2007年11月11日
新国立劇場(東京)
マルグリット:田中祐子 アルマン:ロバートテューズリー
伯爵:イルギスガリムーリン アルマンの父:森田健太郎
プリュダンス:厚木三杏 ガストン:冨川祐樹
先週の初日に引き続き2度目です。前回は、期待が大きすぎたせいか、がっかり感が隠せませんでしたが、今日は別物のようによかったです。これは、わたしがテューズリーが好きで心が曇っているせいなのかどうかはわからないのですけど、何だ、この充実感はというくらい本日は、いってよかったわバレエという感じです。
本日は、1階の前のほうでしたので、オペラグラスもなく、表情までみえたこともあり、物語が細かく伝わってきたように思えます。たしかに、これは、オペラ版の亜流だなという印象はぬぐえないものがありますが、コピーの’あなたしかいらない、あなたのためになら死ねる’というアルマンとマルグリットの愛の物語がちゃんと語られていたと思いました。全体を通して、二幕のディヴェルティスマンの箇所以外は、わりと細部までゆきとどいた心理描写があったのだなと今日発見した箇所も多くありました。牧阿佐美流の’椿姫’と思えば、こういうのもありなのだねとちょっと納得できる作品かもしれないと思えたりもしたのです。
本日のマルグリット、田中祐子さんは、容姿こそザハロワには遠く及ぶべくもありませんが、マルグリットそのものとしては悪くなかったのですね〜。と、いうか、よかった。彼女は、牧の人なので、牧阿佐美の狙いを的確に体現できる人なのかもしれません。娼婦なのに気高い気品とか、少女のような純愛というタイプでなく、高級娼婦として、いろんな人に抱かれて、いろんな人生生きてきたけど、最後は本当に愛する人にめぐりあった一人の女性の姿が、静かに切なく現されていました。大人のマルグリットですね。男性が誰でも惑わされてしまう女性の魅力のようなものは感じなかったけれど、マルグリットの人生の最後の悲しい部分はよく演じられていてよかったと思います。
ここからは、すみませんけど、冷静ではないかも。本日、どうしてもよかったことの理由はテューズリーなのですよ。わたし、やっぱりこの人好きだわ。わたしがやってほしい役を、やってほしいように、このように踊っている姿をみたいというように踊ってくれる人なのです。この人って、フランスのいいとこのお坊ちゃん役とかやると、ほんとしっくりくるのです。マトヴィエンコでは、どうしても違和感いっぱいだったタイツ姿も全然気にならなかったし。先週の伯爵がとても大人の男性だったのに比べ、こちらは、青二才そのものの若者です。マルグリットにむき出しの感情をぶつけて、愛して、嫉妬して、傷つけて、自らも傷ついて。わたしは、先週、何をみてたんだろうと思ってしまいました。アルマンが、これほどまでに感情豊かに描かれていたなんて。特に一幕最後のソロがよかったです。思いっきりバレらしいバレエを堪能させていただきました。
田中祐子さんとテューズリーのペアを観るのは2回目なのですけど、相性がいいのかも。日本人バレリーナと外人男性ダンサーって、妙に違和感あるときあるんです。上野水香さんと、マチュウーの時がそうでした。田中祐子さんとテューズリーはしっくりきてましたね。田中祐子さんは、大人の女性という感じですが、テューズリーのアルマンは十分に若さにまかせた情熱があり、ノイマイヤー版のハイデとリスカの感じに近いような感じがしました。今回演じた女性ダンサーの中では、一番お姉さんなので、考えれてみれば年齢的にはテューズリーと組むしかないのですけど、特に年齢行き過ぎていてどうかなと思うところはなかったです。惜しむべきは、ザハロワ&テューズリーの美男美女ペアはみたかったかなと。あと、酒井はなさんとテューズリーとか、ザハロワと菊池研君とか意外な組み合わせもみてみたかったかも。今後、この作品を継続上演するならば、マルグリットもさることながら、アルマンを誰にするかはとっても大事ではないかと思いました。
前回から、いいんだか悪いんだか判断つきかねていた、最後にお父さん登場は、やっぱりいらなかったと今日はっきり認識しました。ここは、パドドゥで美しく決めたほうがよかったです。はっきりいって、邪魔でした森田さん。最後のマルグリットの過去が走馬灯のように行きかう中で、あれは全部夢という人もいるし、実際アルマンとお父さんが間に合ったという人もいますが、とにかく、マルグリットはアルマンの腕の中で果てるわけです。お父さんが許しを乞うことよりも、やっぱりそっちのほうが大事だと思うのですよ。アルマンが一人、マルグリットを送るべきなのです。今度からは、お父さん、遠慮してください。最後のマルグリットが息絶えたとき、マトヴィエンコは号泣してましたけど、テューズリーは、力がぬけていくように静かに絶望していたのが印象的でした。
演じる人間がかわれば、作品がかわるというのはよくいわれることですが、今回はそれを顕著に感じました。先週とうってかわった充実感。牧の椿姫、そんなに悪くはないです。
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