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「アルマゲドン」で大ヒットを飛ばしたプロデューサー:ジェリー・ブラッカイマーと監督:マイケル・ベイのコンビが、ヒットの夢よもう一度、と放つ大作で、1941年12月の真珠湾攻撃を軸に、その戦火に巻き込まれた3人の男女が織り成すラブストーリーです。
宣伝では戦闘シーンの迫力をウリにしていますが、さすがに実際の爆破とCGで作り上げた戦闘シーンは大画面にふさわしい迫力を出しています。
しかしこの映画の見るべきところは、それだけといっていいでしょう。戦闘以外の、というよりメインとなるラブストーリーの方は、 展開がすぐに読める安易なものです。
今年は真珠湾攻撃から60年に当たる年だそうで、だからこの映画が企画されたそうですが、企画の本当の理由は制作者の単純な思いつきだそうで、 「タイタニック」が大ヒットしたことから、 世紀の大事件と恋愛を絡める話を企画したのだと思います。しかし「タイタニック」は、違なった階層でのロマンスという船内の設定を上手く生かした話にしていましたが、「パール・ハーバー」の方はそういう工夫も感じられません。ましてや、題材(タイタニック)に入れ込んで自分の映画人生を賭けるリスク(「タイタニック」は公開を延期したこともあって、コケると思ってた人が多かったみたい)を背追ってまで映画にこだわったキャメロンの執念がこもった「タイタニック」に比べれば、金をかけて適度に凄いものを作ってしまっただけに見えるこの「パール・ハーバー」には制作者の情熱も感じられません。
真珠湾攻撃から60年も経っているのだから、この映画にこれに対する新しい視点でもあれば作る価値があったと思いますが、中味はそんなものはまるで見られない、「リメンバー・パール・ハーバー」の時代に戻ったような、アメリカ賛美の映画になっています。軍備拡大路線を走ろうとしていくように見える、今のブッシュ大統領の風潮に重なり合うような内容には不気味さを感じます。
映画では日本が敵国にはされていますが、映画の本当の狙いは、北朝鮮あたりを仮想的国にして、奇襲に備えようという話にも見えます。
日本人としての見どころはやはり、日本軍に関する描写でしょう。このテの大作映画では久しぶりに笑える日本の描写を見たように思います。製作者たちは、日本に関する描写を入れて公平をはかったと言っているそうですが、それにしてももう少しちゃんと調べろと言いたくなります。特に作戦会議なんて・・・戦国時代じゃねぇっつーの。
予告でもあった、セロ戦のパイロットが子供に「逃げろ」というシーンは日本人に配慮して入れたように思いました。実際の戦闘なら、子供とはいえ敵国の人間に日本の軍人がこんなことを言うことはなかったと思います。
公平さをはかったと言っておきながら、戦闘不能の米兵をゼロ戦が撃ち殺していく描写なんか出てきて、やはり日本は卑怯だと言いたい感じですが、東京大空襲や原爆投下の歴史を考えれば、アメリカだって同じでしょう。でも当然、この映画にアメリカ軍による非戦闘員の殺戮シーンは出てきません。
この作品の特撮はILMですが、「タイタニック」の特撮がデジタルドメインだったことを思うと、対抗したんじゃないかと想像したくなります。この映画では実際の爆破シーンも多々あるようですが、さすがILMだけあってどれが実写でどれがデジタルか、見分けるのは不可能なくらい特撮はよくできています。
数カ月前の「ビッグコミックスピリッツ」で「クロサワ」が連載されていましたが、これは真珠湾攻撃を描いた日米合作映画「トラ!トラ!トラ!」の当初の監督であった黒澤明のジレンマを中心に描いた話で、その中で黒澤は実物の再現にこだわっていました。この「パール・ハーバー」で実物大の艦船を実際に爆破させたシーンだけ見れば、黒澤のやりたかったことをわずかながら実現したように思います。とはいえもし黒澤が、事実の歪曲がかなりあるこの映画を見たら、怒っただろうと思いますが。
恋愛パートで唯一といっていい見どころは、ヒロインであるケイト・ビッケンセールの美しさでしょう。彼女はくせのない、古いタイプの美人という感じがして、こういった時代がかった話だと美しさが際立つ女優のように思います。
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下半身マヒのルーズベルト大統領が立つシーンは感動的(実際こんな出来事は無かったそうですが)だし、 主人公達がゼロ戦を撃墜していくシーンは痛快に盛り上げていて、アクション面での演出は上手く乗せてくれます。ただ、見ていると彼らを応援したくはなりますが、彼らに撃ち落とされるゼロ戦に乗っているのは日本人だと思うと、複雑な気持ちにはなります。
クライマックスは東京空襲ですが、当初のこの作戦がアメリカ軍にとっても特攻といっていい、捨て身の作戦だったのは初めて知りました。
しかし、この東京空襲のブリーフィングのシーンで、ドゥーリトルが「助からないと分かったら、乗組員を脱出させて自分は軍事的に重要らしい所に突っ込む」というセリフは、まるでカミカゼで、全体主義的に思います。とはいえ、男の執念が見えるかっこいいセリフ、という受け止め方もしてしまうのですが(そう思ってしまう自分が怖い)。
映画で唯一、古臭くないと思ったのは、主人公の引退後の境遇です。
ベン・アフレック演じる主人公は、昔だったら勲章を受けたりとかの英雄にしたところでしょうけど、そういうシーンは出さず、ラストは彼が田舎に引きこもっていたのが、自分を取り戻したようでホッとさせられました。
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