ジェヴォーダンの獣

 

 

1765年、フランスのジェヴォーダン地方に前年出現した、女と子供を襲う巨大な獣の噂はパリまで伝わり、皇帝は調査のために生物学者のフロンサック(サミュエル・ル・ビアン)とその付き人でモホーク族のマニ(マーク・ダカスコス)を派遣する。2人は地元の貴族ダプシェ(ジェレミー・レニエ)に迎えられ、その歓迎の宴でフロンサックは貴族の令嬢マリアンヌ(エミリエ・デュケンヌ)に一目惚れをするが、体の不自由な兄ジャン(ヴァンサン・カッセル)は快く思わない。数日後、彼らは獣をいぶりだす山狩りに参加する。

従来のフランス映画には「暗い」とか「難解」というイメージ(そうでない作品があるのは知ってるけど)を持っていましたが、リュック・ベッソンの映画が出てからそのイメージが変わってきて、今のフランス映画にはハリウッドタイプのアクションや、ストーリー重視の作品が増えてきてるように思います。単純な映画が好きな僕には嬉しい現象です。
この「ジェヴォーダンの獣」は、そういったハリウッド的な刑事&サイコ物のスタイルの作品であった「クリムゾン・リバー」のクリフトス・ガンズ監督の最新作です。
ジェヴォーダンの巨大な獣の話は18世紀のフランスで本当にあった出来事だそうですが、そこは「クリムゾン・リバー」の監督だけあって、この映画はただのコスチューム史劇にはなっていません。獣の話を奇想天外にふくらまして、アクションあり、陰謀あり、ラブロマンスあり、特撮あり、と外面からは想像つかないような物語が展開します。

「ジェヴォーダンの獣」は「クリムゾン・リバー」以上にアクションに力が入った作品になっています。アクションコーディネーターと編集に香港のスタッフを使っているせいか、アクションは香港映画そのもので、格闘シーンでは戦い方に工夫をこらして迫力があります。
ヴァンサン・カッセルや「マレーナ」のモニカ・ベルッチなどは初め出てきた時は面白味の無い役に見えますが、あとで強烈などんでん返しがあって、この映画でもやはり彼らの個性が上手く出ています。
また、フランス映画、しかも18世紀を舞台にした話にネイティブ・アメリカンが出てくるのは異色ですが、それがかえってこの話に独特なアクセントを添えています。
こういった従来のフランス映画らしからぬ、個性的なキャラクターと、スパイアクションのノリを思わせる物語と格闘シーンのてんこ盛りで、2時間半くらいの長さの作品ですが退屈させません。

監督のクリフトス・ガンズは日本のコミックの映画化「クライング・フリーマン」(見たけどほとんど覚えてない)を手がけたそうで、「ジェヴォーダンの獣」からは香港映画や日本アニメが好きそうな雰囲気が色濃く漂っています。
特に、クライマックスの戦いにはTVアニメ「機甲界ガリアン」でガリアンが使っていた、ムチになる剣と同じ武器が登場して、日本のアニメの影響を強く感じました。

この作品の少し前に日本で公開された「ヴィドック」も同じフランス映画で、「ジェヴォーダンの獣」とほぼ同じ時代(「ヴィドック」の方が少し下る)を舞台にし、実話をネタにしたコスチューム史劇に見えながら、同様に派手なアクションと特撮を見せて、話の内容もあの時代のダークサイドを描いていることで、この作品と似たものを感じます。
さらに、やはり少し前に公開された「フロム・ヘル」は、ハリウッド映画でアクションはあまりありませんでしたが、「ジェヴォーダンの獣」と同様に実話をネタにして、やはりその時代のダークサイドを描いている点では共通したものを感じます。そういった映画がほぼ同時に公開されたことは何か因縁めいたものを感じます。
 
実際のジェヴォーダンの獣の話では、獣それ自体の姿は未確認ですが、映画では獣をちゃんと見せてくれます。特撮は、アップではアニマトロクスを使い、ロングはCGを使っています。担当はジム・ヘンソン・クリーチャー・ショップだけに、見事な出来栄えです。怪物の最後の描写は、ハリウッドよりもアジア的な情緒が感じられました。

 

 


外国映画

日本映画

オリジナルビデオ

スペシャルページ

表紙

作者プロフィール

映画について思うこと

リンク