2005年7月20日 マチネ
Her majesty theater(ロンドン)
Phantom : Earl Carpenter
Christine : Rachel Barrell
Raul : Oliver Thornton
Carlotta : Sally Harrison Piangi : Rohan Tickell
Madame Giry : Heather Jackson Meg Giry : Heidi Ann O'Brien
Monsieur Firmin : Richard Hazell Monsieur Andre : Sam Hiller
オペラ座の怪人がどうのこうのでなく、はっきりいって、オリバー君を観たかったのです。今回は、もちろんメインテーマはアダムですが 、同行する仲間たちは同様に面食いぞろいですから、できることならこの青年の美しさを見てほしいという思いもありました。が、よ〜く 考えるとマチネ一発勝負でアンダーにあたったりしたりしたらどうしよう、どうしようと、もうこの日のキャスト表をみるまでわたしは、 気が気じゃありませんでした。それに9月には、キャストチェンジがあるはずなので、今回がオリバー君のラウルの見納めとなるのですから 。ほんと、このキャスト表みるどきどきは、Swan Lake以来でしたが、よかった、オリバー君でした。
チケットマスターで、なんとか2枚だけよいお席がとれたので、友人たちにはくじびきしてもらい、わたしは、最前列の左端センターよりの 一番よいお席を優先的にいただきました。オークションの場面がはじまります。老人メークの車椅子のオリバー君が側にいると思うと、顔 が微笑みにかわるのをおさえきれません。シャンデリアが動きはじめます、高い高いハーマジェスティシアターの天井に向かって、この壮 大な物語の始まりです。
もうすでに、この舞台も3度目ですし、今年は映画も公開されたので、展開はもう頭にたたきこまれています。ハンニバルのリハーサルの場 面は、シャニイ子爵の登場はありませんので、冷静です。オペラ座のマネージャー交代のリハーサルの日、また不穏な動きがあり、プリマ のカルロッタが去ってしまい、バックダンサーのクリスティーンがアンダーを勤めることになります。クリスティーンの緊張した声が響き ます。そして、わたしもこのクリスティーンのどきどき感と同期して、胸が高まります。だって〜、次はバルコニーに子爵様の登場場面な んですもん。おお、あの白い手袋、黒い燕尾服姿、まぎれもないあのお方は、オリバー君、いやラウル、ヴィコントドゥシャニイじゃあり ませんか。まぶしいわ。ひさしぶりに見ると、輝くばかりの美しさにちょっとくらっとなりそうです。
クリスティーンの初舞台は大成功です。楽屋にラウル子爵様がワインをもって訪ねてきます。幼い日に恋人同士だったふたりは、ともに美 しく成長し、また恋心がよみがえります。それを影でみていたファントムは怒りとくやしさを抑えられません。クリスティーンの楽屋に仕 掛けをした鏡から地下の自分の館へとクリスティーンをさらっていきます。この辺からの展開は、この一幕のみせどころ、湖にろうそくが うかび、ファントムの館へつづく場面です。ファントムの’Music of the night'もあります。レイチェルさんの歌声は、もう年末に確認済 みですが、さすがです。クリスティーンがかわいだけじゃなく、実力の歌姫であることを堂々証明してくれます。で、ファントムのアール カーペンターさんですが、ヴィブラート聞かせすぎじゃありません?声が細く聞こえるのですよ。ファントムって、音楽の天使というくら い歌がめちゃくちゃうまい人という設定なので、もうちょっと、力強く聞かせてほしいですね。まあ、後半に期待しましょう。
クリスティーンが行方不明になったオペラ座のオフィスにファントムから手紙がきています。その手紙は、ラウルのもとにもカルロッタの もとにも届いているようです。一同に集まって、この出来事をふりかえってみます。シャニイ子爵様ったら、もう左端の支配人の机に頻繁 におとずれるのです。机のある位置から、十分にその麗しいお顔は拝見できます。が、もっと、もっと前方へ近寄ってくるのです。ええ、 もう、これ以上近づかないで。と、わたしの心は乱れはじめます。遠めに十分美しい顔が、一歩一歩、その歩みごとにくっきりと浮かび上 がってくるのです。ああ、もうだめです。わたしの冷静さの許容範囲を超えてしまいます。わたしは、今夜、アダムにも会わなければいけ ないのに、この心の乱れをどうしてくれましょう。もう、これは、浮気を超えて、精神的不倫を冒した気分です。
もう、息がとまるかと思うほど、美しいラウルの姿を堪能したあとは、まあ通常の展開です。ご機嫌ななめだったカルロッタをなだめて、 イルムートの幕があきます。本当は、クリスティーンに主役をやらせたいファントムが仕掛けをしたのか、カルロッタは歌えなくなり途中 でクリスティーンと交代し、舞台はまた大成功をおさめます。その成功の影にファントムの存在を感じ、クリスティーンはラウルを伴って 、屋上へと逃げます。ここも、わたしとしては、くらくらのシーンです。ラウルとクリスティーンの愛の場面ですからね。’All I ask of you'です。これ、I love youとはひとこともいわないのに、愛してね、いつもどこでもいっしょにいてねと繰り返すことで、大好き大好き といっているような歌です。ふたりの気分は、大盛り上がりでくちづけをかわします。美しいです。クリスティーンの方が年上にみえなく もないけど、まあいいや、声量が完全にクリスティーンに負けてるけど、まあいいや。絵のように美しい二人のキスシーンは、ファントム の嫉妬の炎に油をそそぐこととなりました。高い高いハーマジェスティーの天井から、あのでっかいシャンデリアが落ちてきます。
