国分寺の蓮華会舞




門前の看板。 雨のため、今回は使われなかった舞台。


「蓮華会舞(れんげえまい)」とは、隠岐国分寺で、毎年4月21に開かれる古典舞楽です。
この舞楽は、今から1000年以上前、奈良、あるいは平安時代あたりに舞われたであろう舞いの形を色濃く残している、日本でも唯一といっていいくらいの珍しい舞楽だそうで、国の重要無形民俗文化財に指定されています。

蓮華会舞は毎年、本堂の前に舞台を組み、野外で舞いが舞われます。しかし僕がこの舞いを見に行った、2000年の4月21日は雨でした。なので舞台は本堂の中に作られ、そこで舞いが行われました。

本堂は広いとは言えないスペースで、僕が着いたのは舞が始まる時刻、午後1時30分ちょうどだったので、舞台の周りは人でいっぱいでした。多かったのはカメラを持ったおっさん連中で、TVカメラも2台(うち1台はハンディのデジカメ)出ていました。

蓮華会舞は7つのパートに分かれていて、うち3つのパートは子供によって舞われます。
初めに舞われる踊りは「眠り仏」というものです。


相撲を取る仏ちゃんたち。
かみつかれた方が勝ちます。
太平楽。
動きはゆっくりだけど、横跳びもあり。

1:眠り仏

「眠り仏」では、子供が菩薩の面をかぶります。この「眠り仏」は特徴ある面と、子供というかわいらしさを感じさせる舞いのせいか、後述する「龍王」と共に隠岐のガイドブックによく写真が載ります。
2人の仏が舞台の両端で居眠りをしています。その舞台の周りを獅子が回りますが、そのうち獅子は1体の仏の腰に巻いた「さんだわら」と呼ばれる、かさのようなものに噛み付きます。仏はびっくりして飛び起き、片方の仏も飛び起きて、仏達は舞台の真ん中に来て相撲を取ります。噛み付かれた仏が勝つと2人とも元の位置に戻り、また居眠りを始めます。そしてまた獅子が1体の仏のさんだわらに噛み付いて…このアクションが数回繰り返されます。

2:獅子

「眠り仏」の時に出た獅子が舞台で寝そべったり、舞台の隅の柱に噛み付いたりします。獅子の形は正月などで舞われる、普通に見られる獅子と同じ形です。大口を開けると、入っている人の顔がモロに見えるのはご愛敬です。

3:太平楽

着物姿で、かぶとのようなものを被って化粧をした4人の少年が、正面や背面など、いろんな方向に向いて短刀を引いたり回したりするアクションを繰り返します。この舞いだけはお面はつけません。

4:麦焼き

黒い翁の面を付けた子供が扇を使って、しゃがみながら小じんまりとした踊りを見せます。

5:龍王

舞い手は竜の飾り物を着けた面をかぶり、赤い着物を着て手足を振り上げて舞います。蓮華会舞では一番派手でダイナミックな踊りでしょう。
この時の住職さんの解説では、名前を「ランリョウオウ」と言ってました(夢枕獏氏の「闇狩り師」にそんなタイトルの一編がありました)。

6:山神・貴徳(さんじん・きとく)

ひげを着けた男の面をかぶった2人の舞い手が、鉾(ほこ)を持ったり、立ったりして奇妙なダンスをします。

7:仏の舞

2人の菩薩面をつけた舞い手(今度は大人)が登場し、向かい合ったり、背中合わせになったりして、回ったり、両手を上げたりする動作をゆったりと繰り返します。仏が悟りを開いたことを意味する舞いだそうです。


大きなアクションで踊る龍王。
この後、観客をにらみつけるアクションが続きます。
仏のゆっくりとした舞い。
左側の赤い傘の下に座っている人がたぶん住職(兼解説者)。


舞台の右手では楽器を持った人たちが演奏しますが、そのメロデイはどのパートもほとんど同じです。
パートの舞いも単調で、動きも激しいものではありません。これなら子供にも覚えやすいと思います。
舞台の左手には住職が座っていて、「次は何の踊り」とか、踊りをやる子供のプロフィールなどを観客に解説してくれました。
「眠り仏」が終ってから、仏役の子供が見ていた友達に、「俺の踊り見た?」と聞いていたり、踊りが終わると拍手が起こったりして、会場の雰囲気は国指定の文化財とは思えない、なごやかな感じでした。こういう家族的な雰囲気のおかげで、この蓮華会舞は長く持ったのかもしれません。

本堂前で線香を上げているので、舞いの最中はその匂いが漂ってきます。踊り手が仏前に向かって礼をしたり、祭壇を向いて舞うとこなんか、この舞楽はもともとは観客ではなく、仏さんのために舞われた「原点」を思わせます。
舞楽というものは、今では舞いを見る客を意識したものになっていますが、寺院で行われる舞楽であれば、それは仏さんへの奉納という意味があると思うので、観客ではなく、祭壇の方を向いて舞う方が当然だと思います。

この日の国分寺の門前には、たこ焼きなどの屋台が3台ほど出ていました。開演前はあまり込んでいませんでしたが、終ってから行って見ると、雨の中でもどの屋台も列ができていました。