2007年8月6日
東京文化会館(東京)
本日は、夏休みのため、十分に休養をとって上野に向かいました。毎日バレエが観れて、会社にも行かなくてもいいなんて、こういうことを夢のようだというのでしょう。そして、今夜は、さらに夢のような競演の夜でもあったのです。
わたしは、フェリの引退ということよりも、フェリの踊る演目とか、ゲストダンサーが楽しみでこの公演のチケットを買いました。そのせいか、フェリが最後というファンの深い感慨の念をそれほどもたずにガラそのものを楽しむことができたと思います。こんなに素敵な仲間と作品を集めたフェリの実力はやはり拍手を送るべきで、感謝しています。そして、何より、どの作品もどうして、また全幕で踊ってくれないの?という強い気持ちをもって、フェリの去る姿を見送らなければいけない事実が彼女のバレエダンサーとしてのすばらしさだと思います。ありがとう、フェリ。気持ちがかわったら、いつでも日本で踊ってね。
’シンデレラ物語’
シルヴィアアッツォーニ・アレクサンドルリアブコ ノイマイヤー振り付け
これは、日本でもあまりおなじみでない演目だと思います。初っ端にこのような作品をもってきて、しっかり客席をひきつけてしまうハンブルグパワーひしひしと実感です。ノイマイヤーの振り付けは、とてもバレエっぽいのに、セリフが聞こえそうなくらい物語です。アッツォーニが白い長いドレスで美しいです。これが舞踏会のシーンとは思えませんが、恋におちた王子の情感は、きっとシンデレラの物語での王子の気持ちそのものなのでしょう。ハンブルグペアは、このような男女のからみを見せたらかなうものなしという感じ。ハンブルグが次にくるときは、’椿姫’と’幻想白鳥のように’と思っていましたが、’シンデレラ物語’も追加してほしいわ。今日、かえり際に、リアブコに’椿姫といっしょに日本にきてね’といったら、’I'll try’とのことです。
’カルメン’
アレッサンドラフェリ・ロベルトボッレ プティ振り付け
これ、最初はテューズリーが踊るはずだったんですよ。去年のバレフェスの時、フェリと組んで、大変よかったものね。短すぎたけど。それが、直前にボッレにチェンジ。とことん、おいしいところはもっていきます、ボッレ。最初、ボッレが黒い短いジャケット着て登場します。おお、かっこいいです。去年のバレフェスでは、このホセのソロはなかったのです。ここは、またまたAプロの’エクセルシオール’に続きボッレのファンへのサービスでしょう。今日は、黒いお洋服だし、たいへん目福なシーンでした。いろいろ考えると、今回のAプロ、Bプロを通してボッレ的に一番よかったところかもしれません。が、あとがいけません。カルメンのフェリは、それはもう、ジゼルやジュリエットとは違った子悪魔的な魅力がたまりません。そういえば、’こうもり’の奥さんの時もこんなでしたよ。
逢瀬の朝、ホセをひきとめて、堕落へと導くその姿は、どんな男もあらがえないという感じ。で、ホセなんですけど、ホセじゃないんですよ。なんか。そんなに知っているわけじゃないけど、今までみたテューズリーにしてもニコラにしても、結構大人の素敵な男の人が、男性としての魅力も十分に発揮しつつ、突然カルメンの魅力にあらがえなくなって落ちていくという感じだったのです。ボッレは、大人のかけひきというか、大人の男性が、壁際に追い詰められてじりじりおちていくような焦燥感と衝動みたいのがないのですね。彼の場合、ロミオとホセののりが同じって感じ。もしも、これが大人の男性が演じたなら、多分フェリの中では本日一番であったのにと思います。
’アポロ’
パロマヘレーラ・ホセカレーニョ バランシン振り付け
わたしは、この作品を観るのは初めてです。土曜日のことがあるせいか、カレーニョの動きはやっぱり美しいわ、クラシックっていうのは、こうあるべきよね〜、と結構ありがたい気持ちでみていたのです。いつもビジュアルにはうるさいわたしですが、カレーニョの白いタイツ姿もさほど気になりはしなかったのですけど。が、幕間に以前’アポロ’を見た友人たちが口々に、カレーニョの白いタイツはどうもだめだ、テクニックうんぬんじゃなくて、’アポロ’のイメージじゃない。と、結構厳しいお言葉でした。ABTは、今回分が悪いのですよ。前後が秀作にはさまれちゃったからね。
’インザミドルサムホワットエレベイテッド’
アリシアアマトリアン・ロバートテューズリー フォーサイス振り付け
