beside you





「よし!じゃあ移動するべ!」

「はいよ!」

「ホテルはどこ?」
「マンダリン?だって」
「マンダリンオリエンタル?凄いじゃない。やったね」

「凄いの?」
「新しく日本に進出してきた高級ホテルだよ」
「あ、吾郎のテンションが一気に上がった」
「スイート?ねぇ、スイートルーム?」
「さぁ。しらねぇ」
「えぇ〜」

「まぁ、行ってみればわかるよ、吾郎さん」




車に乗り込んだ五人はさすがに疲れたのか、またも運転席に座った木村以外はすぐに眠りに落ちて行った。
信号待ちで一瞬カメラに手を伸ばした木村は4人の寝顔を一人ずつアップで撮り、そっとカメラのスイッチを切った。



車がホテルに着いても起きる気配がない4人。木村はカメラの電源を入れると
「収録開始!!寝顔撮られたくなかったらさっさと起きる!!」
と一声叫んだ。

「収録」という言葉に見事に反応しつつも、寝足りなさそうな中居、少し寝てすっきりしたと笑顔を見せる吾郎に、30分位の睡眠が1番いいんだよね、と剛が返す。慎吾はまだ半分寝ている。

中居が寝ぼけ眼のままロビーへと向かう。

「ん。チェックイン。」

横にいる木村にぼそっと呟くと、

「なんて名前?中居の名前なの?」

「SMAPじゃない?」

チェックインをしようとする中居の周りに4人が集まる。左右を陣取った木村と吾郎。剛は吾郎の横から、慎吾は中居にのしかかるように手元を見る。

「もう、お前ら暑い!邪魔!あっち行け。」
「ひど〜い!中居くんが酷い!酷い!」
「困ってたら助けてあげようと思ってみてたのに。」
「僕のこと重いって言った〜!」


疲れているのか、それぞれ喚くメンバー。高級ホテルのロビーでは目立ちすぎた。

「ちょっと木村、こいつら連れて行って。」
木村に指示を出し、
「すみません。」
とコンシェルジュに余所行きな笑顔を向ける。


チェックインを済ませた5人は最上階のスイートへと向かう。

「凄い!プレジデンシャルスイートだ!」
「広〜い!」
「2ベッドルームだ。」

普通の家より、よほど広い部屋の中を見て回る。

「ちょっと大変!」

慎吾の声に、それぞれに部屋の中を探検していた5人が集まる。

「ほら、見て!ダブルベッド!」
「マジで?」
「本当だ。こっちはツインだよ。」

「もう一人は?」
「これじゃない?ソファーベッド。」

それを聞いて5人が顔を見合わせる。お互いに牽制し合い、自分がどこのベッド寝れそうか目算する。

「とりあえずさ、それぞれ意見を言わない?」

木村の一言に緊張が走る。

「俺、ソファーベッドでいい。」
「なんでだよ!!」


中居の言葉に木村があわてる。

「中居くんと木村君でダブルベッドじゃない?」
慎吾の提案に、中居以外は首を縦に振る。

「やだよ。なんで俺が。」
中居の言葉をさえぎるのは吾郎。

「僕、ここね。」

指差したのはツインのベッドの片方。
「ちなみに、隣は、慎吾以外でお願いね。」
「なんでよ。」
「だって、いびきがうるさいから。」
「じゃあさ、俺と中居がダブルで、吾郎と剛がツインで、慎吾がソファーでいいじゃん。」
「なんで、僕がソファーなの?」
「だから、俺、ソファーでいいって言ってるじゃん。吾郎と剛がダブルで、木村と慎吾がツインにすればいいじゃん。」
「なんでだよ。」


まとまりかけた案に異を唱えるのは今度は木村だ。

「なんで俺と一緒は嫌なんだよ。」
中居にどんどん詰め寄っていく木村。
これじゃ、とても放送できないよ、と下3人がそれを見守る。
「お前と一緒が嫌なんじゃなくて、俺、一人で寝たいの!」
「せっかくのチャンスだろ?」


「どういうチャンスだよ!」と全員が心の中で呟いた。

「じゃあさ、僕とつよぽんがダブルで、木村君と中居くんがツインで、吾郎ちゃんがソファーは?」

埒が明かない、と慎吾がほかの提案をする。

「やだよ、僕、絶対ソファーベッドは嫌だからね!!」
吾郎が必死に抵抗する。

「ほら。だから、俺がソファーでいいって言ってるじゃん。他にいないだろ?ソファーでもいいやつ。」
「あ、僕別にいいよ。」


名乗りを上げたのは剛だ。

「そしたら、俺と中居がダブルで、吾郎と慎吾がツイン。」
「だから、慎吾とはいやだってば。」

「出たよ。吾郎ちゃんの我侭。」
「だから俺がソファーベッドで寝れば一番うまくまとまるんだって。」
「だって。」

「あ〜!!!もう、いいよ!!」


突如切れたのは慎吾だった。

「木村君と中居くんがダブルで、吾郎ちゃんとつよぽんがツイン、俺、ソファー。はい、それできまり!!決まり!!」

一気にまくし立てると、

「いいね!」

と4人を見渡し、ソファーに深く座り込んだ。

「慎吾が切れたね。」
「そうだね。」
「香取部長だな、今の。」
「だな。」



キレた末っ子に押される形で、5人の部屋割りはまとまった。



少し落ち着いたところで、スーツに着替え、5人はそのままメインダイニングへと移動する。
正装した5人は迫力さえ感じ、先ほどまでベッドを争っていたとは微塵も感じさせなかった。

