呪   怨

 

 

まだ見ていない人

怖い!と評判を呼んだビデオ「呪怨」シリーズの映画版ですが、恐怖度はさらにアップ。

こ、怖えーーーーーーーーーーーーっ!

…てのが正直な感想です。

ホラー物では、瞬間的にギョっと驚かす演出はありがちですが、こういう演出だと怖いのはその時だけで、本当に怖い感じはしないものです。
しかし、「呪怨」にはそういった演出はあまりありません。状況や効果音やBGMが恐怖をじわりじわりと高めていき、最後に大きなショックがドーン!と。
これがこの作品の、特徴的な恐怖演出パターンです。
しかもこれが連続で来ます。まさに「恐怖のつるべ打ち状態」でした。

さらにこの作品の上手いところは、ガラスを引っかく音や、何かが這う音や、電話のベルなど、恐怖に陥るきっかけに「音」を重視している点です。
何か不可解な事態が起こるきっかけは、何かを「見る」のではなく、「聞く」シチュエーションの方が多いのではないでしょうか。例えば、誰もいるはずのない2階から足音がしたり、電話から不可解な音がしたりすると、人は恐怖を感じるものです。
その意味で、この映画で描写される恐怖のきっかけは日常的に起こりそうで、恐怖までは行かなくても、日ごろふとおかしく思う事柄の延長が「恐怖」につながっていくのが上手いところです。
それらが視覚ではなく聴覚であることで観客の想像力に訴えることになり、より怖くなる効果もあると思います。
音で始まる霊の襲撃ポイントも日常的な場所で、これを見てしまうと押し入れもシャワーもトイレも、ベッドさえも怖くなってきます。

また「リング」での「呪い」は、ビデオテープを見るなど、呪いにアプローチしてきた人間がかかるのに対し、「呪怨」は呪いに関わるつもりがない、あるいは知らなくても呪いに引っ張り込まれてしまうのが、より怖いところでもあります。

この映画はハリウッドからリメイクのオファーが来ているそうですが、ハリウッド版がこれに匹敵するようなイカしたシナリオと演出をやってくれるのかどうか不安になります。

ビデオ版の構成は「俊雄」「由紀」という風に、人名をつけた章立ての形で分けられていましたが、映画版でも「理佳」「勝也」など、形は同じです。
お話自体も、例の呪われた家から始まる形で、ビデオ版と似た感じではあります。しかし映画版は、結末?というか、もっと踏み込んだというべきか、クライマックスは解釈に戸惑うところではありますが、明らかに違う話になっています。
ラストは、やはり怖い!と評判だった某ホラー映画に似てるように思えて、呪いの拡散を描いた「呪怨2」のスケールを飛び越えてしまったような感じがしました。
映画のポスターは、呪いを象徴するキャラクターである少年・俊雄の顔がドン!と大きく載っているもので、これを見ただけで呪われそうですが、これで分かる通り、映画版でも呪いをもたらすキャラクターは俊雄と、その母伽椰子です。
映画版では彼らが殺されるいきさつは匂わせているに留めています。この辺はビデオ版でも話をはっきりと語っていないので、ビデオ版を見ていない人でも映画を十分楽しめます。とはいえ、エピソードの中にはビデオ版を思わせる話もあるので、ビデオ版を見ていた方がキャラクターの運命が想像できて、より楽しめます。

内容の凄さのせいか、この作品は新宿で単館のみの公開です。僕は夜の回を見て、客の入りは3/4くらいでしたが、10代20代らしき若者が圧倒的に多く、僕みたいなオヤジは少数派でした。終わった後、観客が「怖かったー」と話してるのをよく聞きましたが、中には「笑っちゃったよー」という女子高生らしいグループもいました(分からんこともない)。

僕がこの映画を見た時、映画館には人数限定で入れる「俊雄くんの部屋」が再現されていました。
どうせならと入ってみると、部屋には膝をかかえたポーズの俊雄クンがちゃんといました。
するといきなり、押入れのドアからガタガタ、と音!
速攻で出てしまいました。
後で考えれば単純な仕掛けでしょうが、映画を見た後に一人で入ると、えれぇ怖い!

パンフは800円と高め(今や普通か?)ですが、菊池秀行や黒沢清のコメント、藤原カムイ(!)のイラスト、清水監督の丁寧な解説や、ビデオ版を含めた事件年表、そして女優陣をフューチャーした本編の写真ページは袋とじ(開けるべきかどうか迷う)、と内容充実で買いです。

本編が始まる前に、字のみの「呪怨2」の予告をやったのは笑いました。どういう話にするつもりやら…?

