2007年11月18日
ゆうぽうと(東京)
ジゼル:島添亮子 アルブレヒト:ロバートテューズリー
ヒラリオン:中尾充宏 ジゼルの母:板橋綾子
バチルド:楠本郁子 ミルタ:大森結城
わたし、このチケットを8月から買っていたのですよ。身内でもなく、先週の椿姫につられたわけでもなく、こんなに早くから楽しみにしていた人なんて、わたしとデマチでみかける髪が長くてきれいな人くらいじゃないでしょうか。私立の日本のバレエ団をガラでなく単独の全幕公演ってこれがはじめてかも。今日は、いつもバレエ公演でおなじみの人々に会いませんでしたね〜。かわりに、髪をシニヨンに結い上げた細い少女たちがいっぱいお母さんたちときてました。こんな少女の頃から、こんな公演みれるなんて幸せだね〜とか、娘におしゃれさせていっしょにバレエ観れるなんて幸せだね〜とか、ほのぼのアットホームな会場の雰囲気でした。
前置き長くなりましたが、本日もいってよかったです。最初のSoirees Musicalesは、覚悟を決めていたし、短かったので、それほど何も思わずにすみました。これが、マクミランとは思えないわという感じはしましたし、衣装が日本人には似合わないということはありますが。踊りをみるかぎり、う〜ん、悪くなさそうだし、ジゼルも無難にこなしてはくれるでしょうという予感です。
テューズリーの古典を見れる日をどんなに待ち望んでいたことでしょう。それも、くるみや眠りや白鳥でなく、’ジゼル’で観れるなんてありがとう。彼の’マノン’を最初に見たとき、そのクラシックな雰囲気とダンスにこの人は、クラシックの人なんだわと強く確信し、そういう演目を見たい、観たいと思い続けていたのです。もちろん、’椿姫’もフェリガラもものすごく楽しみではあったのですけど、’ジゼル’のアルブレヒトは今年一番のお楽しみだったかもしれません。そして、そして、この期待にたがうことなく、想像どおりのノーブルな青年貴族を見せていただきました。彼のアルブレヒトは、一幕はいかにもプレイボーイ風です。まわりが日本人ダンサーばっかりの中に、一人ノーブルな方がいらっしゃるという感じなので、ジゼルがころっと恋に落ちてしまうのはしょうがないねとものすごい説得力。身をやつした姿をしてみても、その育ちのよさは隠せないみたいな感じ。ジゼルが発狂してからは、ちょっとその姿にひいちゃったりするのだけれど、育ちのよさが出て、自分の責任とジゼルへの愛しさを隠せないで思わず駆け寄ってしまい、ためらいながら逃げていく解釈もよかったです。ここ、逃げるだけの人もいるそうです。二幕は、まさにわたしが観たかったところ。こういうバレエでテューズリーを観たかったのよ〜という場面満載です。男性ダンサーのピークは35歳というけれど、まさに今、その年齢にいて、精神面と体力面がきっちりクロスしてよい時期なんでしょうね。こういう時に、まさにそのダンサーに似つかわしい演目でみれる機会にめぐまれた幸運に感謝します。本日も2列目、オペラグラスなしにしっかり堪能させていただきました。
このジゼルがよかったことは、わたしの心がテューズリーで曇ってばかりいるからではありません。小林紀子バレエの方々は大変よかったです。ジゼル役の島添さんの田舎娘ぶりといい、ヒラリオン役の中尾君の素朴さといい、アルブレヒトとの身分違いの部分が妙に説得力があるのです。ヒラリオンは、アダムとかパケット君がやったと聞いていたので、今まで、DVDとかでみるたびになんでかっこいい人がやらないんだろうとか思っていましたけど、所詮ヒラリオンは田舎の純朴な青年なんですから、実はかっこいいというのは正しくないんです。中尾君は、毛皮の衣装なんか自分で絶対に撃った狐に違いないわと思えます。初っ端に花束と獲物をジゼルの母に渡すところなんて、ほ〜んと田舎のあんちゃんで、’おばちゃん、これ、食いなよ’という声が聞こえてきそうな感じでした。そうかと思うと、バチルド役の方は、きちんと威厳があり、ふんっという感じの気位が高い貴族のお姫様として問題ありません。あと、村人を演じた男性ダンサーたちがなかなか上手で、日本のバレエも捨てたものではないなと感心しました。これは、ひとえに、オーストラリアバレエから借りた衣装も一役買っているとは思われます。東京バレエの白鳥の湖をみた時は、その色彩感覚におどろかせられ、日本のバレエの古典は美術は苦しいものがと思った記憶があります。なかなか自前のオリジナル衣装をそろえるのは大変かと思いますが、そういうところは無理せず海外のバレエ団から借りてくるというのはよいアイデアだと思いました。
一幕の村人たちもよかったのですけど、意外にもわたしの苦手なウィリーたちのところもよかったのです。だいたい、わたし、女性だけの群舞苦手なので、DVDでは飛ばすのですね。白鳥の二幕とか、ラバヤデールの影の王国とか。そういうわけで、ウィリーたちの場面を眠らずにみたのは初めてです。このウィーリーたち、なんと、マシューボーン版のシルフィードみたいな怖い系メークなのです。特にミルタの人。ミルタって、ウィリーの女王みたいな人で、幽霊といえどもきれいな人というイメージだったのです。が、このディーン版なのか小林紀子風なのかわかりませんが、白塗りにえらいチークシャドウを濃くいれて、こわい顔で踊るのですよ。他のウィリーたちも白塗り。唯一、ジゼルだけが普通メークで、まだ心がウィリーになっていないのを際立たせていたように思います。
わたしは、生でジゼル見たのがはじめてだし、DVDとかでも、それほどまじめに観てないので、他のバージョンとの違いはよくわからないのですけど、気づいたことを少し。村人の踊りのところで、花車みたいなのが出てくるのは他ではみたことありません。あと、絶対これはディーン版だけだよねというのが、一幕でジゼルが発狂するところで、後ろにウィリーがさっと一人走るのです。これは、なかなかの演出でしょ。あと、ジゼルの発狂時と、二幕のウィリーがヒラリオンを囲んで踊り殺すところに、稲妻が走ります。これもよい感じでした。最後にここが一番ディーン版でよかったわと思ったのが、ジゼルとアルブレヒトの別れの場面。ジゼルは、地面に沈んでいくのでなく、お墓をはさんで互いの腕を伸ばしながら、左右に別れていくのです。ここは、切なくて、ちょっとじ〜んとして、泣けそうになりました。それまで、アルブレヒトにはジゼルが見えているようで見えてなかったのではないかなと思える場面がいっぱいあり、やっと最後に姿が見えたのに別れを告げねばならないように思えたのです。
先週に引き続き、大満足のバレエ観劇でした。こんなことなら、昨日もみたかったわ。小林紀子バレエの人々、スタッフの方も親切だし、ダンサーさんたち上手だし、テューズリーがここに客演してくれることは大歓迎です。フリーのダンサーというのは、いつみれなくなるかわからないという危機感はぬぐえませんが、このように身体一つでやってきて、各地のバレエ団で実力にみあう役を次々みせてくれるというのはフリーならではだと思います。わたしの一番愛しい人にもこのようであってくれたならと思わずにはいられません。
|