その日、吾郎が普段通り楽屋に入ると【稲垣吾郎様】と書かれたカードが置いてあった。
衣装にも着替えずに手に取ると【1番好きなメンバーの楽屋に行ってください】とだけ書かれていた。

1番好きなメンバー?
稲垣吾郎は考えた。

慎吾以外のメンバーを選んだら… 慎吾が拗ねるのは目に見えている。
が、拗ねた慎吾の機嫌を取るのはそう難しい事ではない。

木村以外を選んだ場合…木村の不機嫌そうな顔も容易に想像がつく。
むくれた木村は、なかなか厄介だ。

中居を選んだとしたら…中居は顔を真っ赤にして照れながら「なんで俺なんだ」などと散々喚くだろう。
木村や慎吾もそれを見て楽しむだろうから案としては悪くないかもしれない。

「剛って言う選択肢は元からないのかな?」
自分と同じ楽屋を使う彼は選びようがないように思えた。


「僕が1番好きなのは僕なのになぁ」
呟きながら外に出る。
とドアに何かが貼ってあった。
「成る程ねぇ」
(ふふん♪)と笑い、しかし「剛とは去年充分仲良ししたしな」と、違う部屋へと足を運ぶ。


「どうしようかな?」
ゆっくりとそれでも目的地は決まったようで足を進める。





楽屋のドアには何もなく、ノブに手をかける。
「お邪魔しま〜す」
様子を伺いながら、しかしノックはせずに部屋を開ける。
「うわっ。ちょっとは片付けなよ」
着て来た服がそのまま脱ぎ散らかされてる楽屋に眉を潜める。

どうやら吾郎が今、1番好きなのは慎吾らしい。
机の上には【Dear My GORO】のカード。ハートやらお花やらカラフルに描かれている。開けてみると


「はは〜ん。そういう事ね。」
大きな独り言を言うとこめかみに手を当て考える。

残る三人。最近一緒にした食事の回数を考えても剛と飲むのが1番妥当に思える。が…
「剛とはこう言う時じゃなくても飲めるからね」





「開けるよ」
一言かけて次の人の楽屋に入る。畳の上に無造作にカードがあった。 【ごろーへ】
慎吾の凝ったカードとは対称的にただ黒いマジックで書かれただけのカード。


(全く素直じゃないんだから。でもそういう所が可愛いんだけどね。)
思ったことの後半だけを口にして吾郎は次の楽屋に向かう。





「いないんだよね?入りまーす」
(ってゆーか彼も楽屋一応あったんだ。)そんな事を思いながら部屋に入る。
この部屋に置かれたカードもカラフルではないが凝った物だった。 【Dearest Goro】


「剛と買い物かぁ。いいけど、これ最初に全部質問文知りたかったなぁ」




スタート地点だった自分の楽屋に戻ると几帳面な字で書かれたカードが置いてあった。【吾郎さんへ】





もう全員の楽屋行ったけど…どこに行けばいいんだろう、とマネージャーの姿を探していると【SMAP様→】という貼り紙が吾郎の目に入った。
「これ?」
吾郎の問いにスタッフは返事をしない。
しょうがなく矢印に従って歩くと、スタジオ内にいくつもある変哲のない部屋の一つにたどり着いた。

「開けていいの?」
やはり吾郎の眼差しに答える声はなかった。
沈黙を肯定と受け取り
「失礼しま〜す」
と小さく呟くとドアを開けた。