 

 

すでに見た人

映画版とビデオ版の一番の違いは、理佳が伽椰子になってしまう結末でしょう。しかし、なぜそうなのかを映画では語りません。
パンフの中に、清水監督による「「呪怨」の20の謎に答える」というテキストがありましたが、このラストについては、伽椰子が理佳に取り付いた、て表現に留めていて、それ以上の解説はありません。
伽椰子は、ビデオ版では「気持ち悪い」と語られたりしていて、生前の姿も暗い感じです。一方理佳は暗いという描写はされていないものの、頼まれると断れない内気なところが見られるし、恋人がいるという描写もなく、性格が伽椰子に似ているように思えます。
もしかしたら伽椰子は理佳に同じものを感じて取り付いたのかもしれません。
夫に殺された無念から、また人生をやり直したいと思ったのかもしれません。
しかし結局、伽椰子=理佳はまたも夫に殺されてしまいます。
ラストカットでのゴミ袋に入れられた理佳の姿は、捨てられた伽椰子と同じシチューエーションです。最後に見開いた真っ赤な目は、血の涙目のようにも見えます。終わりのない地獄に、伽椰子が泣いているのかもしれません。

理佳が携帯で話をしている時、その後ろのガラス戸の向こうにいる老人が、理佳の下半身方向に向かって、いないいないばあ、をしているシーンがありました。
老人がそれをしている対象は、画角が切れているので見えませんが、何がいるのかは観客に分かるでしょう。対象を写さなくても観客の想像力を喚起させる、実に上手くて怖い描写です。

また、仏壇から伽椰子が出てくる描写には驚きました。霊というのはたいがい神仏には弱いということにされていますから、仏壇から幽霊が出てくるシーンなど見たのは初めてです。怖いと同時に、なんと不謹慎で大胆な描写なんだ、と思いました。
結局伽椰子にとっては神仏も怖いということがなくて、まさに無敵の存在です。
監督によれば伽椰子が人に取り付くのは「恨み」からではなく「気づいて欲しい」という意味だそうですから、伽椰子には罪の意識はないと思われます。だから神仏を恐れる理由が無いのかもしれません。

 

 


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呪 怨 2

 

 

まだ見ていない人

京子(酒井法子)は深夜に婚約者とドライブ中、突然事故に合い、彼氏は意識不明の重体になり、京子は流産してしまう。ホラークイーンの異名を取る彼女はその前にTVの怪奇ネタの番組で、住人が次々と謎の死を遂げた家をレポートしていた。そして彼女だけでなく、スタッフたちにも次々と呪いが降りかかっていく…。

前作「呪怨」の公開からほぼ半年にして、早くもパート2の公開です。
前作同様ギョッとさせられるシーンがいくつかあり、客席から小さな悲鳴が聞こえる箇所もありましたが、ホラーシーンの数は前作より少ない感じで、怖さの度合いは減っています。ただこれは、恐怖シーンを増やしたところで前と同じパターンになってしまうから、それを避けたゆえのようにも思います。
今回も「京子」「千春」といった風にキャラクターの名前によってパートが分けられていますが、パートによって「ローズマリーの赤ちゃん」(見てないけど)や「女優霊」「エルム街の悪夢」といった作品を思わせるシーンが出てきて、各パートで違った過去のホラー映画のタッチを試してみているように思えました。
今回もラストは前作同様、解釈が色々できる謎めいた描写になっていますが、僕は「悪意の転生」に思えました。リアルタイプのダミアン(「オーメン」←ちょっと古!)てところでしょう。

僕がこの映画を見たのは新宿での火曜日の最終回でした。公開してから4日しか経っていなかった日なので、けっこう客が入っているかと思っていたら、半分くらいしかいなくて拍子抜けでした。今回は前作以上の拡大公開をしたため、客が集中しないで拡散してしまったのかもしれません。
見た劇場では、最終回なので上映終了後にはパンフを売らないという、観客の都合を無視したアホなことを言っていましたが、前作のパンフの内容が濃かったし、今回も見終わったらパンフを見たくなると思ったので、映画を見る前にパンフを買ってしまいました。
僕は映画のパンフの買う買わないの判断は映画を見てからにしているし、上映前にパンフの中味を見るとネタバレになりそうなので見ないから、これは異例なのですが、値段が500円と安め(かつてはこの値段が標準だった)だし、前作はそれなりに内容があったから買ってソンしないだろうと思ったのですが…。
その内容は、「飛び出す伽椰子」やすごろく、伽椰子や俊雄のお面といった遊びのものばかりで、内容に関する記事はストーリーとキャストの紹介のみ。期待した監督やスタッフのコメントとか、プロダクションノートなんてものはなく、えらく薄い内容にがっかりでした。500円でも高い!

