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中つ国(ミドルアース)は、かつて魔王サウロンが作った魔力を持った指輪により暗黒の世界となったが、人間&エルフ混合軍の戦いでその指輪は落とされた。何千年の月日が流れた後、ホビット族のビルボ(イアン・ホルム)がその指輪を拾って持ち主になっていた。指輪の魔力を知る、友人である魔法使いガンダルフはビルボに指輪を捨てるよう諭すが、ビルボはその執着から抜けられず、自分では捨てられなくなり、彼を親のように慕うフロド(イライジャ・ウッド)に譲る。フロドはガンダルフに言われ、指輪をエルフに破棄してもらうために友人と共にエルフ族の国へ旅立つ。だが復活しかけてるサウロンの手先がフロド達に迫りつつあった…。
この映画の原作「指輪物語」はファンタジー小説の元祖として有名ですが、ハードカバー6冊というぶ厚さの本で、文庫版では9冊にもなります。
映像化では1度、80年代頭にアニメで映画版が作られ(「ロード オブ・ザ リング」の公開により、ビデオリリース!)、何本かで完結の続き物として作られましたが、今のところ公開されたのは1本のみで、完結していません。
そういった困難さを聞いていたので、初めて「指輪物語」を実写で映画にする、という話を聞いた時は「本当に出来るの?」と疑問でした。
今回の映画版「指輪物語」は全3部作という計画で、この「ロード オブ・ザ リング」は原題の方では「旅の仲間」とサブタイトルがつけられ、パート1にあたります。
物語が1本で完結しないのはまどろっこしい感じがしますが、今回の映画はあの長い原作を分かりやすくまとめていて、読んでない僕にも話が見えなくなることはありませんでした。あれだけの長さの小説をちゃんとした映画にするなら、この構成が限界でしょう。
ただし、世界観が独特な作品だけに「中つ国」とか「ホビット」とか「オーク」とか、人名や地名を把握しないと話についていけません。特に冒頭は、中つ国の歴史など、設定の説明にかなりの時間をかけているので、字幕をちゃんと追っていないと話が分からなくなります。
オークと人間の大軍団の激突シーンなど、実写でこれだけの迫力を持って描かれたファンタジー映像はかってないでしょう。ゲームのCG映像で似たようなシーンがあったかもしれませんが、重量感は及びもつきません。
原作自体がRPGの元祖と言っていい作品ですから、ゲームでおなじみである怪物や魔王やトロールやダンジョンといったものが迫力を持って映像化されています。こういったものが登場するアクションシーンが映画ではほぼ切れ目なく出現するので、特にRPGが好きな人には堪らない作品でしょう。
こういった異世界のイメージではCGが大量に使われていて、「指輪物語」の映画化の大きな要因はCG技術の進歩であろうと推測できます。この作品でのCGをメインで担当したスタジオは監督の地元であるニュージーランドの会社だそうですが、ハリウッドのレベルに引けを取らない素晴らしい仕事を見せてくれます。
特撮は迫力あるし、話も分かりやすいのですが、ストーリーを追うのが一番重要になってしまったせいか、キャラクターの描写は深くありません。そのせいか登場人物に感情移入しにくく、退屈とは言いませんが、話が長いと感じました。
ただし今回は第1作ということで、設定の説明に時間を取られるのはやむを得ないと思います。「スター・ウォーズ」のように、世界観にしろキャラクターにしろ後になって深く描写される例もありますから、この作品だけでダメと断定するのは早計でしょう。
物語はその「スター・ウォーズ」を思わせるし、キャラもかぶっている感じですが、「指輪物語」はそれの製作よりはるか前に書かれていて、ジョージ・ルーカス自身もこの小説を読んでたようです。むしろルーカスの方が「スター・ウォーズ」を作っていた時に「指輪物語」を意識していたのだと思います。
この話のキーになっているアイテムは一見ただの指輪ですが、所有者を悪に引きずり込むパワーを持ち、これが善を悪に変えてしまうことで、キャラが単純にいい者と悪者に分かれていないのが話の面白いポイントでしょう。「指輪物語」とは、人の心のあやふやさを指輪を通して描写しようとしたドラマなのだろうと思います。
こういった、善が悪に落ちたり誘惑されるパターンの話は普遍的なもので、それが長年、世界中の人々がこの物語に惹き付けられてきた理由ではないかと思います。
また、何かを「得る」あるいは「得ようとする」話はよくありますが、「捨てる」という形は変わっています。この映画の話の中で、かつて人間の王が指輪を捨てられなかったように、力を「捨てる」のはかなりの勇気を必要とします。
今は資本主義が大勢を占めている世の中で、お金=力のような世界に我々は生きていますが、それが自然を破壊し、地球を傷つけてきたように思います。これからはそういった拝金主義的な考え方を「捨て」て、ホビット族のように自然に帰ることが必要なのかもしれません(悪者であるオークの集まっていたところでは機械のようなものが稼動していて、暗い産業革命=資本主義のイメージを思わせます)。そう考えると、原作ははるか前に書かれましたが、映画化はタイムリーであったかもしれません。
監督のピーター・ジャクソンは過去に、マペットの殺し合い「ミート・ザ・フィーブルズ」や映画史上最高量の血を流したかもしれないゾンビもの「ブレインデッド」など、面白いけどキワもの的な作品を作ってきた印象が強いので、シリアスな長篇ドラマを作れるのか不安でしたが、見事な演出ぶりです。
前半でフロドたちを追う黒づくめの追っ手が、以前にピーター・ジャクソンが監督した「さまよう魂たち」に出てきた悪霊を思わせて不気味でした。
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