燃 ゆ る 月

 

 

太古の昔、メ族はファサン族に戦いを挑んだが、神山の力で守られ、メ族は呪いを受けて荒野へ追放された。メ族は神山の呪いを解き部族を再興するため、千人の部族の血肉から天剣を作る。その最終工程はメ族とファサン族の血を引く子供を生贄にすることで、メ族の女族長スはファサン族の族長ハンを騙して子供を作り、その娘ピを生贄にしようとするが、その寸前にピはハンの手によって救い出される。それから10数年後、ファサン族の部落に戻ったハンは村人にピを預ける。数年後、ピ(チェ・ジンシル)は村の若者タンと愛し合う仲になるが、タンの親友であり族長の候補であるジョクもピを愛していた。そしてピの親友である、族長の娘ヨン(キム・ユンジン)はジョクに好意を抱いていた。その部落に、スの命を受けてピを浚おうとするファサン族が迫る。ピの方も、自分が生け贄になる幻視を見るようになり、体にも変化が現れてくる…。

「シュリ」の監督カン・ジェギュが製作した作品です。韓国の神話や昔話は僕は知りませんが、この物語はどこの世界のいつの時代とは限定しておらず、オリジナルの、ファンタジーというべき作品でしょう。

話そのものは楽しめました。一番ノれた部分は、中心となる4人のキャラの運命です。
生け贄となる運命におびえながらも部族を思うピ、彼女と愛し合いながらもその運命を見守ろうとするロン、彼女をモノにしようと部族を裏切ってでも運命に抵抗するジョク、ジョクを思いながらも部族のために彼を追っていくヨン…この、4角関係ともいいたくなる彼らの「思い」がドラマを動かしていきます。
キャラを絞ったおかげで彼らの心情はよく描けており、彼らの直面する、愛する人か部族かの選択というジレンマには興味を引かれました。
その中で、愛する女の運命を受け入れる男と、抵抗する男の対比は面白いです。この映画はいわば「剣を持ったトレンディドラマ」(ちょっと古めの言い方)といった感じです。
いつの時代でもやはり、男の一番のプライオリティーは女やねえ。

設定ではメ族の恨みは500年に及ぶそうですが、本編ではそんなに長い怨念は感じられません。またメ族にしろファサン族にしろ、そんなに大人数は出ていないので、地方の豪族の争い程度にしか見えず、スケール感に欠けます。
メ族とファサン族の争いは始めに字幕で語られ、映画の本筋はスがピを身ごもったのが分かったあたりから始まります。「ファイナルファンタジー」などがそうでしたが、世界観が独特な場合、設定を字幕で語ってしまうと、話がかなり把握しにくくなります。
また、神山の怒りの描写など、説明をしてくれないと何なのか分かりにくいシーンがあったり、中盤で冒頭に出てきたキャラがいつの間にか復活しているとか、粗い描写が目立つ部分があります。

この作品はカン・ジェギュ氏の監督デビュー作「銀杏のベッド」の前日談だそうです。僕はこの映画を見ていませんが、この「燃ゆる月」のラストは「銀杏のベッド」と関連があるように思われます。
しかし僕にはラストで唐突にそういうシーンが出てきたように思えて戸惑いました。「銀杏のベッド」を見ていない人には「何でこうなる」と言いたくなる描写でしょう。
この作品、韓国では公開当初はヒットしたものの、すぐに落ちてしまったそうですが、こういった問題点がある作品なら無理もないでしょう。

この映画で僕が知っていた俳優はただ一人、「シュリ」で女スパイを演じたキム・ユンジンでした。「燃ゆる月」では彼女は族長の娘ながら弓の名手であり、剣も使える勇ましいキャラです。しかし「シュリ」で演じた役も戦闘的なキャラで、この「燃ゆる月」の最後の方は「シュリ」と全く同じ状況になる描写があります。これじゃ役柄固定しちゃうぞ。
キム・ユンジン以外のメインキャラも熱演していますが、一番目立っていたのはピを演じたチェ・ジンシルでしょう。彼女は武術ができるわけでもなく、前半はあまり目立ちませんが、運命を受け入れていく後半になると話を引っ張っぱるようになり、どんどんきれいに見えてきます。

天剣が出る舞台のデザインやギミックは「スターゲート」を思わせるし、それへの神山の攻撃は「レイダース/失われたアーク」を思わるし、剣を得るという状況は「エクスカリバー」を思わせます。
ファサン族の部落は「もののけ姫」のアシタカの村を連想したし、彼らが神山で冒険をするシーンは「ロード オブ・ザ リング」…といった風に、この映画は種々の有名な映画をなぞったと思える設定やシーンがあります。
パンフでは、この「燃ゆる月」は世界市場を焦点にしているそうで、こういった従来のイメージは、良く言えば分かりやすいとは言えるでしょう。しかし、この映画でも意識したであろう黒澤明や宮崎駿の映画で見られるように、もっとオリジナリティーを出すことが大切です。残念なのはこの映画で、そのオリジナリティーであろうと思える部分はたいがい、製作者の独りよがりの描写になってしまっていた点でした(まるで「ファイナルファンタジー」)。

 

 


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