2006年4月22日 ソワレ
東京文化会館(東京)
オデット・オディール:マリ=アニエス ジロー 王子:ジョゼ マルティネス
家庭教師ウォルフガン・ロットバルト:カール パケット 王妃:ナタリー オーバン パドトロワ:エミリー コゼット、ドロテ ジルベール、エマニュエル ティボー
前前から、ジョゼの’白鳥の湖’は見てみたいなと思っていたのです。今回、パリオペがくるにあたり、一番の目的はマチューガニオを生で観るでしたが、演目的にどうしても’白鳥の湖’にこころひかれ、妥協案として一番安いお席を二つとも買うことにしました。で、今回、もうお得意のまたまた5階席です。しかも、今日はこわいこわい1列目です。
今回は、ヌレエフ版。映像にもなっていないので、初めてのお目にかかるバージョンです。道化もお友達もなく、王子がものすごくいっぱい踊ります。そして、最後が、めちゃめちゃ悲劇。こんなに救いのない’白鳥の湖’も初めてです。ヌレエフ版は、まさに王子が主人公の物語なのでした。
クラシックの’白鳥の湖’って、なかなか幕があかないじゃないですか。が、ヌレエフ版、結構早くに幕が開きます。王子が椅子で眠りながら夢みているエピローグ。後ろでは、お姫様が何物かに空へ連れ去られており、マントのようなものがひらひらはためいており、王子の夢をあらわすようです。あれ、これって、どこかで観たわ。そうです、そうです、マシューボーンの最初のシーンに似ているのですよ。マシューボーンは、絶対ヌレエフ版みたと思うな。
プログラムを読むまでは、それとわからなかったのですけど、王子のお誕生日のシーンが始まります。屋外でのバージョンなどみたことありますけど、今回はあきらかに宮中。女性ダンサーは、みんな同じようなお洋服ですが、男性ダンサーは、オレンジ、うす紫、ブルーっぽい白のコスチュームで、どういう公式があるのかわかならない色配置です。ここの群舞は、みせてくれます。これまでみた、’白鳥の湖’の一幕の群舞の中で、一番好きかも。一幕だけど、王子も時々踊ります。結構、踊ります。ゼレンスキーがちっとも踊らなかったレニングラードバレエの時とは大違い。だけど、王子、すぐ椅子でお休みします。ジョゼの王子って、わりと感情表現がうすいような気がしました。このお誕生日にしろ、三幕の舞踏会にしろ、あんまり責任の重さとか、その場のつまんなさを表にだしていません。だから、王子がオデットに出会うまで、いや出あったあとにさえ、どういう心持ちでその場にいるのかちょっと伝わりませんでした。一幕後半、王妃がやってきて、王子にもう大人であり、お妃選びをしなくてはいけないことを告げます。
そして、ここからでございます。ヌレエフ版のクライマックス。ではなく、私的クライマックス。今日、来てよかったよ、まさにツボにはまったシーンが。ヌレエフ版の重要人物、家庭教師のウォルフガンと王子のパドドゥです!あの’白鳥の湖’といえば、この曲だよねという、アダージョ。通常は、湖を背景に王子がじっと見つめていたり、白鳥の人形が泳いできたり。マシュー版では、アダムが美しく月に照らされた水面をすべるシーン。そこが、このバージョンは、家庭教師があやしく王子にささやきかけながら踊るのですよ。この曲に、この演出。こうきたか〜。それにですね〜、本日の家庭教師&ロットバルトのカールパケット君、よいのですよ。お友達が貸してくれた’パキータ’のDVDでイニゴの役をやっており、よき印象でしたので、わたしは、パケット君にあたりたいなと思っていたのです。だけど、当初の予定では別の人になっており、マチューの怪我の降板とともに発表された配役交代で今日に変更になったときは嬉しかったです。二幕終わって、幕間の休憩の時、同行した友が口をそろえて、このシーンがツボだった、パケット君がかっこよかったと大盛り上がりでした。なんだ、みんな見ているところは同じなのね。
で、王子&オデットの2幕はどうだったの?そうですね〜、印象はうすかったというか、一幕終わりが印象強すぎて。パリオペの人々って、みなさん、おきれいなのです。そのせいか、オデットだけが光輝いているということはなかったです。前にみたザハロワさんだけ、オーラを発しているわというような感じではありません。ジョゼ&マリ=アニエスですから、ビジュアル的にはばっちりです。上品で、いかにもプリンス&プリンセスの舞。群舞の白鳥さんたちが、すごくいっぱいいてびっくり。もうでないだろうと思ったはしから、まだまだ四羽、8羽と増えていきました。一幕であやしさを放ったパケット君ですので、ロットバルトはどうかな?と思ったら、二幕のロットバルトは、う〜ん家庭教師のほうがかっこよかったわとちょっと残念気味でした。
