Review
レビューというよりも、観劇ノートのように感じたままをそのまま綴っています。


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 [146]   On Your Toes ロンドン公演
2003年9月4日、5日、6日ソワレ
ロイヤルフェスティバルホール(ロンドン)
Junior Dolan : Adam Cooper,
Konstantine: Irek Mukhamedov, Vera : Sarah Wildor
Frankie : Anna-Jane Casey, Sergei : Russel Dixon,
Peggy : Kathryn Evans
 
ただ、アダムに会いたくてロンドンまで来てしまった。
わたしは、市販されているビデオや過去のTV番組の映像をのぞいては、SWAN LAKEのアダムしか知らない。
SWANでなければ、次は’マイヤリング’や’オネーギン’をやるアダムを観てみたいと思っていたので、どうして今ごろミュージカル、それもコメディなんだろう?と思いつつ、アダムをもう一度観たい気持ちが押さえられなくてロンドン行きを決めた。
 
ロンドンは、とっても遠くて、アダムに会えるまでがあまりに長く感じられたので、ついに幕があいて、ロシアバレエが登場し、ジュニアの子供時代が終わって、音楽教師になったアダムが登場したときは、大げさだけど、夢のようで、こんないいことが現実に起こっているんだろうかと思うほどだった。
平凡な音楽教師という役どころなのだろうけれど、最初から、実はとっても素敵。スーツ姿にめがね、きれになでつけた褐色の金髪。ファッションモデルのようだ。彼のSWANでのダンスと演技で心を壊されたはずなのに、やっぱり外見が好きというのも否定できないなと再認識した。
 
講義をしながら、いよいよアダムが歌う。
バリトンでもなく、テノールでもなく、アダムの声といった人がいたけれど、まさにそのとおり。
伸びやかで、すんでいて、この人になんて似つかわしくて素直な歌声なんだろう。
歌い方も単語の一つ一つ、まるでネイティブでないわたしたちのためかのようにクリアに聞こえるように歌ってくれる。
やがて、生徒が帰ってしまった後、こっそりシューズを着替えてめがねをはずして、始まるタップシーン。
踊りだすと彼は急に大きくみえる。
タップを踊る彼をみるのははじめてなのに、ああ、アダム!帰ってきたんだわ。と、ふりあげた腕をみたとき、待ちつづけた瞬間がもどってきたことを実感した。
ここでのタップシーンは短くて、途中で終わってしまう。
 
えっこれだけ?と思っていたら、まもなく、愛を告白したジュニア(アダム)とフランキーの歌いながらのタップシーンが始まる。
アダムは、自分がどんな風にすれば、魅力的にみえるのかをよくわかっているのだと思う。 彼自身が振りつけたこの作品は、このタップシーンをはじめ、わたしたちが、ああ、アダムだわ!と胸がときめく振付が随所にちりばめられている。
 
タップシーンを堪能したあと、舞台はヴェラ(サラ)の部屋へと変わる。 昔、シュトゥトゥガルトでハイデが演じた役をサラがやると聞いてどうかなと思っていた。わたしの中でのサラはお姫様のようにはかないイメージだったから。
ところが、そのイメージは裏切られて、気位が高くて、無邪気で、奔放なロシア人のプリマがぴったりはまっていた。 サラはこの先、女優に転身するのではないかと思う。演じることが楽しくてしかたないようなノリノリのテンションだった。
生徒の書いた傑作をロシアバレエに持ちこむため、フランキーの叔母、ペギーのはからいでこの気位の高いプリマの元を訪れて、成り行きからジュニアは、ヴェラの誘惑に負けてしまう。
 
それから、少しして、フランキーに再会するが、ジュニアはロシアバレエへの出演がきまり、フランキーの不安な気持ちもすぐには気づかない。気まずい思いをだきながらも、気持ちをたしかめあい、ふたりのデュエット。 アダムが歌うのは嬉しいけど、個人的にはこのシーンはあまり好きではない。
いきなり、旅行をイメージした場面展開、ミュージカルなどにはありがきなのだろうけれど、なんだか唐突。
 
この唐突なシーンが終わるとプリンセスゼノビアの初演の日のシーンとなる。
本当は1週間後に出演するはずの舞台に急にジュニアは出演することになる。
’プリンセスゼノビア’は、バレエを知っている人がみるととっても面白いそうだ。
いろんな古典のパロディのようになっているらしい。
とにかく、しばらくはきちんとした作品として、バレエは進行していく。
サラもムハメドフも見事だ。
このミュージカルのおいしいところは、物語のおもしろさだけでなく、劇中劇のバレエも楽しめるところだ。
プリンセスゼノビアはどんどんもりあがってきたところ、奴隷にふんしたアダムが登場。踊りもぎこちなく、メークも中途半端。 どんどん、舞台をこわしていく。
舞台もそうなのだが、アダム、ものすごく、悪のり。そこまでやるの、アダム、という感じ。 思わず、彼の日記の’Cuty Butt’が頭に浮かぶ。
客席は爆笑の渦のなか、第一幕が閉じた。
 
第二幕のはじめの頃。
ペギーとジュニアが話しながら、やがてダンスの始まるシーン。
ここは、とっても好きなシーン。
SWANをひきづりながらみているわたしは、女王とストレンジャーのダンスシーンを思い出す。 ペギーは、女王のようにスマートでなくて、年齢相応な体型の女性だが、リフトのシーンは重みを感じさせることなく、自然。 彼自身も素敵だけれど、どんな女性もきれいにみせる人なんだなと思った。
 