が、そこに至るまでの5人は、ただ着替えるだけでも大騒ぎだった。

「今、俺のSMAP触ったの誰?」
「俺のネクタイは?」

「木村君、うまく結べないんだけど。」

「ちょっと、慎吾、邪魔しないで。」
「もうちょっと離れてよ。」

散々騒いだ挙句、すったもんだの末に、すっかり大人のかっこいい5人が出来上がった。
渋く決める顔、輝くオーラには、先ほどまでの様子を知っていても圧倒される。

「なーにかっこつけてるんだよ。全然違うじゃん。」
という木村の言葉が全てを表していた。



メインダイニングでの食事は気取った顔のまま進んでいった。旅行が始まって以来、初めてカッコイイ五人を存分にカメラに見せた時間だった。

渋い顔、色っぽい顔、綺麗な顔、かっこいい顔が、シャンデリアに照らされ、ますます輝く。
それをさらに、花々が引き立たせる。

料理もワインも雰囲気も満喫した五人は満足気に部屋へと戻っていく。
バーに行ってもいいとスタッフは伝えたのだが、五人は部屋に戻ることを望んだ。


「あ〜堅苦しかった!」
早速スーツを脱いだのは中居だ。
「部屋飲み♪部屋飲み♪」
歌いながら、ルームサービスのメニューを見てるのは慎吾。
「僕、別にバーでも良かったのに」
と少し残念そうなのは吾郎で
「部屋のほうがゆっくりできるだろう」
となだめているのは木村。
剛はすっかり気持ちよさそうな顔になってる。
「まさか剛、もう酔ったとか言わないよな?」
言われた剛は、
「そんなことないよ〜」
と答えるが、その口調が十分怪しかった。



暫くすると、慎吾が頼んだらしい食べ物、飲み物がどんどん運ばれてくる。
「慎吾?お前まだ食うの?」

広いスイートルームの中で5人はリビングのソファーに固まって座っていた。
ガラスのテーブルを挟んで、奥のソファーに中居、手前のソファーに木村と吾郎。
中居の足元に、慎吾と剛。

剛が吾郎の横によっていくと、木村が中居の横に座った。
中居がソファーからおちるようにして絨毯の上に座ると、慎吾が木村の横に納まる。
食べるのに飽きた慎吾が剛の元に行き、吾郎が木村の横に戻る。
そのうち、木村と中居が入れ替わる。

ぐるぐると席を替えながらも誰も離れようとしない。

中居が何度もあくびをするようになって、木村が動いた。

「中居、風呂はいる?」
「うん。」
「ちゃんとバスタブもあるからさ。お湯、入れる?」

「あ、泡風呂に出来るんじゃない?ほら、バスソルトも色々あるよ。」

「泡風呂楽しそう!」


またも5人でがやがやとバスルームを覗きに行く。
すると、

「みんなで入ろうよ」

酔った剛がいきなりとっぴな提案をした。

「ほら、お風呂広いし、シャワーと別だし」
「お前、酔ってるんだろ。何言ってるんだよ。気持ち悪いだろ?」
「じゃあ、中居君と木村君で入ってきたら?」
ばっかじゃない!!

顔を赤くして同じタイミングで怒鳴る二人にも、酔った剛は動じない。

「そんな照れてないでさ。どうぞ、どうぞ。」

人のよさそうなにこやかなほほえみを浮かべながら二人をバスルームに押し込む。

「ほら、吾郎さん、慎吾、邪魔しちゃダメだよ。」
「え、あ、うん。」
「ま、たまにはいいんじゃない。」


バタンと閉められたドアの前で見張っていそうな勢いの剛。
残された二人は顔を見合わせる。

「ま、別にいっか。」

木村はさらっと流すが、中居はそれを聞き逃さなかった。

「何がいいんだよ!」
「だって、ライブ後とか一緒になるときあるじゃん。」
「そうだけどさ。」
「別に一緒にバスタブに入ろうなんていってないんだし。」


にやっと木村が意味深な笑みを浮かべると、中居が顔を赤くし、あわてる。

「別に、そんな。」
「そんな、何?」


詰め寄る木村を腕を突っ張って中居が阻止する。

「そんなに嫌がられるとね・・・」
「え?」

中居が固まった途端、木村の狙いは脇に変わり、中居は床に蹲るまでくすぐられ続けた。


「静かになったね。」
「うん。」


聞き耳を立てていた慎吾と吾郎が息をついた。

「でもさ、これって静かになってよかったの?それとも・・・」
「・・・・・・。向こう行こうか、慎吾。」
「そうだね。それにしてもさ、この人凄いこと言ったよね。」


ソファーに戻りながら、慎吾の目線は床で寝ている「この人」に注がれる。

「お酒の力って凄いよね。飲んでも飲まれるな、とはよく言ったよ。」
「でも、案外素直に二人入ったね。」
「中居くん疲れてたもんね。」

ソファーに並んで座った二人の会話が続く。

「明日さ、僕らどうなるんだろう?」
「さ?慎吾、どこ行きたい?」
「え?吾郎ちゃんに決める権利があるの?」
「ないけど。」
「なんだ。あるのかと思った。だって、今回の旅、結構吾郎ちゃんっぽくない?」
「そう?ま、そうかもね。じゃあさ、みんなでエステにでも行こうか?」
「えぇ〜!」


