|
「マイノリティー・リポート」のコンビ、監督スティーブン・スピルバーグと主演トム・クルーズが再びタッグを組んだということで、2005年夏一番の超大作として「スター・ウォーズ
エピソード3:シスの復讐」と並んで、大宣伝された映画です。
原作はH.G.ウェルズの古典的名作で、1950年代にジョージ・パルが製作した映画版はSF映画の古典的名作として知られています。今回は設定を現代にして、宇宙人の侵略から逃げ回るレイ(トム・クルーズ)一家の姿を描く話です。
特撮を手がけたのは大御所ILMで、ここは同じ時期に「スター・ウォーズ エピソード3」もやっているのでかなり忙しかったはずですが、手抜きは感じられない映像を見せています。エイリアンの「掃討三脚戦車」ウォーマシンは、質感はゴテゴテして異星人ぽくありませんが、デザインは不気味で、登場シーンも迫力があります。
宇宙人来襲の映画は数多く作られていますが、その主人公はたいがい軍人や科学者といったヒーロー的な人々です。なのでこの「宇宙戦争」のように、一市民の視点から語られる形は珍しいことです。
それゆえ映画には、家の外で爆発が起こっていても何かは分からない(普通の映画だったら、こういうシーンでは家の外でエイリアンが攻撃する描写を見せるところですが、この作品ではそういう他の視点は入りません)といった、情報が不足気味のリアリティーがよく出ています。
スピルバーグはインタビューで、この作品が9.11事件を反映している、と取れる発言をしています。確かに本編にはそれを思わせるシーンがちらほらと出ているし、エイリアンをテロリストのモチーフにして、観客に大規模なテロ戦争を体験させよう、という意図は感じられます。
しかし主人公がフツーの人のため、彼はエイリアンに対してほとんど何もできず、逃げ惑うばかりです。そのせいか映画は盛り上がりに欠け、戦争はいつの間にやら終わってしまいます。ラストの軍隊の活躍シーンなんか、取ってつけたようにしか見えません。
ウォーマシンの人間攻撃シーンはかなりグロい描写だし、その他にも残酷なシーンが色々あります。また人間のエゴ丸出しでイヤになるシーンもあるし、他人を殺しても自分本位で生きろと解釈したくなるシーンもあります。子供に見せたらトラウマになりそうで、親子連れの人には勧められません。
映画は50年代版に比べると諸々リアルな描写になっていますが、かといってこんなにまでダークにする必要があるのか、疑問になります。
こういうエイリアンの無差別殺戮は、もしかして「呪怨」とかJホラーの影響か?とも思ってみたくなりますが、気持ち悪いだけであんまり怖くありません。
映画の中盤で、エイリアンの探査体が隠れている人間を探すシーンがありますが、これが結構長く、香港のコメディ映画によくあるような、誰かが探しに来てそれを隠れながらかわそうとする人、というギャグを見てるようで笑ってしまいました。同じスピルバーグの「ジュラシック・パーク」での、ラプトルが人間を探すシーンの恐怖度なんぞにはとうてい及びません。
また映画にはエイリアンの本体が登場しますが、頭のデザインが「インデペンデンス・デイ」のエイリアンと激似!なのにはムカつきました。こんな発想しか浮かばないクリエーターの貧困さが悲しくなります。これなら、50年代版のエイリアンをまんま出した方がまだ許せます。
レイの長男を演じるジャスティン・チャットウィンが途中で消えますが、この意味がよく分かりませんでした。いっそのこと、途中で娘のダコタ・ファニングがエイリアンに連れ去られて、レイが長男と一緒に彼女を救いに行くとか、離婚した奥さんと共に逃避行させて、彼らがまた家族として一体になっていく、て話にした方が良かったように思いました。
まあそういう内容にするとレイがヒーローぽくなってしまい、リアリティーに欠ける、てことでああいう話にしたのか…?
「マイノリティー・リポート」もオイオイ!と言いたくなる話でしたが、未来世界アイテムの面白さがあった分、まだ「マイノリティ−」の方がこの「宇宙戦争」よりはましに思えました。
また同じ宇宙人侵略ネタなら、「インデペンデンス・デイ」の方が遥かに良かったと思います。そりゃ「宇宙戦争」に比べるとリアリティーには欠けますが、自分としてはエンターテイメントにはリアルよりも、感動や爽快感を求めたいので。
さらに50年代版の「宇宙戦争」は、今回のバージョンに比べると特撮技術は劣るものの、絶体絶命!の盛り上がりや世界の終わりのような壮大な雰囲気があり、名作と言われるに相応しい風格がありました。今回はとてもそこまで及びません。確かに映画館で見ると迫力はありますが、1800円払ってもいいほどの満足が得られるかは、疑問です。
結局この作品は、「無差別テロに見舞われた一般人や軍人の愚かな行動を描く映画」と割り切って、爽快感や感動といった映画的快感は、期待しないで見るべき映画でしょう。
エイリアンの姿など、内容に関する情報は封切前まで一切出さなかったし、映画の批評も公開前には出さないよう、配給会社が通達を出していたそうです(それって許されることか?)。もし公開前にそういう情報を出してしまったら、内容のショボさがバレて、興行成績に響くのを危惧したのではないか?と勘ぐりたくなります。
年寄りの映画評論家がハリウッド映画を、SFXだけに頼ってる、とムヤミに批判することがありますが、そう思われても仕方のない映画の、いい(悪い)例です。
|
|