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神田までの道のりは車で移動する。
余裕のあるワゴンの中、先に乗り込んだ3人が後ろに横並びに座り、助手席に中居。
木村が運転席に乗り込んだ。

「あ、あそこのあれさ……。」
「前にさ、あそこ。」


二人が窓の外を指差しながらぼそぼそと喋る声が小さく聞こえる。

「あ、お前がいる。」
「ん?ああ、ダンロップ。」
「あのCMさ、何かっこいい顔しちゃってんの?」
「たまにはいいだろ。」
「あ、今度はWINSだ。またお前じゃん。」
「俺、働いてるから!」
「なんだよ、その顔。俺だって働いてるよ。」

中居のくぐもった笑い声が聞こえてくる。
手にしたハンディーカメラごと後ろをそっと覗く。

「あ、3人とも寝てる。」
「静かだと思った。」
「あ、あそこの映画館。」
「前、行ったな。」
「ああ。」

話はすぐに自分たちの思い出話に戻っていく。

「最近行ってないな、木村と映画館。」
「行ってないな。」
「もう行けないのかな?」
「そんな事言うなよ。」
「吾郎の舞台は?行った?」
「行ってない。中居は?」
「ん?行ってない。だって、変なシーンあるんだろう?木村が誘ってくれたら行ったのに。」
「またまたぁ。」
「吾郎ちゃんも寝てますねぇ。」

すやすやと眠る吾郎をアップにする中居。

「疲れてるよな、そりゃ。あの過密スケジュールじゃ。」
「だろうな。舞台なんて良くやるよ。」
「待ちに待った舞台だから、本人嬉しいんだろうけど。」
「うん。」
「中居は?」
「え?舞台?やんねぇよ。」
「違うよ。眠くないの?」
「ん?ないことないけど、だって、これ、カメラどうすんだよ。」
「確かに運転しつつは撮れない。そこらへんに置いちゃってもいいけど。ずっと中居の寝顔映してるの。なんか喜ばれそうだけど。」

楽しそうに笑う木村に中居は仏頂面になり、それを映そうと、木村が中居のカメラに手を掛ける。


「全然嬉しくない。お前がそんな事言うから眠くなってきただろ!」


中居が眠気を追いやろうと身じろぎをする。

「これさ、昼飯食ってどうすんの?」
「さぁ?中居、こういうの苦手でしょ?」


木村がにやりと意地悪そうに笑う。

「でも、仙台よりはマシだろ?」
「ま、マシなような、さらにたちが悪いような・・・」
「普通に楽しめよ。ほら、パリのときみたいに。」
「あれは外国だろ。ここは日本だもん。」
「あ、着いた。どうやって起こす?こいつら。」

古風な日本家屋の前に車が止まる。

「俺。もう機嫌の悪い吾郎は勘弁。」

中居の嫌そうな顔に木村が笑う。

かくして、「普通」に起こされた3人も揃って、今、5人は畳の上に座っている。

「俺ね、俺ね、5人前!」
「お前、それ、食べすぎ。」
「ま、確かにここのは少なめだから、女性でも二枚くらいは食べるけどね。僕はね、ざる二枚と天たねにしようかな。」

「天たねって何?」
「かき揚げみたいな感じ。」
「なんか、吾郎に合わせとけば間違いない気がする。」
「じゃ、僕も吾郎さんと一緒で。」
「え〜。じゃ、俺、三枚。」
「ま、足りなかったら足せばいいんだから」
「なんか吾郎が着物着てるように見えてきた。」

