収録が始まる前の前室。ありきたりの着信音が鳴る。

「もしもし?あー、うん、平気。あ、ほんと?いつ?うん、行けそう。木村?ちょっと待って。うん、今、一緒。
 なー、木村!同窓会だって。行くよな?」

電話から顔を離して部屋の隅にいる木村に呼びかける。

「いつ?」
「今度の金曜。夜なら空いてるだろ?」
「ん。じゃあ、行く。」
「もしもし?うん、2人で行く。詳しいこと決まったら教えて。え?もう決まってんの?ちょっと、待って、メモ取る。
 え?何?木村。」

いつの間にか中居の隣に移動してきていた木村に、会話を妨げられ中居は少し嫌な顔をした。

「誰と喋ってんの?」

中居が伝えたのは、二人が一緒に入っていたバスケ部のチームメートの名前。
それを聞くと木村は中居の携帯に手を伸ばした。

「貸して。」
「え?何だよ。」

嫌がる中居を無視して携帯を奪う。

「もしもし?久しぶり。うん、木村。決まってる事メールしてくれない?うん、地図とか。うん、車で行くしさ。」
「何だよ、メールって。」

突然電話を取り上げられ、しかも自分の苦手分野の話が進められ、中居はふてくされて口を尖らせる。

「ほんと、メール付いてないって使えないよな。」

木村はそんな中居をからかいながら会話を弾ませている。

「じゃ、よろしくなー。はいよー。」
「もしもし?あ、切れてんじゃん!ちょっとー、俺に掛かってきたのに勝手に切るなよ!」

さっきから面白くなかった中居は更にむくれて、ほっぺたまで膨らませている。
木村はそんな様子にも慣れたもので

「ごめん、ごめん」

と軽く流すと

「で、どうしよっか?その日。」

と話を進めていく。中居はまだ多少膨れているものの、久しぶりの同窓会を前にテンションが上がるのは押さえられなかった。

「木村、車出してくれんの?」
「出すよ。中居んちまで行くよ。」
「マジ?木村拓哉がお迎え?いいな、それ。」
「なんだよ、それ。じゃあ、可愛いかっこして来いよ!」

そう言って、お互い笑顔を見せあうと、中居は「う〜ん」と伸びをし、更に顔をほころばせる。

「久しぶりじゃん!2人で行くのなんて初めてだろ?」
「こないだは中居、誘ってくれなかったからな。」

今度は木村が膨れる番だ。

「だから、悪かったって言ってるじゃん。」
「反省してる?」
「してます。」

コントのような会話を繰り広げる2人には既に同じ部屋にいるはずの他のメンバーが見えていない。

「吾郎さんは、森君と同窓会行ったりしないの?」
「しないね。ホームパーティーは良く行くけど、同窓会って行かないし。」
「僕とつよぽんも同級生だったら良かったのにね。」

こんな会話もまるで聞こえていない。

「「楽しみ」」

声をそろえて言う二人は、アイドルでもスターでもなんでもなく、ただの同級生だった。














一日オフだった木村は少し早めに支度を終わらせ、中居に確認の電話をする。
まだ出れないだろうと思いつつ掛けたものの、意外にも相手はすぐに木村に応えた。

「もしもし?」
「中居?俺。」
「あー、もう仕事終わってうちにいるから、いつでもいいよ。」
「マジ?俺も早めに準備したんだよね。」

楽しみを前にじっとしていられないのは2人とも同じらしい。

「じゃあ、もう来る?」
「あ、そうするわ。」
「あいよー。じゃあ、待ってる。」
「おう!」

電話のあちら側とこちら側。驚くほどよく似た笑顔が二つあった。


中居に電話を掛ける前、木村はひとしきりCDとにらめっこをしていた。
どれを持っていくか。新しいMDを作るか。
左に見えるはずの笑顔を想像しながら、取ってはしまうを繰り返していた。
そして、最終的には、あの頃、2人で飽きずに聞いていた一枚を取り出し車に積んだ。

走りなれた道を軽快に飛ばす。

中居の家が見えるよりも先に、何台かのカメラが目に付いたのが多少テンションを下げたものの、気にせず、車を脇に寄せ、携帯を取り出す。

「もしもし?着いた。」
「あ、あーのさ、まだ早い・・・しさー、上がる?」

どこかぎこちない中居の物言いが木村にも伝染る。

「あ・・・。じゃ・・・上がろうかな。」
「ん。駐車場あけるから回って。」

そう言うと中居が何かボタンを押す音が聞こえ、ゲートが開く。
あまり見ない外車と並ぶ、よくみる改造車に口元が緩む。
大きい車を器用に1回でスペースに収めると、エレベーターへと向かう。

玄関で出迎えた中居の姿は「はにかむ」という言葉を木村に思い出させた。

「おかえりなさい、あなた。なんてな。入って。」

そういてすぐ背を向けたとき、顔は照れて真っ赤だっただろうが、その肩に手を掛け振り向かせる隙も、「ただいま、マコ」と言わせる隙も与えられず、木村は、ただ「お邪魔します」とつぶやきながら上がるしかなかった。
何故か「はにかんで」いる中居を怪訝に思いながらも、久しぶりに来る部屋の奥に進む。

「なんだ、普通に片付いてんじゃん!」
「なんだよ、それ。」
「だって、汚い汚いっていうから。あんな綺麗だった中居んちが汚いってどういうことかと思ったけど、平気じゃん!」
「うん」

