circlet 〜the one ring〜(3)
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楽屋に戻った中居はソファーに沈みこんだ。いつもの三倍以上の疲労を感じる。 マネージャーの呼ぶ声がなかったら、きっとそのまま寝入っていただろう。 何とか身を起こし着替えを済ませ、車に乗り込む。 寝ているのか起きているのか分からない中居を乗せて車は走る。 「具合悪い…わけではないですよね?」 「ああ」 「どこかで見付けたら拾っておきますね、指輪」 「頼む」 そんな会話をしていると、中居の携帯がなった。 ディスプレイに表示された名前を見たまま出ようとしない中居。 「出ないんですか?」 ためらう中居の背中をさりげなく押す。 「もしもし?」 「ああ、俺」 「うん」 「どうした?」 「え?」 「今日なんか変だったから」 「んー」 「ま、体調悪いわけではなさそうだったから、ほっといたけど」 「どうして?」 「え?」 「どうして体調は悪くないって分かるの?」 他のメンバーは分からなかったのに。 「ん〜、なんとなく。熱がある時は顔で分かるし、体調悪いなら、それを隠そうとして もっとハイになるからかなぁ。よくわかんないけど。で、どうした?」 心地よい声に今すぐ身を預けたくなる。 「指輪がなくなるんだ。いきなりなくなって、いきなり出てくるの」 「何それ。ヒロんち、何か憑いてるんじゃん」 「えっ…」 「嘘だって」 「やめろよ。帰れなくなるだろう」 「じゃあ行ってやるよ。今から行くよ」 もし、自分が一言切り出せば、その後の会話はデジャブでも見たように想像がつく。 何も説明しなくても「来て」と言えば来てくれる。甘えてしまおうかと思った。 「なんでもない」 しかし、気持ちに反して口走ったのはそんな言葉だった。 「だって」 「疲れただけ」 「指輪…どうしたんだよ。俺からのは付けられなくて、誰から貰うつもりだよ」 会って問い質したいのはその事。心配する振りをして、本当はそれが聞きたかった。 それでも、自分がそんな事を言える立場ではない事くらい知っていた。 自分はもう特別な指輪を他の人に渡してしまったのだから。 「そう。じゃあ、ゆっくり休みな。また明日な」 「ああ」 電話を切った二人は、どちらもが深い溜息をついていた。そして、木村は自分の指を見た。 そこで光る中居とお揃いではない指輪を。 中居は同じような光る物を車の中で見つけた。 「あ!あった!」 |