美味しそうな音を立てながら、5人は普段はなかなか取れないゆったりとした昼食を取った。

「たまにはいいねぇ。」
「やっぱり、俺、日本人だわ。」
「この鼻に抜ける香りがいいよね。」


そんな穏やかな会話が続いていた時、

「吾郎ちゃん、これ残すの?もーらい!」
「あ!!!」


異質な声が飛び込んできた。あからさまに、吾郎が残してるのが分かっていて、慎吾が手を出したのだ。

「ちょっとっ!!!それ、僕、残してたの分かってるでしょ?君と違って、ちゃんと配分を考えながら食べてるんだから」
「でも、もう僕の口の中、残念でした!」

美味しそうに食べる姿をわざと見せ付ける慎吾に、吾郎が再びキレたのが分かった。
他のメンバーが譲ろうとしたものの、食べるのが遅い吾郎以外はすっかり食べきっていて譲るに譲れない。

「もう1個頼めばいいだろう?」
「僕が・・・僕が・・・!!!」


大切に残していたものを取られる気持ちは誰しもが共有できる想いだった。
「全部じゃ多いんだよ!このお蕎麦の量に、あの天ぷらの量がちょうど良かったのに」
子供っぽい、と思われようとも、その気持ちも誰しも思い当たるものがあった。

「な。吾郎、もう1個頼んで、好きなだけ食べればいいだろう?いらなくなったら誰か食べるから。」
「そうだよ、吾郎さん。」
「吾郎、そうしよう。」
「もういい。いらない。慎吾なんて知らない!!大っ嫌い!!」


大げさな言い方と、そんな吾郎をなだめようと必死の3人が、慎吾は何となく面白くない。

「そんなぁ、大げさだよ。たかが天ぷらでしょ?て・ん・ぷ・ら!吾郎ちゃん、大人気ないな。」
慎吾!!!!

4人に同時に怒鳴られ、慎吾の目が大きく見開いた。

「ちょ、ちょっと、待ってよ、みんな。いや、さ・・・」
「謝れ慎吾!」
「え・・・」

「そうだよ、慎吾、酷いよ。」
「え?つよぽんまで?」
「食べ物の恨みは怖いんだからな!」
「そんなぁ・・・。」


4人に詰め寄られ、慎吾は涙目になりつつある。
吾郎以外の3人も、幼い頃の同じような体験を思い出しているからだろう。自分のことのように怒っている。
普段なら、吾郎の訴えを我侭だと切って捨てることが多い中居も、今回ばかりは目線をきつくしている。

「ごめんね。吾郎ちゃん。」
最初はプイとそっぽを向いた吾郎も、さすがにそれは大人気ないと思ったのか、
「もうしないでよね。」
と、冷たく言い放ち、
「うん。ごめん。」
「わかったらならいいよ。」


と一連のやり取りをして仲直りとなった。








「次はなんだっけ?甘いもの喰うんだっけ?」
「そう、竹むら。」
「おれ、甘いものパス。」
「僕もすぐは食べれないな。」
「確かにね。」
「あ、じゃあさ、上野の美術館にプラド美術館展見に行かない?」


吾郎の提案にまたも4人が固まった。

「よかったぁ。なんで僕が忙しいときに限って〜!て思ってたんだけど。さすがスマスマいい企画思いつくね。」

吾郎の爽やかな笑顔に反して4人は浮かない顔だ。

「木村、プラドって何?」
「スペインの美術館だろ?」
「モナリザとかあるの?」
「それってルーブルじゃない?」
「上野の美術館は、ただ歩くだけでも気持ちいいからね。ま、ちょっと暑いけど。」




かくして、5人は上野へ向かうこととなった。
「俺、もうダメかも。」
中居の弱々しい声がマイクに鮮明に入っていた。






「ね?入場料は?」
「お父さん!」
「お母さんに貰え。」
「お母さん。」
「何?いくら?団体料金?」
「木村も普通に答えるなよ。」


ミニコントを披露しつつ、中に入る。

見たがっていた吾郎と、元々美術に興味がある慎吾は、さっきの小競り合いも忘れて、手と手を取り合って中に進む。

「あ、ムリーリョ。この天使僕好きでさ、額に入れて飾ってあるんだよね。その額にも天使がついてるんだ。」
「これ見たことあるかも。」
「ベラスケス。ラス・メニーナスだね。ここで絵を描いてる人が本人なんだよ。」
「俺、こっちの方がいい。色が綺麗じゃん。」
「フラ・アンジェリコね。」