三幕。ご存知、各国の踊りが始まります。家庭教師はどうしたかしらと思ったら、残念ながら、舞踏会には呼んでもらえてなかったようです。DVDで観たブルメイステル版では、ここは斬新なコスチュームで、今回はどんなでしょう?と思っていたら、これもある意味斬新かもと思ったパステルカラーでした。スペインの踊りやチャルダッシュって、なんだか原色と金のドレスのイメージだったのですけど、スペインなんて、うす紫です。各国の踊りが終わるとお姫様たちが登場し、王子がお相手します。ゼレンスキーの王子様は、最初っからオデットのことしか頭になくて、誰とおどっても気がはいってなくて、哀しくて、あ〜あって感じでしたが、ジョゼは各国おどり見ているときも普通だし、お姫様たちのお相手だけ、気がなさそうにするだけで、オデットとの恋に身を焦がしている感じがなかったです。ちょっと王子がブルーになったとき、新しい来訪者が。ロットバルトとオディールです。う〜ん、このロットバルトはかっこいいじゃん。出席者たちがパステルカラーなのに、オディールは黒、ロットバルトは深緑で異彩をはなちます。マリ=アニエスさん、オデットよりオディールの方がいい感じ。王子は、ころっとだまされ、ロットバルトにじらされながらも、オディールに近づき、踊り、オデットとまちがっているのだか、オデットの影にひかれたのか、オディールに魅かれていきます。この間、おなじみのオディールの32回転ありました。あと何回転だかわかんないけど、その後王子もけっこう回転します。これは盛り上がりますね〜、と思ったら、ロットバルトのソロもあるじゃあないか。なんて楽しい三幕だ。オデットとのパドドゥの時は、常にロットバルトがうろうろしているのですけど、マシュー版で音楽がきりかわって王子とストレンジャーが向き合ってダンスを踊るシーン。もしかして、王子とロットバルトが踊るのでは、、、とういのは期待しすぎ妄想しすぎでした。普通にオディールと王子のパドドゥとなっていました。王子は、ついにオディールに結婚を申し込みます。ここから、取り返しのつかない悲劇の始まりです。王子は、自分が誤った相手に愛を誓ったことの後悔にさいなまれ床に倒れたまま幕が降ります。
通常、ここで休憩なんですけど、パリオペの人々は働きます。ちょっと長めに幕が降りたら、もう4幕です。王子はまだ倒れています。あれ、ず〜と倒れたままだったのかしらと思ったけど、舞台はもう湖のある森の中です。オデットの悲しみが蔓延したように他の白鳥たちの悲しい舞が続きます。ここでも、すごくたくさんの白鳥が踊ります。オデットはどこへ行ったのかしらと思うくらい群舞が続いて、やっと王子はオデットを見つけ出します。ここでは、それまで感情うすかったジョゼ王子も悲しみとオデットへの愛がいっぱいです。どうにか、あの偽りの誓いを取り消して、オデットを救い出し結ばれたいと願う王子ですが、願いはむなしく、あの男、ロットバルトが立ちはだかっています。4幕、音楽盛り上がります。悲劇が最高潮に達するとき、わ〜い(とはあまりに不謹慎ですが)、また、王子とロットバルトのパドドゥだ。闘っているはずなのに、なんだか官能的なのです。そうか、わたしは気づきましたよ。家庭教師はロットバルトでもあり、王子を愛していたのね、そして、王子が心ひかれた相手と結ばれないうように王子の恋を阻止しようとしていたのです。だから、この争いの場面さえ、なぜだかオデットとのパドドゥとよりも愛を感じてしまうのではないかしら。で、王子、ロットバルトにつきとばされ、オデットはロットバルトにさらわれてしまいます。倒れた王子の背後で、空にのぼっていくロットバルトとオデット、エピローグの夢と同じ光景が。
ヌレエフは、自身ダンサーだったから、こんな王子の物語をつくりたかったのでしょう。’白鳥の湖’は、マシュー版をのぞいては、通常はオデットが主役で、王子はそれに花を添えるような存在だったけど、つきつめればこうしてきちんとした青年期の苦悩を綴った物語として描くことができます。’白鳥の湖’のような知られた作品で、自分の存在感をあらわせるような作品をめざしたのではないかと思うのです。さらに、それを王子の目線だけでなく、王子をみつめる妖しい家庭教師、オデットとの恋を邪魔するロットバルトと重ね、そこにその歪んだ愛を加えたことがこの作品の大きな魅力となっていると思います。面白かったです、ヌレエフ版’白鳥の湖’。すてきでしたよ、ロットバルトのパケット君。来週は、パキータのイニゴで見れるといいな。わたしのフランス語とパケット君の記憶がまちがってなければ、今度の土曜日の午後、パキータに出演するそうです。本当なら、マチュー降板だけど、転売しなくてよかったです。
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