2007年11月4日
新国立劇場(東京)
マルグリット:スヴェトラーナザハロワ アルマン:デニスマトヴィエンコ
アルマンの父:ゲンアーディイリイン 伯爵:ロバートテューズリー
プリュダンス:西川貴子 ガストン:イルギスガリムーリン
この作品は、アレクサンドルデュマフィスの小説’椿姫’を牧阿佐美が振り付け、新国立バレエが演じたものです。
わたしは、’椿姫’には思いいれがあるのです。ノイマイヤー版のDVDを観て以来、原作も感動したし、オペラも生でみました。お友達から、新国立でザハロワとテューズリーが出て’椿姫’をやると聞いて、何ヶ月も前からこの日を心まちにしていたのです。残念ながら、ザハロワ&テューズリーのマルグリット&アルマンの組み合わせの日はありませんが、ザハロワがマルグリットの日に伯爵役でテューズリーが出るというので、やはり今日ははずせない日であったのです。
今回のこの作品をどのようにとらえるかは、観る側の期待度に左右されるのではないかと思います。わたしの場合は、期待が大きすぎて、レビューは辛口なものになると思われます。作品としては、決してつまらないものでもないし、一劇場のオリジナル作品としては、よくまとまっていたし、美術や音楽の選択も垢抜けていたし、ダンサーもよくやっていました。通常なら、成功といってよいのかも。だけどね〜、わたしからすると、牧阿佐美の解釈、浅い、甘すぎって感じ。この人、原作読んでないのではないのかしら?展開も構成もオペラとほぼ同じなのです。たしか、原作に忠実にとか書いていたわりには、ノイマイヤー版より、全然端折ってるし、原作と違うところが、オペラと同じだったりするし。オペラ版のラトラヴィアータを牧阿佐美風にアレンジしてみました風の作品となっていました。そうだ、本当にそう、これは、オペラをバレエにアレンジした作品だったのだと今、気づいた。それも、軽めにね。オペラをテンターティメントにした感じ。こうしてみると、ノイマイヤーはやっぱり天才だ。牧阿佐美とノイマイヤーのレベルの違いをひしひしと感じた作品であったのです。
まあ、作品の解釈と構成、演出部分で不満は残るのですけど、今日はやっぱりいってよかったです。何がよいって、ザハロワですよ。もう、最初から最後まで、美しくて、美しくて、世の中に女性として生まれてきた価値を人々に分け与えているような存在感でした。マルグリットは、高級娼婦でいながら、伯爵夫人の気品に劣ることもない美しさをもった女性です。その外見だけで、原作のマルグリットが蘇ってきたようでした。牧阿佐美の解釈が甘かろうとも、それを超えてマルグリットそのものをつかんでいたように思います。この人が、この役をやっちゃったら、後の人々どうするんだろうと思います。別のお話になってしまうのではないでしょうか。ザハロワは、フェリとかハイデのように女優のような演技をするわけではないのですが、重力を感じさせないしなやかやなからだから繰り出す動作そのものが情感があります。彼女がそういう雰囲気を持っているのかどうかわかりませんが、その美しさに目がくらんだ我々の想像を深いところへといざなうような気がします。好きです、ザハロワって。
アルマン役のマトヴィエンコは、う〜ん、とってもおばかな青年に見えました。実際よおく考えるとアルマンって、ばかなんだけど、小説でもノイマイヤー版でもアルマンがおばかなだねと感じたことは一度もありません。牧阿佐美は、アルマンとマルグリットの純愛を描きたかったそうです。だからって、このアルマンは子供っぽすぎ。一人だけ、灰色のタイツというのも妙な違和感なんですよ。他の人々は、当時のパリ風に夜会服をきているのです。マトヴィエンコがいけないのか、牧阿佐美がいけないのかは他をみてみないとわかんないですけど。純愛で子供っぽいわりには、ひたらすらに思い続ける感じが弱いのです。これを来週、テューズリーがどうやってやるのかしら?と全く想像もつきません。そういえば、今回のアルマンって、嫉妬の部分が描かれてないのです。ただ、愛しい人を子供がおもちゃをほしがるように求めていただけみたいな軽い愛に思えてしまったのでした。マルグリットが最後に胸がしめつけられそうなくらいアルマンを思い、求めながら死とむきあう場面も共感できませんでした。
お父さんの登場が半端でした。オペラ版はお父さんが結構重要人物で、原作よりもしつこく登場するのを牧阿佐美は踏襲したようです。が、オペラ版よりもさらっと自分なりの解釈をいれていたので、最後に父親が来たのは、見ている側には???な感じでした。父親が息子との別れを迫る部分も短くて、知らない人にはわかりにくかったと思われます。
次は賛否両論だと思いますが、わたしとしては、二幕最初のディヴェルティズマンは不要だと思います。だから、これはオペラのバレエ版なんだわと思います。バレエ団の人々の仕事を増やすためには必要かもしれないけど、この時間を費やすなら、もっと描きこむところがあるんじゃないだろうかとその他の浅い演出に無駄な飾りがついたような印象を持ちました。
上記、いろいろ書きましたけど、悪くはないのですよ。衣装もシックだったし、新国立のダンサーの方々は、動きもきれいで、ビジュアルも醜くなく、安心してバレエとして楽しめました。新国立バレエって好きなのです。ただ、椿姫という作品がやはり難しいのかな。演じる側より、作品そのものに問題があるというのは残念です。
そして、最後にやはり書かねばならぬでしょう。本日は、バレエらしいバレエが少なく寂しくはありましたが、伯爵役のテューズリー素敵でした。夜会服にロイヤルバレエ風のお髭、気品ある貴族の紳士というのはこの人にとても似つかわしいです。ザハロワとのコンビでアルマンを観たかったわと何度もマトヴィエンコのバレエを見ながら思ったのでした。
と、いうわけで、次回は来週、田中祐子さんとテューズリーで同じ作品を観ます。がんばれ、田中祐子さん。
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