2005年2月16日 マチネ
青山劇場(東京)
ヴァルモン:アダムクーパー トゥーヴェル夫人:サラ ウィルドー
メルトイユ夫人:サラバロン ロズモンド夫人:マリリン カッツ
ヴィオランジュ夫人:ヨランダ ヨーク エドジェル
セシル:ナターシャ ダトン ダンスニー:デーミアンジャクソン
ジェルクール伯爵:バーネビ イングラムルト プレヴァン:サイモンクーパー
今日は、朝からしとしと冷たい、冷たい涙雨の日です。風もたたきつけるほどさすように寒い日です。始まりがあれば、終わりがくることはわかっているけれど、なんとも切ない切ない東京千秋楽です。
今日は、トウヴェル夫人がヴァルモンに心を奪われて、一人部屋でもって行き場のない恋心に悶えるあたりから、もうウルウルきそうです。愛してはいけない男を心底愛してしまっているその事実をふりきろうとするように踊りつつ、もっと奥深いところでは彼が来るのを待っている。やっと訪ねてきてくれた人を追い返そうとはしてみるものの、本当の自分は彼を求めて胸に飛び込んでしまう。そんな矛盾と葛藤しながら、しだいに情熱の中に身を投じ、愛する人の腕の中に溺れていく喜び。それを受け止め、彼女の魂を高めていくヴァルモン。人が愛しあう姿をこんなふうに胸にせまりくるほどに表現できるものなんだと思うと、涙ぽろぽろこぼれて、悲しくないのにダンスで泣けるなんて初めてでした。二人がそこにつくりだす世界は、何者も侵すことができないくて、永遠の中の一瞬、人の一生で一番輝いた瞬間のきらめきに満ちていました。それはあまりに脆くて儚くて、次の瞬間には壊れてしまうのですけど。
今日は、久しぶりのナターシャセシルです。デーミアンとの組み合わせは初めてですね。この前の人妻が、可憐な美少女です。ヘレンよりも、もう少し大人の女性になりかけていて、少女なのに女性としての魅力が垣間見えています。有体にいうと、なまめかしいくらいですね。デーミアンは、軽いヘレンセシルになれているせいか、ナターシャは、ちょっと重そうでかわいそうでした。ただ、ビジュアル的には美男美女の若カップルで、ヘレン&デーミアンの守ってあげたいタイプというより、きれいすぎてちょっとこわしてやりたくなるような感じ。メルトイユ夫人が燃えたくなるわけです。ヴァルモンのレイプシーンもなんだか、生生しかったです、ひさしぶりに。ヘレンの最初の頃もびっくりしてすごいわ〜と思っていたけど、だんだん慣れてきて、身軽なヘレンとのレイプシーンはダンスシーンのような美しい見ごたえになりつつありました。が、今日のナターシャは、太ももあらわでヴァルモンの野望めらめらこちらにも感じました。
今日は、ジェルクール伯爵は、初のバーネビイングラムさん。リチャードクルトさんが、あまりにぴったりなので、彼にはかなうまいと思っていたけど、お金持ちの俗っぽい貴族はイングラムさんのほうがむしろぴったり。クルトさんは、少しお上品でしたかね。
もう、何もいうことのないくらい大満足の最終日でした。この3週間、若いダンサーたちの日々成長する姿はすがすがしく、ベテランの安定した演技は熟成し、劇場に足を運ぶごとに新たな発見と感動がありました。正直、アダムの初めての大きなプロダクションだから、成功さえしてくれればいいと願っていました。彼のため息もののダンスさえみせてくれれば、それだけでいい、あとは、お客さんがはいればそれいいと。ごめんなさい、アダム。わたしは、何もわかっちゃいませんでした。あなたが、どんなに長いこと、このプロジェクトを温め続け、そして、あなたがこれほどの才能を花開かせることのできる人であることを、この公演を見るまで本当に実感していなかったんです。あなたほど、踊ることで人の心を動かせる人ならば、それ以外の才能が必要だなんて、普通は考えませんよ。それなのに、この演出、構成、美術、ダンサー、スポンサー、ちゃんとまとめあげて、きちんとしたひとつの傑作に仕上げてしまうなんて。ステージのあとの気さくな笑顔の青年は、こんなにも才能にあふれたアーティストであったなんて。
’危険な関係’の初演の地として、ここ東京が選ばれたことを本当に嬉しく思います。アダムクーパーの才能の最初の結実として、リアルタイムでその瞬間を共有できたことに感謝します。どうか、この作品が世界のできるだけたくさんの人の目に触れますように。そして、わたしのようにたくさんの人が、ヴァルモンの毒に犯されつつ、トゥヴェル夫人との愛のPDDに感涙し、最後はメルトイユ夫人とともに慟哭してほしい。つきなみですが、すばらしいアーティストと作品に出会うことは、人生の豊かささえみいだすことができるのです。アダムを好きになってよかった。アダム、美しいダンサーというだけでなく、あなたのその奥深い才能にも、今夜はグラスを傾けます。
|