わたくし的に本日、一番の作品でございました。これまでの数々の暴言お許しください。テューズリーのコンテはクラシックテイストだなんだと文句いったり危惧したり、ばかなわたしでした。ボッレとかわった時は、貧乏くじだと思ったけど、はずれたのはボッレの方でした。よかったよ〜、テューズリー。この作品は、クラシックテクニックをとりいれて、ぎりぎりまでバランスを崩した作品と解説にありましたが、まさにそんな感じ。テンポがあり、不規則ながら不思議なリズムがあり、どうやってカウントしているのかわからないような難解な流れ。そんな音楽にたしかにのって、繰り広げられるバランス、男女のかけあい。アマトリアン、Aプロに続いて、見事なコンテンポラリーです。いいですね〜、この人好きになっちゃいました。踊れる人同士の火花が散るような技のせめぎあいのような緊張感です。今回の収穫としては、’ヘルマンシュメルマン’とか、この’インザミドルサムホワットエレベイテッド’など、苦手と思われたコンテンポラリーを本当に楽しめたこと。ギエムが有名ですけど、この2人の’インザミドル、、’はまた違った味わいで、見る価値ありだと思います。また、テューズリーのコンテンポラリーみたいです。←なんて、気がかわるのが早い奴だと思われてもいい。観られるものならば、なんとでもいってください。
’メドウ’
ジュリーケント・マルセロゴメス ルボヴィッチ振り付け
まあ、これもABT分が悪いね〜。コンテンポラリー続いちゃった上、その直近の’インザミドル、、’の会場の興奮さめやらぬまにでしたからね。これは、とてもゆっくり目の音楽が美しい、コンテンポラリーです。ゴメスが、ケントを抱きかかえて、ゆっくりゆするような、浮いているようなポーズが多く、観るときに観れたら、きっと見ごたえもある作品だったのかな。だけど、どうも続けざまに見ごたえのあるコンテンポラリーをみたせいで、ちょっと飽きてしまっていたのでした。
’マノン’ 寝室のパドドゥ
アレッサンドラフェリ・ロベルトボッレ マクミラン振り付け
このシーンは、マノンとデグリューが一番幸せなときのシーンですね。マノンが、お手紙を書いているデグリューにちょっかいだして、かまってかまってといううちにデグリューもつい、そのかわいさにもりあがっちゃうところです。かわいいですね、フェリ。ちょっとジュリエットぽい。こんなかわいいマノンが、このすぐあとに、ムッシュMGのプレゼントにくらくらして誘われちゃうなんてとても想像できないです。フェリのマノンって、イノセントな感じなんですよ。ファムファタールの部分はどんな風に表現したのかしらと思うくらい。これ、前にロホでみた時、同じシーンでありながら、なんかデグリューに哀れがただよっていたのを忘れられません。こんなに愛した顔をみせていても、次の瞬間には裏切られるんだよという思いが消えなかったから。フェリのマノンはそういうのがないのですね。興味深いです。これで、フェリのマノンがみれないというのは本当に本当に残念だとまたまた痛感させられました。ボッレは、また髪を結わえないというのは許せなかったけど、このシーンは無邪気に幸せで、幸せでよかったねという感じで、よかったのではないかと思います。デグリューっていうのは、このように先のことを考えないでつい今に溺れてしまうタイプなので、裏表のないボッレの演技ははまっているといえるでしょう。
’ロミオとジュリエット’
アレッサンドラフェリ・ロベルトボッレ アモディオ振り付け
これは、本日のフェリの中では一番よかったと思います。シーンとしては、ティボルトを殺したロミオがジュリエットのところにやってくるところだそうです。ジュリエットは苦悩しています。自分の従兄弟が一番愛する男の手にかかって死んでしまい、何を責めればいいのか、自分たちの愛の行く末はどうなるのか。ロミオとジュリエットといえば、バルコニーで愛することの喜びにはしゃぐシーンが多く演じられますが、さすが女優バレリーナのフェリらしく、このような苦悩のジュリエットもみせてくれます。ボッレのロミオもAプロのマクミラン版よりよかったかも。感情の暴走にまかせて、人を殺めてしまったあと、どうしてよいかわからず、愛する人のもとに救いを求めるかのようにやってくる感じがストレートにでておりよかったです。どうして、日本で上演される前に引退しちゃうんでしょうね、フェリ。
’ドンキホーテ’
パロマヘレーラ・ホセカレーニョ プティパ振り付け
まあ、これは、もうカレーニョからのご祝儀的演目じゃないでしょうか。’海賊’もよかったけど、こういうのを踊るといいと思っていたのですよ、カレーニョって。ラテン系の上、美しいくらいのクラシックのテクニックのある人だから。期待を裏切ることなくよかったです。ヘレーラのキトリも悪くはなかったけど、カレーニョのバジルのレベルかなというとちょっと違うかも。これは、フェリの作品の続いて上演されながらも、見劣りしないで十分楽しめた一品でした。ガラだね〜、ガラにはドンキでしょうという定番、それもありがたいカレーニョのバジルでした。
’マーキュリアスマニューバース’
シルヴィアアッツォーニ・アレクサンドルリアブコ ウィールドン振り付け
ハンブルグペア、今回はノイマイヤーじゃないのだね。音楽とか、雰囲気は似てますが。
このペアは、何を踊っても、なんともいえない男女の情感が漂っています。これは、ハンブルグテイストなのかな。このような人々が、’インザミドル、、’みたいな無機質なものを踊るとどうなるのだろうと思ったりして。とか、ちょっと関係ない雑念みたいなことがはいってきたのは、先ほども申し上げましたように、ちょっとコンテンポラリーに飽きがきていたのでした。このようなしろうとのためには、’シンデレラ物語’と順番入れ替えていたほうがよかったかも。