ロシアバレエに生徒の傑作’十番街の殺人’を演じさせたいジュニアとペギーは、ロシアバレエのマネージャーのセルゲイに生徒たちの歌をみせて認めさせようとする。
ジャズをバレエで表現することに抵抗をしめしていたセルゲイも生徒の歌を聞いて、ついに承諾する。
ここは、いまいち、どうしてそういう展開なるのかわかりにくいところであった。
’十番街の殺人’という曲はすばらしいのに、なかなか認められず、それとは曲調のちがう’静かな夜’を聞いて、’十番街の殺人’が次の公演の演目に決まってしまうのだ。
 
そんなことを思ううちに、舞台はこのショーの見せ場のひとつ、タップとバレエの競演と変わる。
ここは、赤い衣装のロシアバレエ、水色の衣装のタップダンスと色使いも華やかで、タップとバレエが見事に融合している。
右舞台端のアダムが気になりつつ、この競演にも目をうばわれ、少し忙しい場面だ。
 
この場面が終わると、舞台は’十番街の殺人’のリハーサルシーンへ。
ジャズのビートをうまくつかめないコンスタンチン(ムハメドフ)の演技が笑える。
ムハメドフといえば、’マイヤリング’や’三人姉妹’でのりりしくて、荘厳な印象のダンサーだ。 そのムハメドフが、ジャズバレエをばかにしつつ、それにのりきれないで言いたい放題なのだ。そのうち、みかねたジュニアの指導に取っ組み合いのけんかになり、ムハメドフは気を失ってしまう。
騒ぎを聞きつけてやってきた警官をごまかすため、ジュニアがリハーサルだといって踊ってみせる。
そこもまた、わたしたちとしては、嬉しいくらいにアダムのダンスなのだ。
その見事なダンスをみて、セルゲイは彼を’十番街の殺人’の主役に決める。
それを面白く思わないコンスタンチンは殺し屋にジュニアの暗殺を依頼する。
最後のシーンでピストルを撃つときをねらえば観客も気づかないだろうと。
 
その裏で、ペギーとセルゲイの会話のシーン。
ここは、正直、英語がわかりにくいこと、アダムがでてないので集中力が落ちていることで、一番わからなくてのれないシーンだったが、現地の人が大絶賛する場面だ。ペギーがよっぱらって歌い上げるシーンは、アダムのタップより、十番街のダンスより拍手が多かったかもしれない。 修行をつんで、このようなシーンも楽しめるようになりたいものだと思う。
 
いよいよ’十番街の殺人’開幕。
それまで、心優しき音楽教師そのものだったアダムが一転して、黒い衣装でHooferとして登場。
まだまだSWANをひきづるわたしは、これがストレンジャーよりかっこいいといわれている役ねとわくわくしてくる。 さっきまで、ペギーの歌声とペギーへの喝采の中、意識が遠のきそうになったことが嘘のようだ。
サラが演じるストリッパーといい関係になったところで、サラが突然、殺されてしまう。 死んだストリッパーを抱きかかえながら踊るシーン。 ストリッパーを抱きながら泣くシーンで、やっぱり思い出してしまうSWANの四幕。 次次と現れるストリッパーの亡霊たちと踊りながら、ストリッパーの死に絶望していくアダムにメモが届けられる。 それは、暗殺計画を知らせたものだった。 このあと、本当は絶望して自殺をするシーンがひかえていたのだ。 ダンスをやめてしまえば、撃たれてしまう。
アダムは最後のシーンを繰り返す。
踊るほうはとってもハードなダンスなのだが、こちらとしては、終わらないでという祈るような気持ちなので、’again!’,’one more time!’の声のたび、少し嬉しい気持ちでみている。
やがて、警察がかけつけ、殺し屋たちが逮捕されるのを見届けて、アダムが’Yes’と叫んでの自殺シーンと共に’十番街の殺人’が幕をとじ、’十番街の殺人’のカーテンコールと共に’On Your Toes’も幕を閉じる。
 
’十番街の殺人’のラストシーンは、とても激しいダンスだ。 それを3回もくりかえし、演技の中とはいいながら、アダムが消耗していくのは少し胸が痛い。 でも、カーテンコールのシーンでの満足げですがすがしい表情をみると、彼がこの作品を愛していることが伝わってくる。 バレエという枠にとらわれたくない、あらゆる可能性を試してみたいといっていた彼の最初の作品は、彼の過去の作品に見劣りすることなく幕を閉じた。
 
’SWAN LAKE’で壮麗な白鳥、セクシーなストレンジャーとして世界を魅了した彼だが、それだけが彼のすべてはなかったのだ。やはり彼の一面である、もしかしたら、彼自身に近い自然体の陽の部分こそが、この’On Your Toes’の中に、作品として残せたといえるのではないだろうか。
わたしは、いつまでも、また彼のSWANが見たくてしょうがなかった。ダンサーとしての限りある時を考えると一刻も早くと願わずにはいられないでいた。しかし、アダムはそんなわたしに決して後悔させることのない、いや、それどころかアダムの魅力がいっぱいつまった作品を新たに見せてくれた。
彼のダンスが好きだ。
あの長い腕を大きくふりあげて、しなる体が好きだ。
今度はいつ会えるのだろう。
SWANを待ちながらも、彼の新しい挑戦が楽しみだ。
’On Your Toes’の終わりといっしょにわたしの夏も終わり、少しだけSWANを卒業できたような気がする。
 
update:
2004/09/13



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