何度と無く夢を見る。
終わることの無い悪夢。
毎夜訪れる輪舞。
自分の叫び声で目を覚ます。
そして、目の前にある顔。
木村の、心配そうな顔。






自分の存在の維持なんて望んでいなかった。
木村を巻き込むなんてまっぴらだ。
自分から離れることは、既に決めていたことだった。
隠してきた自分を見つけられそうになった時、木村に惹かれている自分に気づいたとき、そう決心した。
忌み嫌っているこの体にも、今まで自分が生きてきたこの世界にも、なんの未練も無かった。
いい友達に恵まれた。いい思い出もいっぱいできた。
でも、結果が分かっている中での生活では、それ以上の感情は無かった。


木村に出会うまでは。




「やっぱり、血の味も人によって違うわけ?俺、O型なんだけど、中居は?そういうのって関係ないの?」
そんな軽口も叩ける木村にびっくりしつつも、その様子が、羨ましくも、頼もしくもあった。
今後、木村とまっすぐに向き合える日が来ないことが残念に思える程に。

こんな成り行きでさえなければ。
いくら悔やんでも終わることの無い後悔だ。

一人で死んで行く筈だった。
誰も自分の犠牲にはせずに、明るく、楽しく、周りも、おそらく自分をも騙しながら生きる。
そして時が来れば、静かに消滅する。その予定だった。なのに。

俺が生み出した犠牲者。
自分で作り出した犠牲。


木村を見るたびに、あの人のことを思い出す。俺が生涯憎み続けている相手。






「どうして道連れにしたんだよ。どうしてこんな体にしたんだよ。一度だって頼んだ覚えはない!選択する余地も与えられなかった!
 僕には選択肢なんて無かった!」
「お前だって、木村に与えなかっただろ。同じだよ。正広。お前だって私と同じなんだよ。」
「同じじゃない!」
「何が違うというんだ。」
「・・・・・・。だから、だから来るなって言ったんだ。」
「立派な理由だな。じゃ、そうやって、木村のせいにしてるといい。」
涙を流す俺を冷たく見下ろした。
「それでも、お前は木村を選んだんだよ。しかも、お前が木村を選んだのはお前が木村を愛しているからではない。
 木村がお前を愛してくれるからだろ。お前を愛していたから選んだ私の方がまだマシだ。」



「どんな愛だよ。」
自分の呟きを耳にしながら、考えた。
いつか、木村も俺のことを憎むのだろうか。





木村に憎まれることが怖かった。
自分が生涯憎み続けている相手と同類になってしまったことが耐えられなかった。
一番戸惑っているだろう木村と向き合うこともできずに、
自分が弱い存在だと気づくこともできずに、
ただ悲嘆にくれていた。
自分に差し出されている救いの手にも気づかずに。






2005.10.23 UP