2003年2月28日 ソワレ
Bunkamuraオーチャードホール(東京)
ザ・スワン/ザ・ストレンジャー:アダム・クーパー
王子:アンドリューコルベット
女王:マーガリート・ポーター 執事:リチャードクルト
ガールフレンド:フィオナ=マリー・チヴァース
幼年の王子:ギャブパーサント
東横線の階段でみた大きな看板に目を奪われてとったチケットで、何の予備知識もなく、アダムクーパーの名前すら知らなかった。
トリプルキャストと聞いて、オリジナルキャストの人ならいいなくらいにしか考えていなかった。
長年待ちつづけて、アダムの日をひたすら祈り続けた方に比べたら、幸運としかいいよのないめぐり合わせであったと思う。
この日は、一幕ごとに区切ってレビューするには、ひとつひとつの記憶はあいまいだ。
二幕がはじまって、一人のダンサーが信じられない輝きを放っており、そこから目が離せないでいることに気づいた。彼は、他のダンサーと同じ振りをしていても、なぜだか際立っている。何?この人の何が違うの?
群舞のSWANたちは、古典でみた静かでまるで白い塊のようにゆっくり動く女性の白鳥とはちがって、躍動的で一羽一羽がそれぞれの個性を強調しているかのように、生き生きとしている。
そんな力強さの中にいながら、その一人輝きを放っているダンサー、アダムクーパーは、いったい何が違うのだろう。
そんな思いを抱きながら二幕が終わった。
幕間の休憩中、同行していた友人たちも一様に口をそろえる。
’彼だけが一人、どんなにたくさんの白鳥にかこまれて、見失いそうになっても、絶対にひとりだけわかるほど、光ってるね’
三幕にはいった。
事前に知ってなかったら、ストレンジャーとSWANが同じ人物だときずかなかったかもしれない。
実際、友人はあのかっこいい人は誰?と思っていたそうだ。
ここでも、SWANの壮麗さとは別だけれども、やっぱり一人だけ動きが際立っている。
同じように女性をリフトしても、群舞の中で舞っていても、彼の姿に目を奪われて彼を追ってしまう。
四幕。
二幕、三幕の余韻に引きづられていっきに幕を閉じてしまった。
今まで、ダンスはエンターテイメントにしかすぎないと思っていた。
ダンスが芸術であること、芸術は人の心をこれほど動かすことができるということを初めてしった。
それまで、その公演に出かけるまで会社の中でくすぶっていたストレスや葛藤が、本当にもうどうでもいいと思えるほど吹っ飛んでしまった。
わたしの中で、二幕と三幕と四幕がぐるんぐるんまわって、あの舞台をもう一度みたいという思いが時間と共に強くなっていった。
ビデオを買って、毎日、毎日観た。
その頃は、SWAN LAKEそのものがそれほど魅力的なのか、あのダンサーアダムクーパーに心を奪われたのかわからなかった。
ただ、もう一度、あの舞台を見たい。
思いは募りながら、わたしの手元には残りの公演のチケットは一枚もなかった。
今にして思えば、もし、あの日のSWANがアダムでなかったら、このあとのSWANに明け暮れた日々がやってくることはなかったように思う。
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