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夏のある日の晩、祐介、岬たち4人の子供たちは、光と共に出現した小さなロボットを見つける。テトラと名乗るそのロボットは祐介を知っているらしい。パソコンを使わなければならないことで、近所の物理オタク・神崎(香取慎吾)と知り合うことになった祐介たちは、神崎がタイムマシンの研究をしていることを知り、彼にテトラを過去に送ったかと聞くが、神崎はまだ先の技術だろうと言う。一方、謎の宇宙船が祐介たちの住んでいる町に飛来していて、なにかを探していた。ボイド人と名乗るその宇宙人は岬をさらい、テトラを渡せと祐介たちに要求する。
少年たちの夏の冒険を描く話です。「ジュブナイル」という言葉は少年向けSFタッチの小説のジャンルをさす意味があると思いますが、この映画に出てくるロボットや、タイムマシン、ご近所に住む科学者(マッドサイエンティスト?)なんて設定は、いかにもジュブナイルものな感じで、中身に合ったタイトルです。
他にもUFO、タイムマシン、巨大宇宙船、果てはアニメタイプの戦闘ロボなど、この映画にはSF&アニメ関連のネタが盛りだくさんで、特に(僕みたいな)SF&アニメ大好き人間には元ネタが想像できて楽しめます。
ネタにされている作品は「スタンド・バイ・ミー」や「インデペンデンス・デイ」、「宇宙戦争」や「ボディ・スナッチャー」など色々見られます。しかし、この作品が単なるパクりの集合ではない、少年たちの気持ちをよく踏まえた、しっかりした話に仕上がっているおかげで、パクりと言うよりも、こういうシーンを描きたかったんだろうという、オマージュ的な感じがしました。
監督の山崎貴氏はこの映画が第1回監督です。普通だと、監督第1作はやりたいことをいろいろ盛り込んだ結果、内容に収拾がつかなくなることが多くなりがちです。山崎監督は特撮畑出身のせいか、この作品は前述のようなSF&アニメネタのオンパレード的作品になってはいますが、この映画のいいところはその方面に走り過ぎることなく、話とキャラクターをしっかりと描いていることです。第1作でここまでのクオリティの作品を作ってしまったのは大した才能です。撮影所生え抜きのキャリア組でいながら、凡作しか作れない「ゴジラ」シリーズの監督たちとはえらい違いです。
この映画、話が話だけに、CGをもちろん多用していますが、さすがにクオリティは悪くないし、使いどころも心得ています。宇宙船は有機的なデザインで、CGらしさを感じさせないし、最後の方に出てくるタイムマシンなんか、いかにもそれっぽい描き方でした。特撮イメージのセンスは「ゴジラ2000」なんぞよりは、この映画の方が上だと思います。
近未来の小道具なども、今と変わらないものを出して古い感じがしてしまった「アンドリューNDR114」に比べると、それらしい感じが出ています。
また、もう一人の主役とも言えるロボット・テトラのデザインや動きは、現在のアイボや、映画のダミーに使われるような、ワイヤー技術の延長を感じさせる説得力を持ち、かつ愛らしいデザインだと思います。ぎこちない動きやセリフがかえって近未来らしさを感じさせます。
この映画で一番気に入った個所はラストカットでした。どんな絵なのかはここでは書きませんが、少年の日の夢を持ち続けることのすばらしさを感動的に描写したカットです。いくつかの気になる点も、このカットで全て許せてしまいました。
欲を言えば、山下達郎の主題歌はこのラストシーンから始めて、エンディングに繋げたほうがよかったように思います。いい曲なのに、エンディングで流すだけではもったいないです。クライマックスで流せば盛り上がったのかもしれないのに。
メイキングビデオで見る限り、役者たちのチームワークは良さそうで、そのせいか主役の少年たちの演技は、みんな生き生きとした感じでした。特に、ヒロイン的なポジションの岬を演じる鈴木杏は、「ヒマラヤ杉に降る雪」でハリウッド映画にも出ただけあって、やはり上手いです。彼女の場合、捕らわれの身になってもただ助けを待つだけでなく、したたかに脱出の可能性を探る、能動的なキャラであるのも好感が持てました。
神崎は「ブラックホール」など、SF関係の用語をポンポンしゃべって、製作者の思い入れが深そうなキャラです。香取慎吾はそういった用語もりゅうちょうに話して、このキャラを楽しそうに演じていますが、SF関係の用語を覚えるのは大変だったでしょう。撮影の時期がちょうどTV版「蘇る金狼」とカブっていたと思うので、髪型も似てるし、イメージとしては「蘇る金狼」での優しい哲也の感じがしました。
「蘇る金狼」と言えば、ラストには「蘇る金狼」で香取と壮絶な殺し合いを演じた、高杉亘も出演しています。いい人役だけど。
テトラの声は林原めぐみがアテています。この人は「エヴァンゲリオン」でも出てたのでマニアックな選択という気もしますが、確かに上手い人ではあります。中盤の研究所のシーンではちょっと顔を見せています(ファンは必見)。
アニメに出てくるような戦闘ロボットが出てくるのは今っぽい感じがしました。祐介が付けたその名前はモロに、マニアな名前です。これのコントローラーがプレステというのは面白い発想だし、リアルな感じがしました。
祐介がロボットを操縦するシーンなんか、少年の日にこういったことを夢想した人もいるでしょう(僕がそうだったし)。この作品は、そういった夢が現実になる映画です。そういう意味では子供より、むしろ少年の時に科学やSFにあこがれをもっていた人がいちばんノれる映画だと思います。
このロボットは、10年くらい前の「ガンヘッド」以来、やっと日本映画でアニメ並みの動きを見せることができる戦闘ロボットでしょう。操縦者が初心者のせいか、かっこいいシーンがあまりないのは残念です。
しかし、テトラがこれの部品を安々と調達してしまうのは安直な感じがしました。とはいえ、映画全体の筋から言えば、部品調達の話はそんなにウェイトを重くできないだろうから、しょうがない展開だとも思います。
話はいいのですが、内容にやりたいことを盛り込みすぎた感じはします。特に宇宙人が出てきて、全地球の危機になるくだりは話を広げすぎた感じがしました。全地球の危機というより、ご近所的な危機くらいのスケールにとどめておいた方がよかったように思います。
また、宇宙船はかなり大きく見えましたが、あれだけの宇宙船が地球に近づいているのなら、望遠鏡でも見えると思いますし、「インデペンデンス・デイ」であったように、衛星からキャッチもできるはずです。なぜこれが誰にも気づかれないのか説明がほしいと思いました。
こんなふうに、細かい部分でチラホラと気になる点が出てきてしまう作品ではありました。でも、話の面白さと最後の感動に比べたら些細なものです。
この作品のメイキングビデオ「ジュブナイル:スペシャル・プレビュー」がTSUTAYAのチェーン店で出ていて、レンタル無料で借りられます。岬役の鈴木杏が「ジュブナイル」の撮影風景を、ひと夏の思い出として語る構成で、この映画を見た人なら再度感動できる、優れもののビデオです。
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