2幕は、マスカレードです。映画の人数にまかせた豪華さを知ってしまうとちょっと寂しいですが、やはり生は華やかです。軍服姿のラウル もなかなかよいです。映画のように、髪をゆわえてくれらたもっとツボでしたが。華やかなマスカレードの中、ラウルとクリスティーンは 秘密の婚約をします。そこへマスカレードで身を隠したファントムが自作のオペラをもってやってきます。オペラ座では、次回作’ドンフ ァンの勝利’のリハーサルが始まります。ファントムにおびえるクリスティーンは、自分を育ててくれた音楽の天使の存在をたしかめるた め、お父さんのお墓にでむきます。
そこで、クリスティーンの愛をとりもどせるかと思ったのに、またまたファントムは、ラウルにじゃまされてクリスティーンを連れ戻され てしまいます。ラウルは、確かにファントムの存在を確信し、今度こそやっつけてやろうと決意します。’ドンファンの勝利’の日、ラウ ルはオペラ座に警官を配置し、ファントムが現れたらつかまえようと準備します。警官が誤射してしまいますが、なんとか’ドンファンの 勝利’の幕はあきます。ここは、ラウルが出ないけど好きなシーンです。’Point of no return'、好きな音楽です。このときがもっともフ ァントムが幸福だったときではないのかと思います。ラウルがはいりこめない、クリスティーンとファントムの熱いデュエットのシーンで す。映画では、このシーンでラウルは涙を浮かべてみてましたね。これ、舞台でやってほしかったです。できれば、あの左端の5番ボックス から身をのりだして、ラウル子爵様が涙を浮かべて下をみつめてくださったなら。。。いけません、ここでまた立ち直れなくなるところで した。
舞台の最中、また人が殺され、クリスティーンはファントムに連れ去られてしまいます。オペラ座は大混乱し、出演者や警官たちが右往左 往しています。事情をよく知るマダムジリーは、ラウルをファントムの館近くの地下道まで案内します。そうでした、そうでした。ここか らです。もう、ノンストップでとまらない、わたしのラウルのシーン。黒い上着を脱ぎ捨て、ネクタイをはずし、白いシャツをはだけて湖 に飛び込むのです。やってくれるわ、オリバー君。ロンドンまで、また来てよかったよ。
と、ちょっと冷静になりましょう。クリスティーンは、ファントムの館で花嫁衣裳を着せられています。結婚指輪をはめられ、今まで音楽 の天使と信じてきた人が、この目の前の醜い怪人、殺人鬼だったのです。クリスティーンの不信はつのり、ファントムをののしります。そ こへ、湖からやってきたguestが。おや、これは、ファントムじゃないけど、an unparalleled delightです。そう、ぬれた髪で立つラウル 子爵様です。髪がぬれると一段とセクシーです。湖で悪戦苦闘したのでしょう、白いシャツの袖はちぎれそうです。ラウルを柵の中にまね きいれ、すかさず首に縄をかけます。ファントムの復讐の始まりです。ここからのシーンは、もうCDで聞いていても泣けそうになる大好き なシーンです。ファントムと、クリスティーンとラウルとそれぞれの愛をぶつけあって、思いをかわすシーンです。このミュージカルの見 せ所、3大歌手の聞かせどころ、、のはずですが、こうなるとオリバー君、弱いのですね。声が一人だけ、響いてないよ。声量が足りてない んですね。あのヴィブラートばっかりだったファントムも、さすがここは力強いです。ほんとは、迫力の歌声にひきづられ大盛り上がりの 歌のはずなんですが、わたしは別件でもりあがってしまいました。まあ、いうまでもありませんが、ぬれた髪でたって苦悩するラウル子爵 様ったら、もう、歌が遠く聞こえなくても、その心は届いています。幸いにも、首に縄をつけられていますので、先ほどのように近く近く まではいらっしゃいませんが、この曲の高まり、物語の高まりとともにみせられるその姿、完全に腰砕けにされてしまいました。
ファントムの愛の悲しさを感じたクリスティーンは、息途絶えそうな恋人の前でこの醜い男に長いくちづけを贈ります。ここは、胸にせま ります。やりきれません。愛なのか、哀れみなのか、ファントムの強引なふるまいが崩れ去るときです。ラウルの首の縄をやききり、二人 を解放します。クリスティーンたら、結婚指輪かえしちゃうんですよ、そこまでしなくてもいいじゃない。おさるさんのミュージックボッ クスをかけて泣いているファントムの後ろをふたりで生きていこうねと船をすすませるラウルとクリスティーン。悲しい、悲しい音楽の夜 の終わりです。
ファントムの愛は悲しいわ、音楽は胸にせまるわ、オリバー君は美しいわで、もうわたしは、こわれそうでした。やっと息つけたか と思ったら、カーテンコールです。舞台がいちだんと明るくなり、まだぬれた髪でちぎれた白いシャツの子爵様が、微笑みながらまた登場 してくるではありませんか。ああ、明るいわ、この明るさのしたで、その姿。クリアすぎる。
劇場を出る頃に、わたしは、我をなくしておりました。そして、そのほんの2時間後にアダムの危険な関係でヴァルモン子爵様にまた 毒されねばならず、この夜ばかりは、生きて日本にもどれるのかどうか、その次の日のわたしはなくなっているのではないかと思えた日で した。濃すぎました、ロンドンの日々。
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