何か隠している事にはすぐ気付いた。
運動会が終わり、音楽会に文化祭。中間テストに期末テスト。
その中心にいるのはやっぱり中居だった。
いつも笑顔でみんなをリードし、でも姿はだんだんぼやけて行っているように見えた。

―いつか失うのでは―

そんな不安を感じていた日々。




昼休みになり教室が騒がしくなる。
その中心もやっぱり・・・

―いなかった―

そのとき、中居はそこにいなかった。
そして、誰もそのことに気付いていなかった。
あれだけの存在感を放ちながら、誰も気付く者はいなかった。
元々そこには誰もいなかったかのように、中居の存在も空間も綺麗に消えていた。
中居がいないと回らなかったこのクラスも、いつもどおり活気に満ちていた。

いたたまれなくなって教室を抜け出した。
あんなに必要としていたのに、どうして誰も気付かないのか……。
足は迷うことなく屋上へと向かい、そしてそこには中居がいた。


「中居!」
「…やっぱり木村か。」
「は?」
「他、誰も気付いてないだろ?どうして木村だけ気付いちゃうのかな?」
「何言ってんの?」

中居は答えなかった。ただ後ろに広がる青空がその身体から透けて見える気がした。
綺麗な顔を曇らせた中居は、そのまま空と一体化してしまいそうで怖かった。

―失う―

このままでは俺はこいつを失う。
そう感じた。
今、手を離してはいけない。
しかし、中居はそれを拒んだ。

「忘れたほうがいい。みんなみたいに忘れてくれ。一緒にいちゃいけない。」
「なに言ってんだ?お前。」
「……。」
「意味わかんねーよ!説明しろよ!」

そう言って掴みかかったとき、中居の心に掛かっていたカーテンの奥が見えた気がした。
近くで見た悲痛な顔。まだ諦めきれない、でも既に結末を知っているような顔。

「俺に何ができる?」
必死の問いにもただ首を横に振る事で答える中居。
悲しかった。悔しかった。
肩で息をする中居の顔を青ざめているのに、何もできなかった。
その場を立ち去る事さえできずに、ただ見ていた。



―中居は泣いていた―

いつから俺はこんなに近くに立つようになったのだろう。
いつから気付いていたのだろう。
誰にも気付かれず、みんなを誤魔化している中居に。


そして…いつから誤魔化して…
いつから独りで耐えていたのだろう。

―中居を救いたい―

ただそれだけを願った。




2004.7.29 UP