寝ている剛を気にしてか、小声での会話。

「あ、慎吾。」
「ん?」
「せっかくなのに夜景を見ないと勿体無いよ。」
「あ、本当だ!」


最上階から見る夜景は素晴らしく、ミネラルウォーターを片手に二人は窓際に佇む。

「今、横にいるのが慎吾じゃなかったらなぁ、って思ってるでしょ?」
「ん?そんな事ないよ。」
「うっそだぁ。」
「これが全部星だったらいいのにねって思ってた。」
「え?」
「人間が作った人工的な光じゃなくて、全部天上の星だったら綺麗なのに。」
「そうやって女の子口説くの?」


ふふん。と吾郎が鼻で笑う。

「案外男の方がロマンチストなんだよ、慎吾。」
「そっか。そうかもね、今、ちょっと俺、吾郎ちゃんに惚れそうだもんね。」
「えっ!!」

吾郎が一歩身を引いたとき、中居と木村がバスルームから出てきた。

「うわっ!誰?剛?生きてるの?」
「肩動いてるし、生きてるんじゃない?」


いきなり足元で寝ていた剛に驚いてぎょっとした顔になった中居はそのまま、窓辺の二人に視線を向けさらに顔を硬直させた。

「何?お前ら、いい感じになったりしてる?」

バスローブ姿と中居と、同じくバスローブ姿でその後ろに立っている木村も相当「いい感じ」に見えるのだが、中居は気づいてないらしい。

「まさか」という吾郎の声と、
「うん」という慎吾の声が重なった。
が、慎吾の声のほうが大きかった。

「そっか、そういうことか。」
「じゃあ、次は二人で入ってくれば?」


「そうだね、吾郎ちゃん。」

慎吾は上二人の提案に乗り気だが、吾郎は顔をしかめる。
「イヤだよ、僕、お風呂は一人ではいる主義なの。」
「いいじゃん、二人で泡風呂しようよ。」
「イヤだってば!!」

それでも、慎吾に引っ張られ、上二人に押されて、吾郎はバスルームに押し込まれた。

同じように、最初は大きな物音や大声が聞こえてきたものの、暫くするとそれも止んで静かになった。

「あ!夜景!な、中居、綺麗だぞ。」
「ん?あ、本当だ!」

大きな中居の瞳に、煌きが反射して輝く。

「これ、見てればそりゃあ、いい感じになるわな。」
「だな。」











剛を起こすのは断念して、しかし、ベッドにだけは運び入れ、それぞれ決まったベッドに入る。
流石に疲れたのか、もう揉めることもなく、

「おやすま」
「おやすまナイト」

「おやすまなさい」


など挨拶を交わしベッドにもぐりこむ。

大きなベッドに幸せそうな吾郎。
ソファーベッドが少し窮屈そうな慎吾。
何も気づかずに寝ている剛。
そして、大きなダブルベッドの端で警戒する中居と、真ん中で嬉しそうな木村。

そんな5人を映しながらカメラは回り続け、時計の針も回り続け朝を迎えた。



















「中居。おはよう。」
白いシーツに白い枕、白いリネンにくるまれた白い顔に声をかける。
「んん。」

顔に掛かった前髪がさらさらと音と立てそうだ。
大きな目は開くのを拒み、寝返りを打って、また規則正しい寝息に戻る。

「あ、また寝ちゃった。」


朝に一番強い木村が一人ずつメンバーを起こしていて、残すは中居一人だ。
寝起きの悪いメンバーも

「中居の寝顔見なくていいの?」

という一言で飛び起きた。

「綺麗だね。」
吾郎が毛並みの美しい猫を見る目で見つめる。

「中居。」
木村は自分に当てられた権利を駆使して、同じベッドに入り、そっとしかし無理やり起こす。
抱きかかえ、揺らす。
「ほら、起きて。」
「ん。」
「起きないと…。」


そこで中居がパチッと目覚めた。まさしく、ぱちっと音がしそうな勢いで大きな目が開いた。

「うわっ!」

いきなり飛び込んできた木村とそして3人の顔。

「何見てんだよ!」

「綺麗だよ、中居くん。」

「うん。天使みたいだった。」
「上等なペルシャ猫って感じかな。」
「おはよう。中居。」

4人は中居の睨みにも動じずに次々と声をかける。
中居は顔を少ししかめ、下を向き、ムスッと一言
「おはよう」
というと、顔を上げてそれこそ天使のようなほほえみを浮かべた。