「うわ!なんかやらしい。」
中居が見ているのは、ルーベンスの「三美神」
「てゆーか、これ、美神か?」
「ちょっとやだね。」


5人が思い思いの感想を言いたい放題口にしていると、さっと後ろに立つ人がいた。

「吾郎くん?」
「え?あ!鳴海さん!」
「何?今日は?」
「あ、スマスマの収録なんですけどね。」

親しげに話す年配の男性と吾郎を他のメンバーは唯じっと見ている。
どこか不満げな目つき、寂しそうな口元、伏せられた視線。

「良かったねぇ。どうして、自分が忙しいときにって嘆いてたじゃない!」
「そうなんです。たまたまなんですよ。たまたま僕がくじで東京を引いたから。」
「くじ?東京?」
「や、話せば長くなるんですけどね。」
「うん。じゃ、それはまた今度でいいや。」

他の客に迷惑にならない程度に、しかし時折笑い声をあげながら話す二人。
久々に会ったらしい二人の会話がやっとひと段落しようというとき、吾郎が四人に目をやった。
人見知りの代表のような態度を取る4人。美術館内を好きに歩いてもかまわないのに、じっと会話の行方を追っている。
それでも、紹介でもしようものなら、きっと彼らはよそ行きの満面の笑みを顔に貼り付けるのであろう。どうしようか迷ったか、今日のところはこれで引き上げることにした。

「じゃ、あのメンバーも待ってるので。」
「そうだね、邪魔して失礼。」
「いえ、そんなことないです。またご連絡させていただきます。」

そう言って頭を下げると一緒に下げるのは上二人。誰だ?このおじさん。とでもいうように、じっと見ているのは下二人。
が、離れた途端に

「あれ誰だよ!」
と聞いてくるのは全員一緒だった。

「んとね、前に絵を買ったときの画商さんの知り合い。」
と答えると、今度は、

「なんだよ、それ。」
「ふ〜ん。仲いいの?」

「吾郎ちゃん、あんな年上の人と話して楽しい?」

「ワインとかまで一緒に飲んじゃうの?」


と次々に質問が飛んでくる。
どこが、というわけではないが、なんとなく気に入らないのだろう。自分たちの元に取り戻すべく手を絡め、体に触れる4人と、そんな4人に囲まれた吾郎。
5人一塊となって、館内を歩く様子は流石におかしくて、

「もういいよ。動物園の方行く?」
と吾郎が言い出すのに、そんなに時間がかからなかった。

「そうじゃん!ここ上野じゃん!行こうよ、動物園」
「俺もそっちの方がいい。」


結局、展示物の半分も見ることが出来ないまま5人は美術館を後にした。






「お父さん、入園料。」
「だから、お母さんに貰えってば。」

ここでも、ミニコントを繰り広げながら園内に入る。
夕方の動物園は平日な事も重なってか、すいていた。
暑さの為か動物達にも余り元気がなかったが、五人には余り関係ないらしい。

「あ、パンダ!」
「本当だ!動いてる」
「可愛いねぇ」
「でも、やる気ねえなぁ。」
「楽な生活してるよな」


純粋な感嘆の声に中居の引く声が混ざる。

「だって可愛いもん」
「俺だって可愛いべ?」
「そりゃ中居も可愛いけど」
「だから君だってちやほやされてるじゃない」
「吾郎に言われたくない」
「でも、中居を檻の中に入れてみんなに見せるなんて俺やだな」