 

 

すでに見た人

前作は「呪いの拡大」といった話だと思いますが、今回は「呪いの実体化」という話なのだと思います。
最後に京子の子供として生まれた伽椰子は、悪意が肉体を持って生まれた存在、と思えました。
彼女が母親である京子を簡単に殺してしまったように、新生伽椰子はこれから続々と人を殺していくのではないでしょうか。
現実世界では、殺人事件の報道はいまや日常になってしまった感じですが、そういった世の中の乱れの背景には、肉体を持ってしまった伽椰子のような、人間の形を持った悪意の拡大がある…と解釈したくなります。

京子の母親が途中で死んでしまい、その後、京子を守るような行動をとりますけど、これが実は伽椰子のように思います。
京子の母が死ぬ前に食事の支度をするシーンがありましたけど、後のシーンで、京子が例の家でロケの休憩でコーヒーを飲んでいる時、背後でかつての伽椰子親子の元気な時のシーンがでてきて、このとき伽椰子が食事の支度をしていたので、どこか似てるなー、と思いました。
伽椰子にすれば、自分である赤ん坊を生んでほしかっただろうから、妊娠中は京子を守ろうと行動したのではないかと思います。

 

 


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T H E J U O N
呪 怨

 

 

エマという、アメリカ人の老女が住む家に介護に行ったヨーコ(真木よう子)が姿を消した。その後彼女の代わりとして、東京の大学に留学しているカレン(サラ・ミシェル・ゲラー)がその家に来るが、彼女はそこにただならぬ雰囲気を感じる。カレンは2階の物音で押入れから少年を発見し、その少年は「トシオ」と名乗った。その直後、カレンはエマに覆いかぶさる黒い影を目撃するが、その目がカレンを睨みつける…。

Vシネマから劇場版に進出した「呪怨」。これを見た「スパイダーマン」の監督サム・ライミがほれ込み、ハリウッド用にリメイクした作品です。
この作品のプロデューサーとなったライミは、ビデオ版から監督をしている清水氏を引き続き監督に抜擢しています。そしてこれが「ハリウッド映画」にも関わらず、清水氏はこのリメイク版をアメリカではなく、日本を舞台にしました。
おかげで映画には、主人公のアメリカ人たちが「見知らぬ外国にいる不安」という要素が入り、これが映画に漂う不気味な雰囲気を高めています。
また「呪怨」シリーズでは毎回、音の使い方に感心させられますが、今回は街中で交わされるフツーの日本語の会話を強調することで、意味不明のささやきのような、不安感を出しているのが上手いところです。

主人公の女性が介護をやってるなど、設定は先に公開された劇場版に沿っていますが、「カヤコの思慕」とか「あご」や「天井裏」など、ビデオ版を連想するシーンがけっこうあるせいか、今回は劇場版というより、ビデオ版のリメイクという印象を強く受けました。終わった感じがしないラストも同様です。
しかし今回、このリメイク版で初めて見るホラーシーンもいくつかあるし、シリーズの特徴である、何気ない日常の風景が一瞬にして恐怖に変わる演出は相変わらず快調で、ホラー演出がオリジナルを超えたという感じはしないけど、衰えは見られません。
この作品がアメリカで公開された94年の秋、2週連続で興収1位になったことがニュースにもなりましたが、僕らがビデオ版や劇場版で始めて「呪怨」を見たときと同様に、アメリカの人たちも震え上がったことでしょう。これの少し前に公開された「着信アリ2」なんぞとは、やはり格が違います。

このハリウッド版の日本公開バージョンは、アメリカ版では刺激的過ぎるとカットされたシーンを加えた、ディレクターズカット版だそうです。おそらく、児童虐待のシーンがカットされた箇所でしょう。また真木よう子(このところ「感染」や「パッチギ」など売れっ子!)に関してかなり気持ち悪いシーンもあり、それもカットされていたかもしれません。

本編では殺されるシーンは出ないけど、呪われたと思えるキャラクターが何人かいました。このリメイク版でのパート2の話があるそうですから、もしそれができれば、今度はその人たちが殺されるエピソードになるかもしれません。

 

 


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呪 怨
パンデミック

 

 

アメリカでヒットしたハリウッド版「呪怨」のパート2。この作品もアメリカではそれなりにヒットしたそうですが、前作には及ばなかったようです。
「パンデミック」は日本でつけたサブタイトルだと思いますが、「流行」という意味だそうで、これで呪いがどうなっていくのか、想像がついてしまいます。
今度は、海の向こうの呪いがやって来るということで、アメリカ人を怖がらせようとしたかもしれません。ただ呪いの行方をあまり大っぴらな描写にしていないのは、既にビデオ版の2作目で呪いの拡大というネタをやっているので、違いを出そうとしたのかもしれません。

今回の話のウリは伽椰子の過去のようで、この部分はそれなりに興味は引かれました。ただホラーキャラの過去を描くというのは、シリーズモノのパターンではあります。しかし、これを出す意味がほとんど無いような展開であるのは、アンチテーゼかと好意的に解釈したくもなりました。
そのカギとなる人物・伽椰子の母のいる場所はおどろおどろしい雰囲気がよく出ていて。妙に毒々しかった(特撮シーン以外は)「ノロイ」を思い出しました。
そのせいなのか分りませんが、伽椰子の母はやけに英語が上手いのに、あまり気にならなりませんでした。

肝心のホラーシーンは、時々ギョッとする箇所はあるものの、これまでのシリーズで使ったパターンが目立ちました。なんだか伽椰子は「エルム街の悪夢」のフレディ・クルーガーと化している感じがします。
なのでもう、3作目は止めた方がいいでしょう。清水監督も「呪怨」から解放して、別の作品に挑戦させてあげるべきではないでしょうか。

 

 


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