2003年3月28日 マチネ
Bunkamura オーチャードホール(東京)
ザ・スワン/ザ・ストレンジャー:アダム・クーパー
王子:アンドリューコルベット
女王:マーガリート・ポーター 執事:スティーブカーカム ガールフレンド:フィオナ=マリー・チヴァース
幼年の王子:サイモンカレイスコス
再追加公演のチケットを手に入れた頃、追加公演でSWANが東京にもどってきた。
この頃世間でもSWANの熱狂振りは高まるばかりで、追加公演のチケットは当然手にはいらない状態だった。
そんなとき、まるで胸騒ぎのように公演二日前、会社をさぼってBunakamuraにかけこんでこの日のチケットを手にいれた。
一幕。
前回は、少し退屈だなと思いながらみていたのが嘘のように、ひとつひとつが新鮮にうつる。
アンドリュー王子は、ビデオのスコット王子よりも、線が細くてチャーミングな感じ。
恵まれた容姿、スマートなダンス、情けない王子というには少し説得力にかけるかなと思う。
でも、個人的にはアンドリュー王子は、みればみるほど好きになった。
最後の再追加公演までアンドリュー王子でもいいと思った。
二幕。
ビデオでみた記憶なのか、前回の記憶と比べてなのか自分の中ではかなりあいまいなのだけれど、連日のハードスケジュールのせいか、年齢的なものなのか、アダムが細くなった。
大丈夫?という少し不安な気持ちで、やっぱりそれでもアダムのSWANばかり追ってしまう。
わたしの心配などよそに、SWANの舞いは変わらず壮麗だ。
この一月間、会いたくて求めつづけていたSWANの姿がそこにあった。
大阪公演や東京公演初日に賛否両論あったアダムのコンディションだけど、この日のアダムはまちがいなく、そこで舞っていることを楽しんでいたかのように思えるほどよい状態であったと思う。
三幕。
ここでのアダムもとってもリラックスしてみえた。
次々とお姫様たちとからむところは、彼が誘っているというよりも、お姫様たちがわたしもわたしもとストレンジャーにせまっているようにみえる。
三幕だけは、最初の公演とビデオを見比べたとき、あきらかに違うなと感じたところだ。
たしか最初の公演でみたストレンジャーは、ちょっとしぶい大人の男性で、女王がひかれてしまうのは当然ねと思ったけど、
ビデオのストレンジャーは、若さにまかせて年上の女性たちと遊んでいるという感じで女王にしても一夜の遊び?みたいな感じがしていた。
その記憶を確認すべく、今日の公演、やっぱり今のアダムは大人のストレンジャーだった。
スピードとエネルギーにまかせるだけでなく、女性を受け止めてもてあそんでいるような余裕が感じられる。
アンドリュー王子とのパ ド ドゥは、ひたすら美しい。
スコット王子のやるせない情感にあふれた感じはないし、アダムストレンジャーもスコット王子に対してより冷ややかに突き放すようなそんな感じではあるけれど、美しい二人の男性が舞う様は、ここだけも来てよかったと思えた。
四幕。
何がアダムを変えてしまったのだろう?
8年の時が、たしかに彼のダンサーとして人として、円熟させたに違いない証がここにあった。
前回は、それまでの二幕、三幕にひきづられて、自分として四幕の持つ意味を消化できないまま幕を閉じていたのではないかと思う。
ビデオで毎日、毎日みたあの四幕とあきらかに違うアダムがそこにいた。
壮絶な白鳥たちの攻撃の中で力尽きていくSWAN。
SWANは、これほどにも静かで深くて、悲しみにみちていただろうか?
王子を思う切なさがこれほど胸に迫ることがあっただろうか?
幕が降りるのをみながら、静かに涙がほほを伝ってきた。
この公演が終わったあとは、自分が壊れてしまったような気がした。
この記憶を凍りつかせたまま生きていたいというか、このまま死んでしまったほうが楽かもしれないと思った。
もうビデオはみれないし、何かアダムやSWANに関して書かれたことすら読むことができないかもしれないと思った。
追記
結局、このあと二公演は、ジーザス、首藤SWANで、28日マチネがわたしにとってのアダムのLast SWANだった。
演じる人でこれほど違ったものになるというのは驚きだった。
それぞれのSWANは、それぞれの魅力にあふれすばらしかったけれど、あらためてSWAN LAKEはアダムのための作品だったのだと認識した。
アダムのSWANはほとんど神格化されていて、そのイメージと闘いながら、あとに続くダンサーたちは自分のSWANを捜し求めて葛藤しその世界を確立しなければならないのであろう。
これからも有望なダンサーたちがそれぞれのSWANを舞う様は楽しみだ。
今回がアダムのラストSWANといわれているけれど、もう一度、アダムにSWANを舞ってほしい。
体力的に本当に踊れなくなるその日まで、SWANを踊りつづけてほしい。
もし、アダムがどこかでSWANを踊るなら、ロンドンでもパリでもアメリカでも必ず出かけるつもりだ。
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