木村が言った一言に全員が固まった。何を考えてるんだとその場にいる人間が揃って呆れ返った時、

「当たり前じゃん」
と剛が言葉を返した。
「だって中居君は人間だし」

論点のずれた会話を誰も修正する事なく、微妙な空気に包まれたまま、パンダを眺める。
変な会話を聞いたと少し遠い目をしながら。

「だってさ、中居をみんなに見せるなんてもったいないじゃん」
「てゆーか、中居君は人間だから檻には入れられないでしょ」


二人の会話を耳に入れないように三人はただ黙々と歩いて行った。
「木村、疲れてるのかな?」

そう呟く中居を(いつもの事じゃん)と吾郎と慎吾が見ていた。




「あ、猿!ウッキー!」
「猿vs猿だ」
「あ、餌あげられるみたいよ」
「俺、あの小さい奴にあげたい」
「自分と同じサイズだから?」


慎吾の切り返しに中居が睨み返すが、その横にいる剛はあくまでマイペースだった。
「みんなが好きなだけ餌やってお腹壊さないのかな?」

その横の吾郎は更にマイペースだった。

「ねぇ、木村君。あっち行かない?僕、猿には興味ないんだよね。」
「で、どこに行きたいって、あの日陰だろ。」
「さすが木村君。だって今日日傘持ってないんだもん。日焼け止めもそんなに強いの塗ってないしさ。」
「はいはい。じゃあ行きましょうか、お嬢様。」
「そうだね。じいや。」
「誰がじいやだって?」

行きかけた足を止めて聞き返す。

「だって僕の事、お嬢様って言ったじゃない。」
「それを否定しないお前が怖いよ」
「ん?なんか言った?」
「いいえ。全然。どうぞお嬢様」

吾郎を座らせる為にわざわざタオルをベンチの上に引く木村を中居が見ていた。

「何、やってんだ?あいつら」



「プレイリードッグだって」
「吾郎、木村行くぞ」
「可愛いねぇ」
「俺、あっちがいい」
「何?」
「トラ!やっぱり俺はカッコイイのがいいな」



てんでんばらばらに動き始めた五人にタイムリミットが訪れる。

「そろそろホテルに移動して下さい、だって」
「待って。あれ食べてからにしようよ。」


慎吾が指差した先には「ソフトクリーム」の文字。

いいねぇ

四人の賛同も得てお店へ向かう。

「慎吾、俺、バニラ」
「俺、チョコ」
「僕、ミックス」

「僕も」


ベンチに座り、買ってこいと指示する上二人とそれに続く真ん中二人。

「ちょっとぉ!一人じゃ持てないよ。つよぽんも来て〜。」
慎吾のSOSに、
「いいよ」
と剛はあっさりと席を立った。
「吾郎も行ってこい。」
背中を押されて吾郎は渋々剛に続く。

「全く横暴だよね。」
「時々上っぽくするんだもん」
「しょうがないよ。おじいちゃん達だから」
吾郎が片手に、慎吾と剛がそれぞれ両手にソフトクリームを持ってベンチに駆け寄る。

「うまい!」
少し疲れたようだった中居の顔に笑顔が戻る。

「やっぱり外で食べると美味しいね」
「写真取ってくれるって!」
「Say!CHEES!!」

たまたま通りがかった親子が、おっかなびっくりカメラを構える。
ソフトクリーム片手にいい笑顔を決めると、
揃って頭を下げる。

ありがとうございました



「ねぇ、木村チョコ頂戴」
「ん、いいよ」

中居がねだり、お互いに一口ずつ食べさせあってる。

「吾郎ちゃん」
慎吾が笑顔で近付くが
「嫌だ。慎吾、全部食べちゃいそうだもん。」
吾郎は背中を向けた。
「なんだよ。」
口を尖らせる慎吾に
「慎吾、いる?」
と剛がソフトクリームを傾けた。

「ありがとう。やっぱりつよぽんは僕の親友だよね」
「うん」



まだ昼間の暑さの残る夕方、五人は美味しそうな顔をお互いに見せていた。