の若さで亡くなりました。
死因はよく知りませんが、自から死を選んだ、という話を聞きました。
それにはうなづけるものがありました。

彼女は「うつ」でした。
9年前、彼女の弟さんが突然、自殺しました。
思い当たる原因が全くなく、彼女は大いに混乱したそうです。
そのため心が平穏でなくなり、会社を辞めてしまって、以後、彼女は定職には就きませんでした。
なぜなら「うつ」が周期的に彼女を襲い、その間は何もする気力が無くなってしまうからです。
死にたい気分になることもあるそうで、入院したこともあったそうです。
彼女の肩書きを書くなら、「フリーター」でしょうか?
僕なら彼女に「歌人」と肩書きをつけます。

「父母がもう寝てることを祈りつつ靴音響かせ深夜の帰宅」

彼女の短歌を知ったのは2年ほど前、知人の短歌の「歌よみライブ」を見に行った時でした。
この時彼女が歌い上げた、弟の自殺の衝撃、それによる「うつ」との戦いは、まさに「魂の叫び」と言うべきものでした。短歌に漠然としたイメージしか持っていなかった僕は強いショックを受けました。

「濡れタオルで君の鼻水拭いたとき死がここにあると戦慄覚える」
「「病棟へご案内します」とうながされる彼も知るらんあの異空間を」

今「うつ」がCMで取り上げられるなど、カミングアウトしている中で、彼女の実体験から来る歌は、「うつ」の現状を伝え、世間の偏見を取り除くのにはかっこうの表現でした。
そういった闇を見つめた歌だけでなく、彼女は恋の歌も作っていました。感性の繊細な人だから、これからも凄く、そして素敵な短歌を聞かせてくれるだろうと僕は期待していました。
繊細でありながら真面目で責任感が強い人で、それゆえにポキリと折れやすかったのかもしれません。

「いい人といわれることに疲れたか?ほんとは弱い小さいおまえ」

彼女の葬儀はキリスト教式で行われ、僕は「前夜式」に参列しました。
9年前に長男に自殺され、ついに残された一人娘にも旅立たれてしまったご両親は、ひどく衰弱して見えました。
前夜式には100人くらい人が来ていました。
前述のように、彼女は高い役職とかに就いているわけではありません。
つまり、ここに参列した人たちは義理で来ているわけではないのです。

「(本当に自殺なら)こんなにたくさんの人たちがあんたを思っているのに、それに応えて生きようという気にはならなかったのか?」
「残されたご両親のことをもっと考えなかったのか?」
「あんたは本当に、自分の選択に後悔していないのか?」
生前の、小柄な彼女を彷彿させる小さな棺。
その上の遺影の彼女に、僕は叫びたくなりました。

・・・ならば自分は、彼女の苦しみをやわらげることを何かできなかったのか?
拒絶されるかもしれなくても、強引にも彼女の心に入り込めなかったのか?
それほど深い付き合いではなかったとはいえ、悔いが残ります。

「初夏の空の青さをつきぬけて天までとどけ姉ちゃんの愛」

 

 


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