声に力がない中居に気付き、

「もしかして頑張って片付けちゃった?」

隣にある肩に手を置き顔を覗き込むと、中居は予想通り顔を背ける。

「俺のためにそこまでしなくても良いのに。ありがとな、ヒロ。」

一昔前の気障なドラマ風に決めてみても、わざと下の名前で呼んでみても、怒った声も聞こえなければ、口より先に手が出ることもなかった。
ただ、中居は顔を背けたまま立っていた。

「何?どうしたの?」

めったにないチャンスにそのまま気障な役を突き通せば良いところを、本気で心配してしまう辺りが木村らしい。

「なんでもないよ。座って。」

何でもなくはないだろうと思うものの、長年の勘で病気でも悩み事でもないらしいと察すると、素直に指差されたコタツの一辺に座る。

「なんか飲む?」
「うん。」
「なんか・・・食べる?」
「ん?うん。」

いつもとあまりに違う様子に思わず頷いて答えた木村を見て、中居は心持ち顔をほころばせたものの、どこか緊張感の漂う会話が続いた。

「これ・・・さ・・・。」

中居がそう言って、必死に平静を装って何かを持ってくる。
ただ、今日の中居の演技はとてもドラマのプロデューサーには見せられない代物だった。

手に持っているものは、何か小さな器に入った透明のもの。

「え?これ、中居作ったの?」

木村に見つめられ、中居は目をそらすこともできずに顔を赤くした。
今日の「はにかみ」の原因はこれだったらしい。

「うまそ〜!」

否定しないのは肯定だと判断したき村は笑顔を全開にする。

「食べていい?」

中居の手料理を食べるのが初めてなわけではないが、プライベートで自分のために作られたものかと思うと、格別の感情があふれ出した。
それは中居にとっても同じで、そっけなく言うはずの

「いいよ。」

の言葉も、やけに可愛く響いていた。

気にしないフリをしている中居の視線を強く感じながら、中居お手製の桃のゼリーにスプーンを沈める。

ぷるん

その触感に木村の口角が上がる。
そして、一気に口へ運ぶ。

ぷるん

今度は食感としてそれを楽しむ。そして、広がる爽やかな甘さ。

「うまい!」

偽りのない木村の笑顔。中居の様子に茶化すこともできなかった。

「マジでうまいよ!どうしたの?作り方知ってたっけ?」
「うん」

緊張がほぐれない中居を見て、木村のめがくるんと一回転する。

「じゃ、勝利シェフにキスのご褒美、かな。」

茶目っ気たっぷりに言って、顔を近づける木村に、中居の呪縛もやっと解けた。

「なんだよ〜。」
手をぴんっと突っ張って木村をはねつける。
ただ、今日の中居は可愛らしさが抜け切らず、その拒否の姿勢もじゃれ付いてるようにしか見えなかった。。

更に顔を近づけるフリをする木村と、拒否するフリをする中居。
床に転がりながら、ひとしきりじゃれあうと、やっと落ち着いて最後までゼリーを食べる事ができた。

「でも、まさか中居がお手製ゼリーを作って待っててくれるとはね。」

からかう木村と、

「拓哉のためにマコ、頑張って作ったの。」

演じる中居。

お互い赤くなってるのはおかしかったが、2人は自分達のショートコントに没頭している。

「可愛いマコが料理まで上手で俺、嬉しいよ。」
「拓哉のためにもっと頑張るね」
「マコ」
「拓哉」

ここには、吾郎も剛の慎吾もいない。2人を阻むものは何もない。手に手を取ってくっついた2人を止めるものは・・・
中居の目に入った時計だった。

「あ、そろそろ?」

一気にコントモードから戻る。

「おっし、行くか。」

木村もをそれに続く。

「戸締り、戸締り。」
「ガス、電気。」

ここでも、絶妙なコンビネーションがみられたが、二人はそれに気付かない。


「あ、中居。」

点検を済ませ、玄関へ行く後姿に声を掛ける。

「ん?」
「下、カメラいっぱいいたけど」
「うん」

悲しいかな、二人にとってはそれが当たり前だった。

「2人で出かけたってなったらやばいか。」
「うーん、でも中居が歩いて出て行ったのを拾うってわけにも行かないしな。」
「2人してキャップにサングラスしたって、どうせばれるわな。」
「それこそ中居が女装するか?」
「木村、Pちゃんになれば?」
「余計ばれるって!」

今日の二人に深刻さはない。

「「ま、いっか。」」

外に出る時の必須アイテム、帽子とサングラスを忘れるわけにはいかないが、二人は一緒に玄関を出、駐車場へと向かう。

「2人のドライブ」
「行くぜ」

お気に入りの曲を合言葉に車を動かした。

「あー、いるいる」

週刊誌のカメラが目に入るが、気にせずマンションを出る。

エンジンが掛かった車からは、木村の選んだ曲が流れ出す。

「おっ!」

中居の笑顔に木村の笑顔が応える。

その一瞬を捉えた写真が後日週刊誌に載ることになるが、今の二人には関係なかった。

木村の期待通り、懐かしいCDに会話が弾み、助手席では笑顔がはじけていた。
既に同窓会は始まったも同然だった。














2004.8.18 UP
HAPPY BIRTHDAY TO MASAHIRO!!
32回目のお誕生日おめでとうございます!!
毎年、感謝してしまうこの日。今年はメンバーとともに過ごせているかしら?
この話、続きます。ただ、今日までに仕上がりませんでした(^^;)
今年はもっと中居くんが素直になれますように♪