Review
レビューというよりも、観劇ノートのように感じたままをそのまま綴っています。


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 [44]   トーチソングトリロジー
2006年11月23日
パルコ劇場(東京)
アーノルド:篠井英介 エド:橋本さとし アラン:長谷川博巳
デイビッド:黒田勇樹 ローレル:奥貫薫 ベッコフ夫人:木内みどり
 
前回、アメリカ系のストレートプレーはあまり好きじゃないかもと書きましたが、本日はすっかりその言葉をくつがえされました。同じく、ゲイの出てくるお話で舞台はニューヨークなのですが、今日は最初っから最後まで、ぐいぐい舞台にひきこまれて、ちっとも疲れを感じませんでした。三幕ものなのですが、一幕ごとが独立したお話のようで、しっかりつながりがあり、登場人物が生き生き描かれて笑いあり、じ〜んとしてほろりとするところありと、舞台ならではの楽しさを存分に味あわせていただきました。
 
お話は、ゲイのアーノルドが働くクラブから始まります。アーノルドには、エドという教師で郊外に農場をもつ恋人がいますが、エドは最近女性とつきあっている様子。エドはバイなのです。その女性ローレルとつきあいつつ、アーノルドとも別れたくないエドですが、2人は口げんかして別れてしまいます。何ヶ月か後、再びアーノルドを訪ねるエド。エドはアーノルドを恋しく思いつつ、ローレルとは続きます。エドはアーノルドとつきあっていたことをローレルに話しており、ローレルはアーノルドを週末の農場に招待します。アーノルドは、恋人のアランを伴って農場を訪ね、アーノルドとアラン、エドとローレル、4人はそれぞれの思いをぶつけつつ、隠しつつ、複雑に関係を結んでいきます。農場からもどると、アーノルドとアラン、エドとローレルは婚約します。それからさらに数年。アーノルドは養子のデビッドと暮らしており、エドはローレルと別居してアーノルドのところへころがりこんできています。そこへ、アーノルドの母がやってきて、息子の生活を責めます。アーノルドの母は、息子がゲイであることを受け入れられず、養子を育てることに批判的です。自分を認めてくれない母を責めつつ、デイビッドをゲイとして育てようとする自分の姿勢が母のそれと重なることをデイビッドから指摘されるのでした。
 
アーノルドが実に魅力的なおかまなのです。おかまのゲイは、一瞬の情事の相手にされがちです。それでも、アーノルドはいつも人を本気で愛し、人の話をよく聞き自分もよく話ます。篠井さんの語り口がよいのですよ。この方、関係ないけど、アダムのファンで雑誌の対談を読むととても頭のよさそうな方です。OYTの公演でお見かけしたこともあります。いつか舞台を直接拝見したいなと思っていたのです。その思いが叶った上、この作品のグレード大変嬉しく思います。一幕の最初の語りや、エドと別れるところは、未練がましくて、すてられやるいおかまのゲイかなと思いましたが、二幕、三幕とすすんでいくうち、アーノルドは思慮深くて、やさしくて、母のような大きさを持った人だとわかります。篠井さんの知性が出るような役でした。
 
このお芝居をみようかなと思ったのは、橋本さとしさんが出ているから。身勝手だけど、憎めない男にも女にも愛されるエドの役はぴったりでした。今回は、歌がないのが残念ですけど、レミゼまでは、我慢、我慢。エドは、バイであることをローレルには話してありますが、両親やまわりの人間には言えないで世間体を気にしています。それでも、やっぱりアーノルドと離れることができません。全く勝手な男なのですが、女って、こういう男性をふりきれないのです。アーノルドも同じです。
 
アーノルドが本当に愛した男性アランを演じたのは、長谷川博巳君。お初です。すごく美青年という設定のようですが、容姿は普通でした。すっきりとした現代的な男の子でした。アランは、その恵まれた容姿ゆえの特権と苦難を承知しており、純粋な好奇心をもって農場でローレルともエドとも関係を持ちます。それでも、アーノルドに対しての愛はかわらないのでした。この男の子がアーノルドの側にいてくれることで、アーノルドがとても救われているような気がしました。この子とずっと幸せならいいなと思っていましたが、アランはとおりで不良に殺されてしまいます。
 
奥貫薫さんというのは、基本的に女性には好かれないタイプの役をやる方ですね。TVでも、あんまり好きじゃないわ、この女という役多いです。今回も、う〜ん、この路線。ただ、ローレルって、ちょっと哀れがあるのです。いつでも恋人は、気づくとバイなのです。自分を愛してくれつつ、男性と浮気をされてしまい、それを乗りこえようと精神科のセラピーをうけ、エドとしりあったのです。過去の経験から、エドのことも認めようと努力し、結婚までこぎつけますが、結局は破綻してしまいます。アーノルドに婚約のことを告げにきたのは、そんな暗い未来を予感していたのかも。
 
黒田勇樹君、大人になりました。最初にTVでみたときは、まだ声変わりもしてなかったように思うけど。黒田くん演じるデビッドは、両親に虐待され、とおりで身体を売っていましたが、保護されて里親にひきとられるものの3回も追い返されます。アランが死ぬ前に養子申請をしていた関係で、デイビッドがアーノルドのところへやってきて、デイビッドは彼を育てることに決めます。デイビッドもゲイですが、アーノルドはそんな彼にゲイでもりっぱに生きていくことを教えようとします。
 
アーノルドのお母さん、木内みどりさん、お久しぶりです。この物語は2人女性がでてくるのに、何でかこの方だけが唯一の女性という印象でした。夫との愛に生きて、真っ当な生活をのぞんでいるのに、息子がゲイであることを受け入れられない母の姿がよかったです。息子の生き方を認めようと努力するものの、そのひとつひとつに批判的です。そんなベッコフの愛ゆえの姿は、デビッドにはアーノルドに重なるものがあるのでした。
 
アーノルドの姿をみていると、人生の大切なものは、何よりも自分が信じる道を歩くことなのではないかと考えされました。幸せは、誰かが与えてくれるものでもないし、誰かが責任もってくれるものではない。自分が自分でいられて、その信じるところに誠実に生きていくこと、その姿こそ大事なのではないかと。そこで出会えた人との関係を大切にしていくこと。なかなか奥深い作品でした。
 
 
 
 
 
 
 
 
update:
2006/11/23



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