’ルグランパドドゥ’
アリシアアマトリアン・ロバートテューズリー シュプック振り付け
わたしは、この作品があることをおとといの夜まで忘れてました。だから、テューズリーは今回コンテンポラリーばっかりと思っていたら、おととい、この演目に気づき、どんなクラシックかしら?と期待をよせていたのです。で、始まったら思い出しましたよ。これ、今年の4月くらいにNHKで観たわ。クラシックといえども、かなりコメディーな作品です。女性は、チュチュなのにめがねをかけており、赤い小さなハンドバッグをかかえています。男性は、ちゃんとしたバレエの白いタイツの王子様風のコスチューム。なぜか、チュチュをきた牛?が舞台にいます。男性ダンサーは、大真面目に踊ろうとしているのに、女性ダンサーはバッグに気をとられて、おざなりのダンスです。時々舞台から消えたりします。きちんとしたクラシックの振りの合間に、コミカルな動きがはいり、笑わせてくれます。先ほどのきりっとしたコンテをみせたアマトリアンですが、今度はうってかわってコメディエンヌです。ためらいなく、思いっきり演じているので、みていて気持ちがよいです。テューズリーはもう見本のような男性クラシックダンサーそのものですので、アマトリアンに翻弄されたり、怒ったり、きれいにポーズをきめたあとに、のぞかせる劇中劇の素の顔がこれまたおもしろいです。こんな風にクラシックでありながらユーモアいっぱいの作品。ガラの途中の息抜きとしても、アクセントとしてもよいタイミングで見せてくれたと思います。こういう作品を選ぶというのもなかなか憎いな〜と思いました。
’真夏の夜の夢’
ジュリーケント・マルセロゴメス アシュトン振り付け
う〜ん、またまたABT分が悪いね〜。出し物として何がいけないってことはないのですけど、ここにきて、お楽しみ度合いの低い出し物でした。ABTってこれというのが、他にないのでしょうか?’オセロ’でみたゴメスを信じたいんだけど。何か、この人、もっとすごいものを持っているように思えるのですよ。ジュリーケントは、何をやっても美しいんですけど、それを引き立てるためにゴメスが作品を選ぶなら違うような気がします。彼は、なんかもっと激しいもの、男性的な作品でみてみたいです。ゆえに、なんで、緑に塗って、ケントを抱きかかえ続けるゴメスばかっりみせられるのかなと欲求不満になりそうな気分でした。
’椿姫’
アレッサンドラフェリ・ロベルトボッレ ノイマイヤー振り付け
これは、ちょっと期待が大きすぎた傾向があります。大好きすぎる作品だからね。フェリがやると聞いては、’マノン’並みのものを求めちゃうじゃないですか。ブローニュやデュポン、ギエムではかなわなかったハイデのみせたマルグリットの抑えてほとばしる強い情念を期待しちゃったんですよね。たしかに、フェリのマルグリット、切なかったです。別れていたものの、雪の夜に再会して耐え切れずアルマンと交わってしまう、ただつきすすむだけでない、ためらいとの葛藤。あと、他の人は、このシーンではそれほどまだ感じないのですけど、フェリの場合は死の影もあるんです。そういう表現はもうフェリの独断場ですもんね。で、何であのハイデの情念、雪の夜でいながら、もえあがる炎を感じさせるものがないのかと考えると、これは、ボッレのせいなのでした。彼のアルマンって、これはもう独特。もしかして、これは、ミラノスカラ座バージョンではないかと思ったくらい。そういえば、ハンブルグって、リスカとリアブコには通じる情感あふれるアルマン、パリオペは、ルグリやニコラのちょっと大人の常識もあるアルマン、それぞれ、ホームグランドでの解釈があるように思えます。ボッレは、基本的には、ロミオとかデグリューなんですよ。人のこととか、あとさきのこととか考えず、裏表なく、思いのままに突き進んじゃう感じ。その場の雰囲気に流されるというか、それまでのマルグリットへの思いとか、裏切りとか別れとか、切なさとかそういうひっくるめたもろもろの背景が全然みえてこない、だけど、今はマルグリットを求めてるみたいな。へえ〜、こういう椿姫もありなんだわとかなり冷静にみることができました。よかったとは思います。が、パートナーかえて、フェリの椿姫観てみたかったな〜という思いも消せません。
またまた、好き勝手を書いてしまいましたが、本当によいガラでした。少数精鋭というか、見ごたえという点でもテクニカルな点でも、作品出演者、みなすばらしかったです。日本にいながら、これだけのものを2夜にしてみれるなんて、なんて幸せなことだろうと思います。フェリを知ることは遅すぎたように思えるけど、こうして、いくつかの作品をみた後に、彼女を送る公演を迎えられたことはよかったと思います。だけどね、繰り返しますけど、気持ちがかわったら、絶対にためらわずに帰ってきてください。日本のファンは、待っていますよ。もう一度、’マノン’でも’カルメン’でも、誰もだめとはいわないから。
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